第26話 ひらがな版「なぎさの」体操着

 穂香ほのか(大)の身体を拭きふきして居間に戻してから、わたしはJA産直でなぜか大安売りされていた、椎茸リンゴちゃんなるワッペンの入ったジャージ姿となった。謎な補助金あたりで作られたのだろうけれど、穂香ほのか(大)のお財布にはやさしくていいね。


 お風呂上がりの絞りたてりんごジュースを二人分用意した。

 その間に、穂香ほのか(大)のアドレスに二階堂先輩からのメッセージが届いていた。


《君たちのゲノムのシーケンシングはほぼ終わった。凪沙野なぎさの君の体細胞ゲノムに特徴的な変異が見受けられる》

 といった本文だけの短いメッセージだったが、わたし達は「仕事、速っ」と盛りあがった。何しろ、1日でわたし達のゲノムの塩基配列読取シーケンシングを先輩は終えてしまったのだから。 

 

 穂香ほのか(大)は、再び目が醒めたようくキリリとした口調で

「イモウトよ、すぐに、また制服を着る必要あるようね」

 と、制服を着ることこそが大事であるかのように言った。


 紅潮気味の真剣顔まじがおがかなり可笑しかったけれども、表情には出さずに、

「そうねぇ。リボンくらいは替えて行こうかしら」

 といって、らしい制服の箱を開けてみた。


 どうやら夏服(らしいセーラー服)、冬服(らしいブレザー)共に替えリボンがついているようだった。次回はリボンはする交換ことになるわよね、と両方の制服用リボンを手にとって見比べてみた。

 夏服と冬服との間でリボンが交換できるならば、バリエーションは2倍に増えるここになる。どうだろうか?


(形が違うから無理っぽいかな……)

 頭の中で、リボンを付け替えてみるが、どうもしっくりとこない。特に冬服用のリボンを、らしいセーラー服につけたと考えるけっこう微妙な感じ。


 そんなことを思っていたわたしの肩を、穂香ほのか(大)がポンと叩いた。


 見返すと、穂香ほのか(大)は、白い服の袋を手に

「ねぇ、こんなのも附属していたみたい」

 とニンマリとしている。


 それは夏の部屋着にはよさそうな、上下の半袖体操着だった。上は白の体操着にゼッケン、下は赤の膨らんだ下着のような短パンだ。


「はい、ファッション・ショー♪」

 穂香ほのか(大)は手を上げ、本日2度目のエイヤーっをした。



 わたしは穂香ほのか(大)から体操着上下を受け取ると、今回は酔っぱらいの《えいやーっ》にはすぐに応えずに、穂香ほのか(大)のタブレットに触れ、調べものをする。

 

「これね、ブルマという奴らしいよ。まぁ、最近は、東方新社とかその手のサイトの推しに反応する向きはめっきり少なくて、ご年配のおばさま方がチャリちゃんで買い物行く時の赤パンツ代わりらしいわね」


 むろん、ご年配とまではいえないわたしだが、三十路脳の貫禄を持って赤のブルマをぴらぴらとした。


「ふーん」 

 本人的には渾身だったかもしれない《えいやーっ》をわたしにスルーされた穂香ほのか(大)は、テンションが下がったようだった。


(そうそう、落ち着いておくれ)

 と願いつつ、わたしは、らしい制服の箱に半袖な体操着上下を戻した。


 それを目にした穂香ほのか(大)は、アイヤーっとばかりに手を伸ばして、体操着上着を手にとった。

 何をするのかと見ていると、穂香ほのか(大)は、ゼッケンにひらがなで「なぎさの」と書きそえた。あれ、こんなのあったっけという、キラキラ金色ペンだった。


(まぁ、この手のラメ系は白地のシャツには隠されるわね)


 らしい制服のスポンサーである穂香ほのか(大)をスルーしたのが少し悪い気もして、まぁ、赤パンツ代わりに制服の下に、体操着上下を着てもいいかなと、わたしは算段した。


 ともあれ、もう満足ししでしょ、と穂香ほのか(大)を寝かしつけた。わたしも、椎茸リンゴちゃんジャージ姿でベッドに入った。

 

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