第21話 報告と確認

 一時間半に及んだ記憶の確認作業を終えたわたし達は、再び、二階堂先輩と向かい合って座った。


 穂香ほのか(大)が、わたし達を代表して報告をする。


「宮古島インシデントまでのミカ校に関するわたし達の記憶は、すべてが一致しました。一方で、イモウトの方には、断片的に、ですが、インシデントの後のミカ校に関する記憶があります。また、私が聞いたことがない単語もいくつか記憶にあります。サドガタン、と……」


「サドガタンがニ之姫。それに、イラブタンがニ之巫女姫と、人道的ゴールドラッシュ・プロジェクト、です」

 とわたしが補充する。


「……全く分からないが、造語が好きな面々がいるということなのだろうな」

 という二階堂先輩のお言葉に、あだ名とか造語が好きそうな面々がの方は、ミカ校生に何人も心当たりがあるなぁと思った……なんの造語かわたしにも全く分からないけれども。


「9kg分の体重がそれなのかはわかりませんが、イモウトは、インシデント後の宮古島から、この世界へのメッセージを携えているのではないかと、わたし達は思うようになりました」


「ふむ」と頷いてから一息をついて、先輩は話し出した。


「インシデント後の宮古島については、私が話せることはない。が、現代の生物医学の知見からは、凪沙野なぎさの君のBMIと体脂肪率の関係を説明できないことは、少なくとも認めざるを得ない。ここ10年ほどの間に各種の身体強化技術が実用化されてはいるが、これほどまでに劇的に体重を増やす類の技術をわたしは知らない」

 二階堂先輩は、らしいセーラー服のリボンのあたりに視線を向けつつ続けた。


凪沙野なぎさの君の勤務先となる四葉蛋白質工業はたしかに、身体強化技術の成長株企業だ……いささか驚異的な、な。けれども、2年くらいで、現代生物医学の常識を超えるような身体強化技術が開発され、人体に適用されるとは、僕には思われない」


「9kg分相当以上の体重差にあえて説明を試みるならば、凪沙野なぎさの君は、今持っている記憶の時代よりもずっと先の未来に生み出され、その未来から今日のここに至るまで、タイムリープや何かで送り込まれてきたのではないか、といったあたりか」

 二階堂先輩は額にシワを縦に寄せた。


 脳内年齢の6歳分の年齢詐称がバレた気がして、わたしはドキリとした。

 けれども、2052年に四葉蛋白質工業の広報をしていたわたしには分かる。少なくとも、2052年には外見年齢13歳女子の見た目と体脂肪をそのままに、体重だけを9kg増やすような技術は存在しないであろうことが。


「その、ずっと先の未来が、インシデント後の宮古島市の未来とつながってる、ということですかね?」

 わたしは、聞いてみた。


「当然ながら、僕がその問いに答えることはできない。僕にできることは、今の凪沙野なぎさの君の身体を、生命科学の見地などから調べ上げ、何らかのヒントを見出すことだね」


「イモウトの身体の調査に協力してくださるということでしょうか?」


「そうだね。凪沙野なぎさの君は、類人猿との類比でも説明がつかない存在だ。科学的な調査をするに十分に値する」


 そう仰った二階堂先輩は、具体的な調査項目について述べはじめる。

 まずは、体細胞の採取だった。わたしと、比較対象の穂香ほのか(大)は、綿棒でほほの裏側をぬぐい、容器に入れた。そして、容器の検体項目ラベルに凪沙野、穂香とそれぞれの区分名を書いた。


 検体ラックに、わたしたちの綿棒が入った容器を収めながら、

「ほんとうは、血液検査をしておきたいところだが、人体の血液検査では倫理委員会の承認が必要となってしまうからな」

 と、先輩はつぶやいた。


 それから、先輩は、わたしの方を向くと

凪沙野なぎさの君には、ちょっと爪を切ってもらえるか?深爪しない程度で良いが、足の指の爪もあると助かる」

 と押仰おっしゃった。


 この身体になって、はじめての爪切りね……わたしはパチンパチンと手足の爪を切っていき、渡されたビニールに入れていった。

 

 わたしの爪入りのビニールを受け取った先輩は、

「ありがとう。なるべく速くに、検査結果を報告したい」

 と押仰おっしゃった。

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