騒々しいギルドの中で
「グリフォン……って全然話を聞かないよな。前に出現したのはいつなんだ?」
「さあな。そん時は逃げられたってのは知ってる」
「何にせよ希少なんだろ?俺がもうちょっと早くギルドに来てればな」
「超常種だぞ。報酬はデカくても危険性が高い。俺なら受けねえ」
「失敗の可能性は――」
「成功だ!」
ギルドにて談笑する冒険者達の会話を断ち切るように、その男は勢い良く扉を開いた。興奮を隠さず、ギルド全体に響くような声と共に。
「アイラ達がやりやがった!捕獲だ!」
「っマジかよ!超常種をか!」
「気になるなら見てこいって!外壁近くで輸送中だ!」
「……い、行くか」
「だなっ」
ギルド内は騒然となっていた。グリフォンは金等級にまでは及ばないとはいえ超常種。そもそも超常種の出現例は少なく、謎が多い上に捕獲の例は皆無と言ってもいい。
「ちょっと違うわね」
「アイラ!」
もう一人、渦中の人物であるアイラが得意げな顔でギルド内に現れた。得意げな顔と仕草がクエストの成功を物語っている。
「私達、というより彼女――フリューゲルが立役者よってあれ?」
「……」
アイラの肩を叩く仕草は空振り、脇をすり抜けるようにフリューゲルがギルド内へと既に入っていた。その姿を見た瞬間、ギルドの熱が更に高まる。
「そりゃそうだろ!誰もお前が活躍したなんて思っちゃいねえよ!」
「んなっ!?ちょっと!」
「フリューゲルが同行してたってのは聞いてたんだ、そりゃそうだろ」
「いやあ、やっぱ本物だぜアイツは……」
「……すいません、報酬を」
数々の感嘆や賞賛を受けながら、フリューゲルは受付まで進み報酬を受け取っていた。
冒険者にとって武勇は誇り。自身や他者の強さを示す出来事には敏感だ。他の冒険者の功績を妬む者も少なからず居るが、純粋に関心や興奮を示す者は多い。
そして冒険者は何よりも、夢のある話を好む生き物だった。
「こりゃあ、金等級にだってすぐ行っちまうぜ……」
「おい!フェリエラとの喧嘩を見てたヤツは居ないか!また聞きてえよ!」
「……あの」
「お、おう。一度も見なかったぜ。ずっと見てたから間違いねえ」
しかし、そんな冒険者達もフリューゲルに直接声をかけようとはしない。その盛り上がりを尻目に、フリューゲルはとある冒険者へと声をかけていた。
「そうですか……これ」
短い会話を交わした後、フリューゲルはその男へと金を幾らか渡した。そのままギルドの端の壁に近づき、膝を抱え込むようにその場に座り込んだ。
一言も喋らずにギルドの出入り口を注視し、他人が寄り付こうとも思わないその様子は話題の人物とは思えない姿であり、その行動の意味を把握しているギルドの冒険者達は直接話しかける事を遠慮せざるをえなかった。
「ね、ねえフリューゲル、まだお昼だしどこかに出かけない?ほら!お金も今いっぱい入ったし、シェリルやさっきの子達と……」
「すいません」
「オ、オーウィンだって見つかるかもしれないし!歩いてたら偶然に、みたいな……」
「私が冒険者として活躍するのが、オーウィンさんの求めている事です。……私はここで待ちます」
オーウィンが突如として居なくなった事を知ったフリューゲルの様子を、アイラは鮮明に記憶している。
錯乱した状態でギルド職員に詰め寄り、街を駆け、あらゆる人々から情報を募った。祭りでの縁から見かねたアイラの静止を振り切り、それを何日か続けた末にフリューゲルはギルドにて倒れた。
その後、復調したフリューゲルは捜索を最小限に、何かを悟ったようにクエストを受け続け今に至る。
「
隈が浮かんだ暗い目、無造作な髪と雑な身だしなみ。その姿は多くの冒険者達に、フリューゲルの正体を知らせる事にもなった。
「というか、本当に鉛のバンシーだったんだな……」
「……俺、何回か酒飲んでた時にバカにしてた覚えがあるんだが」
「俺も」
「……」
「オ、オーウィン探してくるか!」
「だな!」
小声でバツが悪そうに話していた冒険者達は駆け足でギルドを去って行った。
フリューゲルがオーウィンと共に行動し、その時は今とは全く違う様子だった事を知る者は多い。
新たに現れた注目株の失調を気にする者や、新星のオーウィンの失踪自体に興味を持つ者は多く、捜索の輪はフリューゲルが関与せずとも広がっていた。
しかし、未だにオーウィンは見つかっていない。
「そういや、フェリエラは?」
「アイツは怪我だろ。……まあ、治ったとしても中々ここには来れないとは思うが」
「……んもー!本当にどこ行ったの!?ギルドには来ないし目的情報も全然無いし!前から銅等級なのに変に存在感あるとは思ってたけど……ああもう、何考えてんのー!」
この一ヵ月間、再び無茶をしないように見守っていた事もあり少なくない時間をフリューゲルと接していたアイラは理解していた。
『フリューゲルってさ、盾とか持たないの?いっつも剣一本だよね』
『言われてません』
『へ?』
『オーウィンさんに持てって、言われてません』
クエストの最中そう言い放ったフリューゲルの顔を、アイラは忘れる事が出来ない。
「この子にはまだアンタが必要でしょうが……!」
たとえクエスト中であれ、フリューゲルの目は常にオーウィンの姿を追っている。アイラはそう感じざるを得なかった。
「……!」
出入口を注視していたフリューゲルが僅かに反応をした後、また元の様子に戻った。
様々な話の種が生まれ更に活気づくギルド内に、新たな来訪者が現れたからだった。
「――久しぶりだなあ、ギルド」
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