後祭

 日没直前、終了を知らせる鐘の音がクエスト対象区域に鳴り響いた。今回は精力的な働きを見せた冒険者が多く、増加したモンスターを一気に間引くという大規模クエストの趣旨は果たされたと言って良いだろう。


 大規模クエストの性質上、冒険者達の小規模な揉め事や喧嘩は毎回のように発生するのがお決まりだ。冒険者達はそれも含めた非日常を楽しんだ事だろう。


「準備は出来たか?」


「はい!」


 クエスト終了後、俺達は一時帰宅しを整えていた。といっても、俺は特にクエスト時と変わらない。


 主に時間が必要だったのはフリューゲルだ。大規模クエスト終了後の通例を俺から聞いた時からどこか落ち着かない様子ではあった。


 今のフリューゲルはいつものような冒険者用の軽装ではなく、装飾が多めの服装だ。気軽に着れるドレスのような服らしく、買って来たと嬉しそうに俺に報告してきたのを思い出す。


 最近になって金に余裕が出来たフリューゲルが余暇の楽しみ方を覚えた証拠だ。


 非クエスト時の服装。剣は持たず、クエスト時はまとめている髪も解いた状態だ。


「行きましょう!オーウィンさん!」


 期待の籠った声でフリューゲルが家を出る。俺は後ろを振り返り家の中の光景を軽く見回した後、それに続いた。




 ☆




「凄い!凄いですよオーウィンさん!」


 そう言ってフリューゲルが指を向けた先には平時では見ないような幾つもの屋台や露店が並んでいた。


 それぞれが用意した照明によって辺りは昼のように照らされ、店主が商品に興味を惹かせる為に客に呼びかける声がそこら中から響き、俺達以外の冒険者や一般人達が道を埋めるかのように歩いている。


「祭りだからな」


 大規模クエストの内容自体を祭りと言う事も出来るが、どちらかというとそう呼ばれる理由はその後の方が大きい。


 元々はクエスト後、浮かれた冒険者達を相手に商売をしようと考えたヤツらがこの祭りの始まりだ。最初は小規模で店の数も少なかったが、大規模クエストが行われる度に規模が大きくなり今では一般人をも巻き込む催事になった。


「え!?……あれ!モ、モンスターを解体してますよ?」


「さっき冒険者達が倒したヤツだろうな。あれは見世物も兼ねてるんだろうが、商売人達が買い取った後にああしてすぐさま売りに出すんだ。俺達が倒したモンスターもどこかで売られてるかもな」


「そうなんですね……!――あっ」


 横を通りがかった通行人がフリューゲルにぶつかった。ここまで人が多いと立ち止まっているのは邪魔になる。


「行くか」


「はい!」


「……気を抜くとはぐれそうだ、手でも繋ぐか?」


 目を輝かせるフリューゲルは幼い子供のようだった。冗談交じりにそう言いながら手を差し出すと、俺の予想に反して慌てて服に擦り付けるようにして手を拭き、恐る恐る俺の手に重ねてきた。


「……はい」

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