開戦
俺達はひとまず倒したモンスター達を運び出す事にした。
ゴブリンはともかく、ハウンドボアとフォレストウルフは金になる。街へ繋がる川の一つ、そこに待機しているギルド職員の下へ死体を運び、輸送を頼んだ。
「――運が良いな」
「?……あっ」
討伐対象を探す中で、俺達はその光景に遭遇した。
「あれが金等級……凄いな」
「これが見れるだけでも参加する価値があるってもんだ」
木々が開けた空間で何かを取り囲む様に冒険者達が円を作っていた。
「――よっ、ほっ」
その中央に居るのはマークだ。両手で持つ事を前提とした大型の剣を持ち、以前フリューゲルが倒したヤツと似たようなオークと対峙している。
「あいつは金等級だ。これは遊びだろうが、見ておいた方が良いかもな」
「……はい」
このオークはあのオークのような人間臭さは無い。筋肉そのものと言って良いような肉体で暴力的な動きを繰り返す野生そのものだ。今も唸り声を上げながらマークに向かって突撃を繰り返している。
「よっと」
だがそれに対するマークの動きは軽い。振り下ろされた腕を避ける、その腕を足蹴にして距離を取る、再び突撃しようとしたオークが姿を見失い、困惑する。ここまでが一連の流れ。
「おら、よっ!」
そして、木を足場に宙に跳んでいたマークの大剣が隙を晒したオークの頭を切り落とした。周囲の冒険者達から歓声が上がる。
「おう、カッコよく倒せたか?お前ら俺に見惚れんのも良いが、ぼけっとしてたらサボり野郎だったって報告すんぞ!」
マークの軽口が冒険者達の笑いを誘う。
大規模クエストにおいて、金等級は銀等級以下の補佐と監視を義務として言い渡されている。ここには居ないがベルもどこかに居るのだろう。
金等級。
『フェリエラに気をつけろ。どうもお気に入りちゃんが気に食わないらしい。アイツがお前に拘ってんのは知ってるだろ?』
フェリエラは金等級。つまり、アイツもこのクエストに参加しているという事だ。
アイツの性格なら……。
「オーウィンさん」
「ん、ああ、何だ」
「あの人の動き……綺麗でした。迷いが無いというか」
「ヤツくらいになると、そもそも思考する時間が極端に短い。経験が体を動かしてるんだ。これは、実戦を重ねた先にある感覚だな」
「……」
俺の言葉の意味を考え始めたフリューゲルと同じ様に、俺も思考の続きを始める。
大規模クエスト。アイツの性格。フリューゲルが気に食わないというマークの情報。
俺の中で一つの答えが出たのと同時に、俺達を覆うような影が頭上を遮った。
「ワイバーンだ」
二本の足を持つ翼竜。この周辺では発見例は多くない。個体によって銀等級に相当するモンスターだ。
「アイツの死体は高いぞ。気づいたのは俺達だけじゃないだろうな」
「行きましょう」
「……いや、俺は少しマークと話をしてくる」
「?」
「お前一人でも大丈夫なんだろ?それをアイツで俺に示してくれ」
「……はい!」
力強い返事と共にフリューゲルはワイバーンを追う為に駆け出す。そして、それに続くかのように視界の隅の草木が揺れたような気がした。
「さて」
俺は一度周囲を見回した後、マークの居る方へと歩き出した。
☆
「空を飛べるモンスターは、飛ばれた時点で倒すのは厳しい……」
フリューゲルは確認する様に小さく呟いた。オーウィンが教えた翼を持つモンスターに対しての心構えだ。
ワイバーンは森を抜け、岩肌が露出し通常の地面から一段階窪んだような場所――採石場後に降りようとしていた。
「だから――」
ワイバーンが着地した瞬間、身を隠していたフリューゲルが飛び出した。
「飛ぶ前に素早く倒す」
狙いだった首に剣を突き刺し、倒れ込んだワイバーンに対して馬乗りのような状態になる。若干の抵抗に対して、フリューゲルは刺さった剣を捻り首を更に抉る。
程なくして、ワイバーンは動かなくなった。
「……うん、首が細いから狙ったけど、正解だった」
剣を引き抜きワイバーンの体から降りた後、フリューゲルは小さく笑う。
「全然手間取らなかったし、褒めて――」
「へえ、それなりに戦えはするんだね」
「っ!」
突如響いた女の声に反応し、フリューゲルは振り返った。
「貴女は……」
「ああうん、そういうの良いから。別に君とお喋りがしたい訳じゃない。……ああ、やっぱり我慢出来ないかも」
女――フェリエラは端麗な顔を歪ませ、イラつきを隠さずにそう言い放った。
「とりあえずさ」
「っ!」
身構えたフリューゲルの目の前から、
「――ぁっ」
そして次の瞬間には狼狽するフリューゲルの腹に、懐に潜り込んだフェリエラの拳が突き刺さっていた。
「軽く死ねよ」
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