孤独の夜

 家族は好き。私を育ててくれたお母さん。昔から頭が良くて、役人になる為に頑張っているお兄ちゃん、私と違って明るくて可愛い二人の妹。


「はあ!?お願いだから待ってって、それが通ると思ってんの!?」


 ダメな私がここまで大きくなれたのは家族のおかげ。


「っせえなあババア!グズもだ!」


 家族のおかげ。


「うわ、またやってる」


「なーんにも出来ないんだから、さっさとお母さんの店で働けば良いのに」


 家族の。


「あの金、上手く男に媚売って貰ったんでしょ?最近妙に色気づいてると思ったらそう言う事だったのね。冒険者なんてウソばっかりじゃない!それが出来るんなら今すぐ私の店に来た方が――ちょっと、待ちなさい!」





 ☆




「はあっ、はあっ」


 夜に街を出歩く者は少ない。明かりは少なく、酔っ払い等で治安も悪く、フリューゲルは滅多に夜の街を出歩いた事は無かった。


「はあっ……っ……」


 暗闇の中、当てもなくフリューゲルは走り続けた。

 涙が溢れ、滲む視界。フリューゲルにとって泣く事は珍しい事じゃなかった。自分という存在の情けなさから、今まで何度も涙を流した事がある、


 そのどれよりも苦しい。

 


「ぅぅ……」


 家族の態度が悲しかった。だがそれ以上に。

 あの時家族を少しでも疎ましいと思ってしまった自分が、フリューゲルにとっては悲しかった。



「オーウィン、さん」


 今自分が頼れる存在。寄りかかって良いかもしれないと思える存在。その名前を口にすると同時に、フリューゲルは思い出す。


『明日はちょっと野暮用があってな。お前とは居てやれん』


『そっ、そうなんですか……』


『お前ももう銅等級なんだ。訓練に励むのも良いが、早速明日からクエストを受けてみるのも良い。どっちにしろお前は銅等級程度ならもう十分に戦える。後は、俺無しの状況に慣れないとな』


 明日、オーウィンは自分の横には居てくれない。助けてもらえない。そもそも自分は何を助けて欲しいのか、それすらもフリューゲルには分からなかった。


 闇夜の中に、フリューゲルの姿が消える。





 ☆





「……」


 鳥の鳴き声が伸びるように響く。夜が明けた事を知らせる合図。


 フリューゲルは見知らぬ建物の軒下に膝を抱えて蹲っていた。初めての体験。十分な睡眠が取れている訳もなく、目元は赤く腫れ消えかかっていた隈が薄く表れている。


「……早く、昇級」


 朝日に目を細めながら、フリューゲルは呟いた。


「クエスト、受けなきゃ」

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