第34話 トゲトゲハートのサイボーグ

 旅が始まったのはいいのだけども。



「おいゴラ、海賊。なんだコラぁ? あぁん?」

「何がだボケ、ゴラァ。文句あんなら沈めんぞロボゴラァ」

「あぁん?」


 中学のヤンキーか?

 至近距離で睨み合うディヴィスとアランに、もう何度目かになるため息を吐く。

 アランの手には食事の代わりにネジが数本転がっており、普通にいじめだ。

 それだけだとディヴィスが悪くも聞こえるが、自分はサイボーグであるからと食事を拒否したのはアランの方が先なのである。

 皿の上に何もないのも寂しいからとパンの代わりにネジを置いたのだけど……、アランはそれが気に食わないらしい。

 じゃあどうしろと。


「アラン、そのネジは置いたの私だから」

「うっせえ! 女は黙ってろ!」

「は?」

「テメエ……さっきから聞いてりゃ口の聞き方に気をつけろ……!!」

「ハッ、あぁ、そういや、惚れてんだったか? あんなガキが好みとは趣味の悪いやつ」

「マジで沈めるぞ!! テメエ!!!!」


 鼻で笑うアランをディヴィスが血管を浮かせて怒鳴り声を上げた。


 これである。

 初めこそアランの身汚なさから厳しかったディヴィスも、一緒に過ごすうちに純粋にアランの素行の悪さからいがみ合うようになっていた。

 海賊の中でも多分器の大きい方であるディヴィスを怒らずなんて余程だと思う。


 さっきまでのネジがどうたらというのはまだいい方で、アランは私が絡むと非常に手に負えなくなる。

 そんなに女が嫌いか?


 海賊ながら紳士的なディヴィスと対極のような人格だった。


 しかもディヴィスは船長で、この船の1番偉い人なわけで自然と親切だった海賊たちの目も厳しくなってきている気がする。

 勘弁してくれよ……。



 こんなに問題のある性格だって知っていたら私だって……。

 本当に一緒に連れて行って欲しいという奴隷の手を振り払えただろうか?

 それは人道的にどうなのか、という別の問題が浮上しかけて振り払う。

 ともかく私はアランを連れて行かなければいけないことを後悔している。


 奴隷なんて貰うんじゃなかったぜ! ケッ!


 とか言ってみたい。


「……あまりよろしくない展開だ。ジョー、君の手に負えないのなら船長の言葉通り沈めた方が良いのでは? なに、サイボーグなら死なないさ」

「ナチュラル物騒な発言はよしてもらえますかね……」

「それは仕方ない! 海賊だからね!」


 遠巻きにディヴィスとアランを眺めるジョンはいい笑顔を浮かべている。

 私は知っている。

 これは本当にやる顔だ。

 短い付き合いだけど、ジョンは本当に冗談でなくやる時はやる男なのだ。


 パンっ。


 気合を入れて頰を叩く。


「よし、行ってくる」

「ならば健闘を祈ろう」


 言い争いを続けるディヴィスとアランの元へ足を進めた。


「アラン、文句があるならまずは私に言いなさい」

「ア? お前に言ってどうなるって言うんだ! 何も出来ねえんなら引っ込んでろ!」

「引っ込まないし、私にだって話し合うことは出来ます。理性ある人間なら、何よりまず話し合う姿勢が必要でしょう?」

「ハァ!?? なんで俺が!?」

「ロボットじゃないんだろ?」


 うっ、という顔をしてアランが口を噤む。こんなことで言い負かしたとは思わない。

 こういうのは勢いッスヨ。

 黙らしたら俺の勝ちッスヨ。


「あと繰り返すけど、ネジは私が置きました」

「あーっ、うっせえ! 分かったっての!!」


 肩を怒らせて、アランは歩いて行ってしまった。

 勝った……!

 なんて思いつつ、別に勝ち負けではないことを肝に銘じておこう。



「アランとは一度きちんと話しておかないと」

「マジで一旦沈めりゃよくね?」


 あっけらかんというディヴィス。

 自然とため息が漏れた。

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