第36話 見覚えのある金髪美人さんが、また捕まってました


風下から見張りの背後に回る。

見張りをどうしようか、と悩んでいるとアランが手近にあった枝を拾うと遠くへ放った。

がさり、と結構大きな音が聞こえてくる。


「なんだ?」


「おい。」


見張り役は音がした方を警戒しながら近づいていく。


「今だ!」


アランの合図の声にマクレーン達はするりと洞穴へと入っていった。

中へ入ると意外にもそこは奥まで続いていた。

中の盗賊たちと鉢合わせかも、と内心焦っていたマクレーンは拍子抜けしていた。

壁には所々炎の魔石が置いてあり歩くには支障ないほどの明かりが確保されている。

しかも外見からは想像もつかないほど中は広々としていた。


「自然にできたものに人の手が加わった感じだな。」


奥へと続く通路を進みながら、所々現れる横道を見てアランが呟く。

まるで巨大な蟻の巣のように入り組んだその作りにマクレーンは段々不安になってきた。


もしかしたら不味い所に来ているのではないか?


思ったよりも大掛かりな作りの洞穴に嫌な予感が拭えない。


「アランさんここって。」


「しっ。」


マクレーンが問いかけようとした途端、アランに口を塞がれ横の通路に引きずり込まれた。

「な、なにを?」と抗議しようとすると先程いた通路の奥の方から人影が伸びてきた。

息を潜めるマクレーン。

逃げ込んだ通路にはくぼみがありその影になる場所を利用して何とかやり過ごす。

足音が遠ざかっていったのを確認し二人同時にほおと息を吐く。


「あ、悪かったな。」


アランはそう言うとマクレーンを離した。

やっと開放されたマクレーンは逃げ込んだ通路の先を見ると、そこは部屋になっていた。

薄暗い部屋の中にいくつか見慣れた家具を見つける。


「ベッド?」


「テーブルもありますね。」


「…………。」


綺麗に整列して並ぶベッドを見ながらアランが何か考え込んでいた。


「早く退散した方が良いかもしれない。」


暫く考え込んでいたと思っていたアランはそんな事を言ってきた。


「え?ニコルさんはどうするんですか?」


先程見た金髪の持ち主は確かにニコルだった。

そのニコルを見捨てるのかと抗議の目を向けるとアランは慌てたように首を振ってきた。


「もちろん、ニコルを助けてからな……ただ。」


「ただ?」


続きを促す視線にアランは肩を竦めながらぼそりと呟く。


「助けられたらの話だがな。」


重苦しい声でそう言うのだった。






「では、作戦通り行きますよ。」


「おお。」


あの後運よく洞穴の奥まで辿り着く事ができた。

洞穴の規模とは反対に思ったよりも盗賊の数が少なかった。

アランの予測が的中したらしい。

うまい具合に人目を避けてなんとかここまで辿り着く事ができた。

洞穴の奥の部屋では案の定ニコルが縄で縛られていた。

少し離れたところには主犯格と思われる盗賊たちの姿もある。

マクレーン達は一旦そこから離れ作戦会議をした。


「じゃあこの煙幕で騒ぎになっているところを俺がニコルを抱えて逃げ出せばいいんだな。」


「はい、よろしくお願いします。」


マクレーンの手には数個の筒状の物体があった。

ここに来る途中偶然見つけた武器庫でアランが拝借してきたものだ。

煙幕の導火線に火をつけると奥の部屋へとぽいぽいと投げ入れた。

もちろん盗賊たちに向かって。

程なくして部屋の中は白い煙で埋め尽くされた。

パニックになる盗賊たち。

すかさずアランが部屋の中へ飛び込みニコルを担いで出てきた。

そのまま来た道を走って逃げる。

すると、向こうから騒ぎを聞きつけた盗賊たちがやってきた。


「何だお前らは!」


「マクレーン。」


「はい!」


アランの言葉にまだ隠し持っていたソレに火をつける。


「うおっそれは!!」


見覚えのある球体を見て盗賊たちが怯んだ。

その隙に脇をくぐり突破する。

上手く洞穴の出口を抜けられた。

背後から追っ手の声が聞こえてきたのでマクレーンは最後の爆弾を洞穴の入り口へ投げ入れる。

どかーんと派手な音が響いたかと思うとがらがらと洞窟の入り口が崩れていった。

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