その7:冥王は冒険者になる
「それじゃ、ここに座って。カードを作るわよ」
「個室でやるのか」
「ええ、受付だと邪魔になるし、苦情も多いわ」
「そうなのか?」
俺の疑問はよそに、アレイヤは準備を進めていき、鎖のついた銅色のプレートを差し出してきた。横には水晶のような玉が置かれているて、鎖はどうやらそこに繋がっているようだ。
「これに名前を書いてから、この水晶に手を置くの。そうすればあなたの強さが反映してランクが決まるわ」
「ランクとはなんだ?」
「えっと、能力によってEからSランクまであるんだけど、この水晶が今の強さを感知して、だいたいのランクを導き出してくれるの。昔の偉い魔法使いが作ったらしく、これを作れる人は世界でも数人しかいないって話よ」
これに触れるだけで強さが分かるのか、ひとつ欲しい。大魔王の強さがどれくらいか調べてみたい。
他には魔族の力を見極めるのために使える。実際は強いのに怠けているやつも多いから、尻を叩くために役に立つだろうな。
「どうしたの? 悪い顔しているわよ」
「む、なんでもない。触ればいいんだな?」
「ええ、そっと手を乗せるだけで魔力を読み取ってくれるから」
俺が水晶に手を乗せると――
「え!?」
「ん?」
俺が触ると突然水晶が虹色に輝きだし部屋が光に染まると、外からざわざわとした喧騒が聞こえてきた。どうやら光が外に漏れているらしい。
「こんな光り方見たことないわ……!? まさかSランク――」
アレイヤの態度に嫌な予感がする……そういえばSランクは最上だと言っていたはずだ。目立つのは困るな……というか相当能力を落としているんだが、それでもか。
面倒くさいと思いながらも俺は目を閉じて能力を下げ始めると、光が段々小さくなり、水晶が濁った色に変化した。
「あ、あれ? 今の輝きは? Sランクは?」
「俺はどうやらEランクらしいな」
「ええ……本当だ、ザガムさんの名前とEランクが刻まれている……さっきのはなんだったのよ! ついにこのギルドにもSランク冒険者が誕生すると思ったのにっ!」
「壊れていたんじゃないのか?」
「壊れ……てるとは思えないわ、今までそういったことは無かったもの」
「まあ、これが全てなんだろう? いいじゃないかそれで」
「ま、まあね……おかしいわね……」
腑に落ちないと言った感じで俺のカードを見ていたアレイヤは、鎖を外して水晶をぺたぺたと触っていたけど解決には至らず、俺達は個室から出る。
「見たことないやつだな……」
「新人みたいだな」
注目が集まっているのを視線と声で感じるが、無視してアレイヤの後を追う。
「まだあるのか?」
「ええ、訓練場で武器と魔法の適性をちょっとね。依頼にも向き不向きがあるから、戦えないなら魔物討伐は無理だし」
「仕方がない、金のためだ」
「ドライねえ」
呆れたように笑うアレイヤが扉を開けると案山子や弓の的などが並ぶ広場が目の前に広がり、足を踏み入れると空が見えた。
「ここが訓練場よ、多分何度かお世話になるから覚えておいてね。ああやって自己鍛錬ができるの」
「なるほど、勤勉なことだ。ああいうのは強くなる」
「だからなんで上から目線なのよ……それじゃ、適正を見るわね。魔法は使えるわよね? 子供でも焚火ができる程度のファイアは使えるし」
「問題ない」
「オッケー。それじゃ武器は剣でいいかしら?」
俺は相棒が剣というだけなので、実は武器は選ばない。だが、なんでも使えるんどと言えば目立ってしまうので頷いておく。
「まずは魔法からいってみましょー♪ 得意な魔法があればそれでいいわよ!」
「まあ、無難にファイアで行かせてもらおう」
さっきは水晶でやらかしてしまったから今度は失敗するわけにはいかないと、俺は魔力を最小限、千分の一程度まで抑えてから指を向けて魔法を放つ。
「<ファイア>」
直後、人の胴体より少し大きい火球が指先から飛び出していき、案山子に見事命中して爆散。余波と熱気が訓練場の広場を風となって駆け抜ける。
よし、これならEランクと言って問題ないだろう。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」
「おい、俺にくっつくな……!」
アレイヤが吹き飛びそうになり、俺の腕を掴んで吹き飛ぶのをこらえていたので慌てて引きはがす。
「あああああああ!?」
「くそ、飛べないのか!」
どうやらアレイヤは飛べないようであっさりと空中に放り出されたので、俺はジャンプして手を掴み地面に降ろす。
「いやああああ! って、あれ……? じ、地面……?」
「すまない、俺は女性が苦手でな。つい引きはがしてしまった」
「酷くない!? ま、まあ、結果助けてくれたからいいけど……というか――」
案山子の方を見てアレイヤが体を震わせてへたり込む。
「どれだけ凄い魔力を持っているのよ……大魔法使いクラスじゃない……」
「……」
どうやら、俺はまた間違えてしまったらしい……。
人間のフリは思ったより難しいと、俺は胸中で頭を抱えるのだった。このまま立ち去った方が無難な気がする、と。
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