【Roster No.7@ウランバナ島北東部】


 <<カワムラ は 車 で トモエ を キルしました>>


 急ブレーキをかけても、数メートルは前進する。最高速でウランバナ島の北東部を走り回っていたところ、進行方向に他の参加者を見つけてブレーキを強く踏んだ。もっと早く減速を始めていれば衝突を防げたかもしれないが、時すでに遅し。車は急に停まれないのである。


「あっ、あっあっ」


 助手席のナカハラが理由を聞き出すよりも早く、カワムラは運転席から飛び出していた。後部座席に座り、シートベルトをしていなかったミトが「カワムラぁ、どうしたんだべー」とカワムラを追いかける。


「トモエちゃんだ」


 オーディションの頃に知り合い、敵と知りながら連絡先を交換した女の子だ。何度かやりとりしているうちに仲良くなってあんなことやこんなことを、とまではいかなかったものの、会場で会って帰りには夕飯を食べて帰るぐらいの仲にはなっていた。あくまでゲームの大会だと思い込んでいた7番チームの彼らにとってみれば「ああ、女の子のプレイヤーもいるんだな」ぐらいの感覚で接していたのだが、彼女のほうはどう思っていたのか、轢死させてしまった現在となっては聞き出せない。


「うげ……」


 リーダーであるナカハラは、車から降りられなかった。この殺し合いの島に着いてから、人の死が身近なものとなってしまったが、それでも間近で見たいものではなかったからだ。


「ナムナム」


 片足を引きずりながらミトを追いかけたフジヤマが、トモエに手を合わせる。そばにいるホストみたいなチャラ男にも目がいった。こちらの左肩にはナイフが突き刺さり、額にはぽっかりと穴が空いている。トモエの右手にはリボルバーが握られていた。チャラ男に一発お見舞いしたのがトモエだとしたら、この二人はどういう関係性だったのか。様々な仮説が頭をよぎる。この現場からは正確には読み取れない。


「俺が殺した」


 唯一確かなことは、カワムラがトモエを殺してしまったこと。


「しゃあないべ」

「もっと前を見て運転してれば、避けられたよ!」

「ていうか、さっき、おっさん吹っ飛ばしたべ」


 ミトの言う『さっき』とは、北東部に爆撃が行われていた時を指す。予告なく突如始まって、無差別に爆弾が投下されていた。車が被弾したら全滅は免れないので、無我夢中で車を走らせて逃げ回っているうちに、一人突き飛ばした。車のバンパーはそのダメージでへこんでいる。


「あのおっさんは、――おっさんは、ヤクザっぽかったし」

「スキンヘッドのおっさんも走ってたもんな。スキンヘッドになんてイマドキの一般人はしないよなー」


 言い訳を作り出そうとするカワムラに、同調するフジヤマ。対してミトは冷静に「トモエちゃんもいずれ戦わなきゃいけなかったんだし、車を手前で止めてたらトモエちゃんから撃たれてんべ」と返してくる。


「いや、でも、トモエちゃんなら……話し合えばなんとかなったかも……」

「どっか1チームしか勝ち残れないのに、なんとかなるはないべ」

「ワンチャン! ワンチャン、ルールに抜け道があるかも。ほら、ゲームにもあったやんか。敵プレイヤーを自分のチームにスカウトできるやつ!」


 一縷の望みをかけて携帯情報端末を取り出し、ルールブックを読み始めるカワムラ。


「諦めて、次の恋を探すべ」


 そっとカワムラの左肩に手を置いたミトの横っ腹に。水がたくさん入った袋に、先の尖ったものでぷちっと穴を開けた時のように、血が溢れ出す。


「いでええええええ!?」


 手で傷口を塞ごうとする。しかし、手で覆ったぐらいでは止められそうにない。カワムラとミトのやり取りをよそに死体の服を脱がせようとしていたフジヤマは、その不謹慎な行為をやめてTommy Gunを構える。実銃を扱う訓練は受けていないので、ゲーム内でプレイヤーの分身となるキャラクターが構えているポーズを真似たものである。


「どこだっ!」


 トモエとチャラ男が同じチームだとしたら、あと2人、同じチームメンバーがいることになる。

 実際はトモエとチャラ男ことハルは別のチームであり、トモエは4人チームのうちの最後の1人で、ハルもまた最後の1人だったので、同じチームメンバーの『あと2人』は存在しないのだが、7番チームは知る術がない。


「くっそ、どこに隠れていやがる……!」


 ゲームならば銃声で撃ってきた方向がわかる。現実では――熟練の戦士なら即座に判断できるのかもしれないが、ごく普通の、ゲーマーである彼らには――不可能だ。


「死ぬ、死ぬってこれ」

「車に戻るぞ!」


 戻れば、フジヤマの捻挫の応急手当てに使用した包帯がまだ残っている。カワムラはミトを背負い、車まで運ぼうとするが、そこを見逃してくれるような狙撃手スナイパーではない。


「ぎゃっ!」

「ヤベッべっべ」


 次に彼らの元に届いたのは5.56mmの銃弾のフルオート射撃だった。

 左足を負傷していて歩みの鈍いフジヤマは撃ち返すまもなく犠牲となり、ミトを背負うカワムラが回避行動を取れるはずもない。


 <<モリ は 89式5.56mm小銃 で フジヤマ を キルしました>>

 <<ナイトハルト は HK416 で ミト を キルしました>>

 <<ナイトハルト は HK416 で カワムラ を キルしました>>



【生存 35(+1)】【チーム 14】



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