【Roster No.3@ウランバナ島南西部】

 あれじゃん。あれだよあれ。おタヌキ様。俺っち、あれやだなー。


 あいつがいるんだもんな。あいつがいるんだから、おタヌキ様出てきちゃってもおかしくねぇか。それはそう。そうだったよ。あーもうめちゃくちゃだよ。視聴者として、ああいう、明らかな、出演する作品を間違えちゃっている系のが出てくるのってどうなん。お呼びじゃなくないか。ああいうのが出てくるモンスターパニック系の作品が見たいなら、元からそういうのを売りにしているものを見ないか?


「みなさんがんばってるねぇ」


 この戦いには必勝法がある。必勝法を知らないかわいそーな人たちが、いち、に、さん、よにん。俺っちは知ってるんだ。なぜかって、あいつの息子だから。あいつ、配信ではさんざん独身アピールしてっけど、隠し子たくさんいるからな。俺っち以外にも。この話は、あいつと対峙したときにまたするわ。今することじゃあない。あいつを止められるのは、俺っちだけだと思う。


「あーあーあー」


 あんなにめちゃくちゃ撃ちまくっているところに、形式上はであるところの俺っちが華麗に参上しても流れ弾喰らっておもんない。てなわけで、俺っちはおタヌキ様に無駄な抵抗をしている他の参加者の皆さんを見ている。撃ったら逆効果だよ、と正直に教えてやっても「なんでお前が知ってんねん」って話よな。細かいこと説明すんのはだるい。敵に個人情報を大公開してやる義理もない。


 おタヌキ様に喰われた人間が生還できた例は存じ上げません。残念ながら。身体から出てくる目には金縛り効果があって、動けなくなった人間はおタヌキ様の養分になる。身体の中で徐々に消化されて、骨も残らない。おタヌキ様は丸呑みしてくれるから、そこだけかな、痛い思いをしなくて済むってのはありそう。


 俺っちはいわゆる『人生の成功者』が嫌いだ。いっちゃん最初に首をざっくり切ったお金持ちのお嬢様みたいな、ああいうのが嫌いだ。俺っちがあいつのことを嫌いなのも、あいつが〝ヒトメサマ〟だとか名乗って、若い奴らに崇められているからだ。勝ったつもりになっている。いろんな奴らから金を巻き上げて、自分らだけいい思いをしているのが嫌だ。この世界の誰よりも自分が偉いと思ってそうなあの態度がイラつく。……俺っちは信者たちののおかげで生まれて、ここまで育てられてきたっていう矛盾が、余計に俺っちをムカムカさせる。


 あいつが参加するって聞いて、俺っちは参加を決めた。

 今日、ウランバナ島ココで正式に、正当な理由で、あいつを殺しに行けるから。――あとで話すって言ってたのに言っちゃったな。死亡フラグみたいでやな感じ。俺っちはまだ死ぬわけにはいかないんだよな。おわかりいただけるだろうか。絶対殺す。


 最初にサブマシンガンをぱらららららと撃っていた先頭の男が喰われた。俺っちの嫌いなあいつを妨害できるんなら、ここでおタヌキ様を倒してしまってもかまわんのだろう。おタヌキ様に参加者を減らしてもらうのはいい考えだけども、それはあいつも同じ考えだと思う。やだよな。だから、俺っちは、停まっている車のサイドミラーを折った。別に車のサイドミラーである必要はない。けれども俺っちが持ち運べるような鏡が、ウランバナ島の上ではサイドミラーぐらいしか思いつかんかったから、サイドミラーに全体重をかけてボキッと折った。車と俺っちなら車のほうが重いかんな。手鏡を持ち歩くようなおしゃれさんじゃあないんよ。


「みんな喰われてしまえ」


 サイドミラー片手におタヌキ様の犯行現場に戻ってきた。マッシュルームカットの男が勝ち誇ったような発言をしていて虫唾が走る。おいおいおいおい。てめえのおタヌキ様じゃあないんだワ。ていうか、チミたちは味方同士じゃないのか。チームで別行動してる俺っちが言えたセリフじゃないけども。


「なになに? 仲間割れー?」


 女の子二人は「やだやだやだやだやだやだやだやだやだ!」と喚いてみたり「サツキぃ……サツキ……」とメソメソしたりしている。メソメソしているほうにおタヌキ様は頭からかぶりついていった。おなかの中で再会できるからハッピーエンドだな。そんなわけあるか。


「え、ああ、あ?」

「うん? 違うのカナ?」

「そ、そうです! そうですそうです!」


 そっかそっか。チミはどっちの女の子のカレピ? ……いや、興味ねえから答えてもらわなくていいわ。質問するだけ酸素の無駄ってわけ。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」


 おタヌキ様、日本の妖怪っぽいのに日本語通じないんだよネ。っぽいというか実際そうなんだろう。女の子が何度も何度も謝っちゃいるが聞く耳は持たない。もれなくその女の子もおタヌキ様に飲み込まれてジエンド。


「仲間がこのバケモノにやられて! 大変なんです!」

「そうね。大変そうネ」

「だから、」

「そこにいるチミが悪いから、あの世で反省文を原稿用紙三十枚書くように」


 俺っちはマッシュルームカット男の立ち位置を俺っちとおタヌキ様の間に調整する。おタヌキ様の次なるターゲットは視界に入ったマッシュルームカット男になっただろう。それでいい。


「おれは、あいつらみたいにはならない!」

「なるよ」

「オマエが代わりに喰われればいいんだ!」

「やだよ」


 ツバがちょいちょい飛んできて不快だからさっさと喰われてほしい。俺っちが死んだらおタヌキ様を倒すやついなくなっちゃうじゃんか。何を言っているんだね、チミってやつは。


「おれの一億のためにぃっ! 犠牲になれよ!」

「なんでチミのために死ななあかんねん」


 関西人ではないのに関西弁が出ちゃったわね。あらやだわ。


「くきゃきゃきゃきゃ!」


 なんて、そんなこんなとやりとりしている間におタヌキ様が予備動作に入ってくれた。デザートにマッシュルームを食べましょうね。〆にマッシュルームって聞いたことないが、まあ、そういう地域がウランバナ島ってことにしてもろて。


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」


 さっきの女の子もやだって言ってたしさっきの女の子のかれぴなのかなわからん。だとしたらこちらのカップルもおタヌキ様の体内で幸せに暮らしてくれ。毎度のごとく頭から全身を丸呑みするおタヌキ様。よしきた。


「さーて、美味しいお食事タイムはここで終了とさせていただきまーす。ご自分のお顔でもみまちょうねー」


 ここで用意しておいたサイドミラーをですね。おタヌキ様に向けるわけでして。


「!?」


 おタヌキ様は。はい、終わり。逆さまタヌキ像の完成です。ウランバナ島の観光名所になってほしいね。遠足の自由行動タイムで、何時までにおタヌキ様の像の前に戻ってくるように、って先生が指示すればいいんだもんな。いい仕事しちゃったわ。




【生存 47(+1)】【チーム 17】

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