【Roster No.6@ウランバナ島中心部】
空中でパラシュートが絡まってしまったり目測見誤って建物の壁にぶつかったり木に引っかかってしまったり、そもそもパラシュートが開かずに屋根に激突したりとあちらこちらで不運な事故が発生していた。人間同士の戦闘が行われる前にけが人が続出している。
そんな中でRoster No.6のメンバーの4人は無事にウランバナ島中心部の住宅が密集する地帯――を模した、モデルルームが立ち並ぶ地域へ降り立つ。
「では、ここから二手に分かれましょう」
ノブは他の三人に指示を出した。指示を受けて、この青年と顔立ちのよく似た金髪の青年が「よっろしくぅー☆」と言いつつノブに腕を絡ませる。絡ませたが、暑苦しかったらしく、ノブは腕を振り解いてハルから距離を取った。
「二手に分かれちゃうんだったら、俺とノブの二人でよくなぁい?」
「まあ、そうですけど」
このチームは、大会の告知があってからノブとハルの2人がSNSにてメンバーを募集して結成された。4人一組のチーム制でなければ2人組で参加していただろう。刈り上げの青年のアヅキとアフロな髪型のユキチはこの大会自体の高額な賞金に加えて、ノブが提示した追加報酬を目当てで応募している。
「僕らはあちらに向かいますので、お二人はこちらのほうで」
アヅキとユキチはノブの指示に素直に従って、彼の指差す住宅地の北西側へと向かって行った。三カ月にわたるオーディションやら身体能力テストやらのおかげで、奇妙な信頼関係が生まれている。ハルはともかく、ノブの指示を聞いておけばうまくいく。
「行っちゃお行っちゃお!」
嫌がられたにもかかわらず、ハルは再びノブに近づいてグイグイと腕を引っ張り、そのまま一番近くにあった家まで引きずり込んだ。
その間、ノブのほうはというと、無駄な抵抗はやめて輸送機内で配布された携帯情報端末をいじっている。いざ輸送機から飛び立つ直前まで、ハルがその横でああだこうだと話しかけても無視し続けていた。端末の画面をスクロールしてみたり地図を拡大したりしてみたあとに首を傾げながら「ハルくんのコレ、見せてもらえませんか」とハルに配布された携帯情報端末を要求した。ハルは何かを疑う素振りも見せずに、ポケットの中から携帯情報端末を取り出してノブに手渡す。
「開会式前のブリーフィングでは『4人それぞれの位置がこの地図上に表示されて、チームメンバーがどこにいるのかをリアルタイムで確認できる』という話がありましたが、見てください」
ノブは地図を表示した状態で、左右の手で一台ずつ携帯情報端末を掴み、そのふたつの端末の画面をハルへ見せた。
「あっれぇ? 点はひとつしかなくなぁい?」
本人の位置しか表示されていない。
輸送機の中では、当然のことながらみな輸送機内に座っている状態であり、本人の居場所を示す点とチームメンバーの位置を示す点が重なっているのではないか、とノブは考えていた。しかしながら、今、アヅキとユキチは離れた位置にいる。その2人の位置は表示されていない。
「僕のが、着地の衝撃で壊れたのかと疑っていました。ですが、ハルくんのもこうなっているということは……」
ハルは屈んで、足元に落ちていたグレネードを拾い上げた。屋外に武器は落ちていないが、屋内にはさまざまな武器が落ちている。これらの武器を使用して、他の参加者を倒していかねばならない。
ブツブツと何やら考えている様子のノブに「ノブにわからないことは俺にもわからないし、その謎が解けたところで俺らにメリットある?」と訊ねる。ノブが携帯情報端末から顔を上げた。
ハルはグレネードのピンを抜いて「別にぃ、あの2人がいなくなっても俺は悲しくないよ。だってぇ、俺らの取り分が減っちゃったり少なくなっちゃったりしちゃうじゃん?」と、窓の外、他のチームを見つけ、フライパン片手に追いかけているアヅキに向かって放り投げた。
「あとの2人の居場所がわかんないならわかんないなりにやっていっちゃおう! 遠くなっちゃってわかんなくなっちゃう前に!」
炸裂したグレネードはアスファルトで舗装された道路を削り取り、アヅキの上半身を敵ごと粉砕した。
<<ハル は グレネード で アヅキ を チームキルしました>>
携帯情報端末の真ん中に、このような文字列が表示される。と同時に左上の数字が【生存 97】【キル 2】と変化した。ハルに配布された携帯情報端末だけ右側の数字が増え、ノブのものは【キル 0】のままである。壊れてはいないようだ。
地図上でのメンバーの位置の表示だけがおかしくなっている、と考えるべきかと、ノブがふたたび思案顔に戻ると『もしもしィ!? 何してくれちゃってんの!?』とユキチがトランシーバー越しに怒鳴りつけた。
「いまぁどこにいんの?」
ハルはグレネードの近くに落ちていたMk47 Mutantをひょいっと持ち上げて、トランシーバーでユキチに現在地を聞く。ユキチは仲間の裏切りに遭って冷静さを失い、ハルの言葉が一切聞き取れていないようで、罵詈雑言を喚き散らしている。
チーム内での音声が共有されているためノブのトランシーバーからもおなじ内容が流され続けており、ノブは渋い顔をしつつ音量を下げて「ハルくん、ミュートにして」とハルにも音量を下げるように伝えた。
『オイ! ミュートにしてんじゃねー!』
ハルのトランシーバー越しにノブの声が聞こえたのか、ユキチの怒りは増すばかりである。あっ、とノブが何か閃いた様子で、ポンと膝を打ち、トランシーバーに声が入らないようにハルに耳打ちした。ハルはその内容を聞き入れて「さすがノブ! 賛成賛成!」とノブを褒め称える。
「真ん中の方にある六角? 八角? 上から見ると八角形? の建物に集合しちゃお!」
『はァ?』
「文句があるならそこで直接聞きます。いいですね?」
ノブは(文句しかないだろうなと)苦笑いを浮かべつつ、ユキチからの返答は聞かずに、トランシーバーの電源をオフにした。アヅキの亡骸のそばにあるフライパンを拾い上げて素振りを始める。
フライパンは、一般家庭で見られる調理用のフライパンを想像しながら持ち上げると驚いてしまうほどずっしりとしていた。形状はスキレットに近い。
「確か、時間内にプレイゾーンの中へ入れなかったら"失格"なんですよね……では"失格"とは何なのか。その"失格"になってしまうとどうなるのかを、検証してみましょう」
【生存 97 (+1)】【チーム 25】
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