「幸せが始まる日」
たーちゃんの誕生日をお祝いするの!
「覚えてたんですか」
「相棒として当然なの!」
たーちゃんもわたしの誕生日を覚えているハズ。ちなみに8月24日なの。
「11月11日で、覚えやすいですもんね」
すかさず卑下してくるたーちゃん。たしかに、ぞろ目だったりポッキープリッツの日だったりするケド。違うの。お世話になっているたーちゃんだから、カレンダーに丸をつけておいたワケ。
「じゃじゃーん!」
だから、美味しいってウワサのケーキ屋さんでホールケーキを予約しておいたの! もちろん、わたしが全部払うの!
「うわ」
ふっふっふ。おわかりですかな。クリーム色の箱に、水色で店名が書かれているから、それを見ればわかると思うケド。
「フルーツタルトのお店ですよね?」
交番の奥、事務机の上にケーキの箱を置いて、ゆっくりと引き出す。チョコレートの土台に、クリームとイチゴがのっていて、とっても美味しそうなの!
「予約限定、バースデークラシックショコラなの!」
フルーツタルトで有名なお店だケド、ここはあえてのガトーショコラ系。タルトが美味しいのは当たり前。はたしてチョコレートケーキはどうか。楽しみ!
「結構したんじゃないですか……?」
「たーちゃんのために、奮発したの! 主役がつべこべ言うのはヤボなの!」
「明日は雪が降りますね」
「トウキョーで11月に雪が降るのは早い気がするの」
冗談に対してわかっていないような顔をして返す。いつもなら、たーちゃんのほうが年上だからって、たーちゃんが支払ってくれていた(もしくは、組織の経費で落とす)。けれども、たーちゃんの誕生日お祝いなのにたーちゃんがお金を出すのはちょっと理不尽だと思うの。
「ロウソクも用意してあるの!」
「俺の年齢、教えましたっけ?」
「作倉さんに教えてもらったの!」
「なんでも話しますねあの人」
前にたーちゃんの自宅の住所を教えてもらったコトもあったっけ。たーちゃん家、広かったな。……あのぐらいが普通かな。三人家族なら、あれぐらいの広さはほしいし。娘ちゃんが大きくなったら、絶対に『自分の部屋がほしい!』って言うだろうし。
「間違ってたら取り替えてくるの」
「いや、今年が2009年だから……合ってますよ」
指折り数えて確認してくれた。合ってるならよかったの。
ナンバーキャンドルを、両端に突き刺してっと。
「火がほしいの」
「そんな、タバコ吸う人みたいな」
「ライターかマッチないの?」
「ありますよ。署長が喫煙者だから、引き出しの中に……あった」
たーちゃん以外がこの交番にいるところ、あんまり見たことないケド、たーちゃんの警察官としての上司がいることもあるっぽい。署長さんのデスクの引き出しから取り出したライターで、ナンバーキャンドルに火をともす。いい感じなの!
「はっぴばーすでーとぅー! ゆー!」
前奏省略。わたしはライターを置いてからスプーンを握りしめて、たーちゃんのために熱唱した。たーちゃんも「ありがとうございます」とはにかむ。
「ほら! 消すの!」
「はいはい」
たーちゃんがふーっと息を吹きかけて、キャンドルの火が消えた。ロウが垂れないように、さっさとキャンドルを片付ける。
「いただきまーす!」
わたしはスプーンでガトーショコラのショコの部分を削り取って、口に運んだ。チョコレート! チョコレートなの!
「美味しい!」
ケーキを自分の席に引き寄せて、もう一口。今度はブルーベリーといっしょ。ブルーベリーの甘酸っぱさとチョコレートの深みのバランスがいい。有名なパティスリーはここが違うの。
「たーちゃん、来年のわたしの誕生日はこのケーキがいいの!」
「気に入ったんですね」
「この世が終わる前に食べるケーキ候補に入れておくの!」
「でも、予約商品だって言ってましたよね?」
そうだったの。ぶらりとお店に入っても、このケーキには巡り会えない。
「世界の終わりが予告されていれば、先に連絡しておくの」
「そういうもんですかね」
もぐもぐもぐもぐ。あっという間に半分以上食べきった。たーちゃんはまだ、スプーンはおろかフォークも握っていない。
「たーちゃんはいらないの?」
「いらなくないですよ。秋月さんが、俺の誕生日だからって買ってきてくれたものですから、いただきたいです」
ここに来てようやくわたしは、わたしが半分以上食べてしまっているコトに気がつく。食べちゃったものは仕方ないの。美味しすぎるのが悪いの。
「なら、残りはたーちゃんので!」
「ありがとうございます。いただきます」
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