結婚式当日
「あ」
「陽菜 もしかして健太郎覚えてる?」
「サンタさんとナンパ役」
「ほら!カズ バレバレだったんだって」
「はははは 大根役者だからな。じゃ宜しく メイクさん あっ陽菜の顔触りまわるなよ」
「いやいや メイク出来ないでしょ。触らないと。良かったな カズ おめでとう」
「.....うん ありがとう 健太郎」
俺は陽菜の準備中、佐伯さんの病室へ行くことにした。
開け放たれた扉にはスーツ姿の佐伯さんがいた。笑顔をこちらに向けた彼は、とても穏やかな表情をしている。
「あ かずちゃんさん」
「佐伯さん、お願いがあります」
「はい。こんな僕に出来ることなら」
「陽菜と.......バージンロードを歩いて欲しい」
「......はい。謹んでお受けいたします」
と、笑ってくれた。そして一筋の涙が佐伯さんの頬をゆっくりと伝うのが見えた。
こんなお願い、現世で生きる恋敵なら絶対にしなかっただろう。けれど佐伯さんと俺は、友達でもなく、恋敵でもなく......今、俺達の共通点は陽菜に笑っててほしい、陽菜に幸せになってほしいと思う気持ちかもしれない。
それに俺は、佐伯さんから陽菜を託されるような気持ちなんだ。だから、父親代わりにバージンロードを歩いてほしかった。
一方的にお願いしてしまったが.....。
協会で待っていると、オルガンの音が鳴り響く。窓から入るステンドグラス越しの光がこんなに美しいなんて今日までの俺は知らなかった。信仰心のかけらもなかった俺が最近は神っていらっしゃるのでは?と思わざるを得ない。
ゆっくりと開いた扉から、笑顔の二人が入場した。
二人とも俺の人生で出逢った中では上位2名の素敵な微笑みの持ち主だ。
中央辺りで佐伯さんから陽菜の腕を引き継ぎ、俺と佐伯さんはしっかり目で頷く。
こんなにも美しいんだ 純白のウェディングドレスの陽菜。30年以上前のお母さんのドレスはぴったりだった。手にはサファイアリング。全てが眩くて、輝きとともに消えてしまうのではと、不安になるほどだった。
誓いのキスで、世界一美しく愛らしい俺の陽菜に口づけをした。
パタパタっと陽菜が俺の背中を叩く。
あ、長すぎたらしい。
ラストはみんなで写真を撮った。
「3人の写真もいいですか?」
と陽菜の一声で、新郎新婦と佐伯さんで写真を撮ってもらった。
こうして、俺達の5月が終わり、ついに6月となる。
☆
6月6日 俺は佐伯さんの病室に居た。
「いよいよですね。かずちゃんさん」
「はい。佐伯さん、このまま時が流れるならあと一年はありますね。体は大変ですが」
「はい......もし、2018年に行った場合、これは最悪のケースですが、初めて僕らがあった場所に来てください」
「あ、陽菜の撮影事務所前」
「はい。」
「分かりました。最悪の場合一緒に子供になるまで赤ちゃんになるまで.......ですね」
と俺達は笑い合うがまんざら笑えないのであった。
「なんかないかな、成仏できるグッズとか」
「いや佐伯さん、浮遊霊じゃないんだし」
「ある意味僕は、幽霊ですよ。思い残してあの世へ行けない。ま、かずちゃんさんを巻き込んでますけどね。」
とまた俺達は笑い合う。
「佐伯さん ありがとう。もし、会えなくなったら困るから.......今言います。強く願って、俺を一緒に戻してくれてありがとう。」
と、まさかの俺が泣いてしまう。
「かずちゃんさん、ありがとう。陽菜乃さんを諦めずにいてくれて。そしてこれから先も生きてくれて......。」
俺は一度諦めたんだよ。あなたが居なかったら取り返しがつかなかった。
俺は愚かなんだ。だから絶対に約束する。
「俺は絶対に陽菜を幸せにします」
「うん。きっと未来はあるよ」
「指切りげんまん 嘘ついたら......あの世につれてくぞ」
「佐伯さん.....冗談キツイです。ブラックすぎます。」
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