第44話 変身! 決戦! エナリアvs.シムラクルム!
「…………狙撃? ああそうか……。エナジーシューターだけは、暗黒エナジーに耐性が無いのか。あれ、じゃあ空石八朔は? ……考えても仕方ない。東京に隠していた筈の北城治綾水が今ここに居る理由も。……どうせ無意味だ」
ガラリ。
瓦礫を掻き分けて、シムラクルムが立ち上がった。無傷である。当然だが、綾水の攻撃で『志村胡夢』の肉体には傷ひとつ付いていない。
「ザイシャス……グリフト」
「ああ。……グリフトは死んだぞ。ナガノケンで、リースス・レーニスに負けた」
咲枝から受けたダメージをシムラクルムのエナジーによって回復したザイシャス。
「問題ない。グリフトのエナジー波長はコピーしてある」
「……?」
シムラクルムが、手を翳す。すると暗黒エナジーがもやもやと煙のように集まって、グリフトを象った。
「は?」
「……お? 何だ? 俺は……あれ?」
現れたグリフトは不思議そうに辺りを見回している。
ナギに斬られた筈の腕も、元通りになっていた。
「な……! グリフトお前……」
「あん? ザイシャスじゃねえか。ここはどこだ? おっ。クルム?」
「ははは。何を驚いてるんだザイシャス。君達『カルマの怪人』は『エナジー』が主成分なんだぞ? 固有の波長を記録していれば、暗黒エナジーでいくらでも『再現』可能なんだよ」
「………………なんだと……」
「まあ尤も、消費が激しいからあんまりしたくないんだけどね。それこそ僕ひとりくらいなら犠牲にしてでも。けど今は、それどころじゃない。まずはここを勝って、『僕が』生き残らないと」
「…………」
首を捻るグリフト。放心のザイシャス。シムラクルムは不敵な笑みを浮かべて、再度全裸になる。
「さて。『巻き直し』だ。君達は狙撃手を探して殺せ。僕はストームフォームと遊んでるから」
「分かった」
「……了解だ」
また、どす黒い蜃気楼が渦を巻く。今度は露出の多い、動きやすそうな衣装に変わった。
怪人ふたりが、その場をジャンプで離れる。
「……待っててくれたのかい。春風咲枝」
目の前の距離に。咲枝が立っていた。
「こっちもこっちで時間、稼ぎたかったんやで」
「そうかい」
「…………」
瞬間。
温泉を飛び散らせながら、ふたりが激突した。
♡
「なんだか分からねえが、気分は良い。身体も絶好調だ。今なら俺ひとりでエナリアを殺せそうだな」
「へぇ、それは楽しみね」
「!」
温泉旅館の、瓦屋根の上で。
復活したグリフトの前に、リッサが立ちはだかった。
「てめえ……どうしてここに」
「言わないわよ。機密事項だから」
リッサはつい先程まで、長野県に居た筈だ。だが、今こうして、事実ここに居る。
「もう一度殺してあげるわ」
「……!」
「変身!」
リッサが叫び。着ていた制服を弾け飛ばした。
♡
「くそ……っ! なにがどうなってる!」
温泉街、石畳の坂道にて。ザイシャスは走る。先程の光景が頭から離れない。
「グリフトは死んだ! だが……生き返った? 違う。あれは……グリフトじゃない! くそっ!」
そうだ。そもそも。『自身は何か』『その根源』を求めてナギに賛同し、兵となった筈だ。
怪人はエナジー。今、自分が『元気』であることも、シムラクルムからの暗黒エナジーの供給によるものだとしたら。先程、咲枝にドレインされたエナジーこそが、自分のオリジナルなのではないか。では今の自分は何だ?
「…………! 俺は、付いていく奴を間違えたのか……っ!?」
コツ。
「!」
ハイヒールの音が、石畳の上に鳴った。
「その問い、答えてやろう。元部下ザイシャス」
「……ナギ……様っ」
既に変身し終え、盛り盛りキャバ嬢となったナギが剣を構えていた。
「『正しかった』『間違いだった』。……それは結果でしか語れぬ。もし、わらわ達全員がシムラクルムに敗れれば。それで貴様が生き残り、子孫を繁栄させたのなら。間違いでは無かったと言えよう。逆に、シムラクルムがエナリアに敗れ、貴様も断罪を免れぬなら。間違いだったと言えよう」
「…………!」
ナギの言葉は、冷たかった。配下であった頃に掛けてくれていた、部下を慮るナギの言葉ではなかった。
「『結果』だ。結果が全てである。そして、『勝ち馬に乗りたい』のであれば。結果を正しく想定せねばならぬ。その判断材料。情報収集が肝要となる。今居る自分の立ち位置。実力。敵味方の戦力。今後100年の予想。状況次第で変わる要素も不確定な要素も含めて。その『判断』には、責任が付き纏う。この場合『失敗すれば死ぬ』という責任だ。そのような重い判断を、貴様は『シムラクルムに加担する』と下した。そうであるな?」
「…………そうだ」
王として。ナギにはカルマを束ねる王としての充分な教養がある。感情を優先することもしばしばあるが、間違っていて『駄目だ』と思えば、素直に認めて考えを修正する柔軟さも併せ持っている。人間から見ても、『まとも』な人格をしている。彼女の責任は、ザイシャスのように自己ひとりではない。カルマ全体を背負っているのだ。
「シムラクルムが『何者か』を知る前に判断した。人間界の事情やエナリアの可能性を考慮することなく、『シムラクルムを信頼して』判断した。そうであるな?」
「…………ああ」
「『だから』、貴様は今死ぬのだ」
「!」
コツ。
次の瞬間に聴こえた靴音は、『背後から』だった。ナギが、ザイシャスに感知できない速度で通り過ぎたのだ。
すれ違いざまに、袈裟斬りにして。
「が…………っ」
「『知らないこと』をあやふやにしておかず、その場で調べること。わらわはミキからそれを教わった。だから、わらわもミキに、カルマの全てを伝えた。それが『信頼関係』である。貴様達のような歪なものではない。……この『ウインディアを通じての擬似的なワープ』も、『対暗黒エナジー装置』も『エナジーレーダー』もその協力の結果だ。……シムラクルムは、貴様達に何も具体的なことを教えなかったのだろうな。……馬鹿な奴め」
「…………!」
どさり。ザイシャスは崩れ落ちた。
「王であるわらわが『知る』情報を、貴様は知らなかった。『知ることができなかった』。理由は、貴様が王ではなく兵であるからだ。『だから』判断を間違えた。分かるか? 『だから』……ただの斥候が、判断を下してはならぬのだ。『こうなるから』、軍属は『上』の命令に忠実でなければならぬのだ」
「………………くそっ」
悶えるザイシャスに。
「……次は、間違えるなよ」
「……!」
暗黒ではないカルマのエナジーを、死なない程度に分け与えて。ナギはその場を去った。
♡
「よっしゃあ!」
「!」
襲い掛かる、咲枝。振り払い、蹴飛ばすシムラクルム。ちぎっては投げ、ちぎっては投げ。吹き飛ばされる度に即座に立ち上がり、また襲い掛かる咲枝。
「おらぁ!」
「くっ! しつこいな!」
「うはっ!」
決して諦めない咲枝。
「なんなんだよ……僕の攻撃が効いてないのか!?」
「アホ。アタシ死にそうやボケ」
「なら死ねよっ!」
「うぐっ! はぁ!」
志村胡夢の小さな拳が、咲枝の鳩尾に突き刺さる。
「はっは……! あんたの能力は基本的に10歳児やろ。その無茶苦茶なパワーは『暗黒エナジー』によるもんや。ストームフォームの衣装にはそもそも
「……! ふざけるな! 僕は最強なんだぞ!」
「ぐふ!」
さらに、拳を突き出す。咲枝は内臓がひっくり返る激痛と気持ち悪さで吐きそうになるが。
「…………へへ。捕まえたで。ようやくや」
「……!? だからなんだよ! ストームフォーム程度の君の出力じゃ僕をどうにもできないぜ」
「アホ。アンタ『柔道』知らんのか?」
「は……?」
咲枝が掴んでいるのは。シムラクルムの衣装の『袖』である。
「くっ……! 離せ!」
腕を引く。だが離れない。痛みは無い。袖だから。
「まあ10歳やったら知らんかもなあ。へへ。……教えたるわ。アタシの戦いに『殴る・蹴る』は無いねん。……『力で負けとる相手をぶん投げる』言う意味や」
「――――!?」
ぐい。と。
引っ張られる。何故か抗えない。袖だからだ。加えて、力でも振り切れない。『そういう体勢になってしまっていた』からだ。踏ん張れない。
知らないのだ。
「よいしょぉぉおおおっ!!」
引き手を引き寄せながら、相手の腰へ手を回す。その腕と腰で相手の胴体を持ち上げ、一気に叩き落とす。
――【
「…………っ!」
「柔よく剛を制す……ってな。まあ、この技はアンタがアタシより
瞬間。シムラクルムに『受け身』の概念が無いことを分かっている咲枝は、頭を硬い岩にぶつけないように手を回して保護する。そういう投げ方のスキルがあるのだ。ちょうど、年長者が初心者を投げる時に
「……うっ」
ふわり。痛みも感じずに咲枝に組み伏せられたシムラクルム。なんとか抜け出したいが、『暴れようとすることすらできない』ことに気付く。
柔道家に『ガチ』で抑え込まれたら。『もう無理』なのだ。
「ほんまは一本やけど、このまま抑え込みや。袈裟固め、言うてな。アタシの得意な奴や。どんだけエナジーの差ぁあっても無理やで」
「…………くそっ!」
「綾水! 今や!」
『承知いたしましたわ! わたくしのエナジー全部! この一撃に込めます!!』
そして。
「くそぉっ! ふたりがかりなんて卑怯だぞ!」
「済まんな。アタシら、大人やから」
寸分の狂いも無く。目標と密着している咲枝を完全に避けて。
「!!」
綾水の放ったエナジーショットが、シムラクルムの頭部を鋭く貫通した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次回予告
『美少女エナジー戦士エナリア!』
第45話『変身! 戦いの終わり! 皆で全裸!』
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