第27話 変身! ナギ、まさかの人間界へ!?

 音。

 匂い。

 空気。


 ――風。


 本日は晴天。真夏日だ。焼けるような日差しが照り付ける午後2時の千代田区。


「………………」


 コツ、と。まず足元から音。


「コンクリートや。土埃立たへんやろ」

「…………」


 開いた口が塞がらない。言葉にならない。青い空。白い雲。緑色の木々。灰色の石。透明な建物。道行く鋼鉄の箱。光る柱。石の大木から伸びる黒い枝が覆う、町並み。


「空石さん……。アタシらの上司と連絡付いたわ。今から来よる。少しちょお待っとこか」


 9人。路地裏から出てきた。

 咲枝。綾水。リッサ。

 ポポディとララディ。

 マッツンと、レイジン。


 そして、世話係のメスの怪人を連れたナギだ。


「こ、これが……ヒノモト……!?」


 エナリアのふたりは変身を解いており、リッサも人間になって半袖セーラー服を着ている。ポポディはそのまま咲枝の肩に乗って、ララディは人間の姿に。マッツンとレイジンも人間に化けて、ラガーマンのような体格にピチピチのタンクトップだ。

 ナギも、『超盛り盛りキャバ嬢』から『その辺のキャバ嬢』レベルまで毛量を抑え、ララディの用意したオフショルダーブラウスとデニムパンツを着用。肌の色も人間に合わせて白くしている。従者のメスも、小柄であるためリッサと同じ制服を着せられていた。


「お互いに何も知らん、て。理解したやろ?」

「…………!」


 異世界の――ヒノモトの――


 日本の景色を実際に見て。ナギらカルマ一行は驚愕の色を隠せなかった。











「あれ、エナリアじゃね? ほら春風咲枝ってやつ」

「!」

「あー。えから。取材は無しや。すまんな」


 咲枝は既に、SNSで拡散されているほど有名人だ。普段は作戦本部と現場の往復しかしていなかったため、目立つことは無かった。だが、誰かは気付くだろう。咲枝は適当にあしらっていく。


「サインとか……」

「すまん時間ないねん。また今度な」

「後ろの方々は」

「察してくれ。『愉快な仲間達』や」

「春風さん! 深海新聞です! 取材を……」

「事務所通してくれな」

「いや事務所ってどこ……」


 空石を待つ数分間。彼女達は人々に囲まれた。











「すまない。道が混んでいた」

「アタシもビックリや。なんやネット記事にもなってるやん」

「ご対応、凄かったですわ咲枝さん」

「あんなもん適当や。メディア関係は空石さん任せやし」

「俺も慣れてないけどな……。まずは、無事で良かった。咲枝。綾水」


 綾水の――否。北城治家の執事(じいや)の、リムジンに乗り込んだ一行。


「……物凄いことになったな」

「やっぱり?」

「いや、咲枝は悪くない。後は任せてくれ」

「いやーんイケメン」

「懐かしいノリディね……」


 咲枝が身体をくねらせた所で、空石がナギとララディに向き合った。


「初めまして。空石八朔と申します。この国の、怪人との戦いに関する組織の長です」


 なるべく、相手に分かりやすいように説明をする。当然ながら、エナジーの扱えない空石とは、言葉は通じない。今回の通訳は綾水にお願いしている。


「初めまして。ハッサクさん。わたしはララディ。ウインディアの第一王女です。兄が、お世話になっております。……それ以上に、我がウインディアに協力してくださり、誠にありがとうございます。不甲斐ないわたし達を、どうかお許しください」


 ぺこりと、深く頭を下げるララディ。見た目中学生の彼女にされると、空石は困ってしまう。


「とんでもない。エナジーアニマルが怪人と戦えないのは聞き及んでいます。こちらにとっても、怪人の被害は出したくない。利害は一致しています」

「ありがとうございます」

「…………」


 そんな会話を。

 居心地悪そうに聞いているのが、ナギだった。


「……初めまして」

「…………」

「……あの……?」


 ナギは、むすっとした顔で、ずっと窓から流れてくる景色を眺めていた。何度か声を掛けて、ようやくこちらを向く。


「……む……。なんだ」

「あんた今、景色に夢中やったやろ」

「ギクリ!」


 咲枝に突っ込まれ、ナギは頬を赤くした。


「それ口で言うんや……」

「ぐ……。ふん! 確かに、多少は栄えているようではある。それが何だ。わらわに一体、何を見せたいのだ」

「目ぇキラッキラしとんで」

「うるさい!」

「くすっ」

「!」


 その様子を見て。

 ララディが笑った。


「ふふ。ね? ナギさん」

「…………うるさい。何が『ね?』だ。わらわは……認めん」

「…………」


 国民を虐殺し、国土を侵略した相手に向かって。王女がそんなに朗らかに笑えるものだろうか。


 常識や価値観、考え方が違うのだ。咲枝はあの『会談』を思い出していた。











「まず、カルマの目的を教えてください。それ次第では、これ以上戦わなくて済みます」


 ウインディア王城にて。ララディが切り出した。受けたナギは、ふんと鼻息を出す。


「決まっていよう。ここのように、人間界もわらわの手に収める。支配圏を広げ、カルマの名を世に知らしめるのが目的だ」

「ええ。それならやはり戦わなくて良い」

「なんだと」


 ララディは、リッサと共に、人間界を見てきたのだ。ナギとは違って。


「攻めるべき敵の、戦力や国土、技術レベルなど。当然、事前にお調べになったのでしょう?」

「当たり前だ。まだ報告は来ていないが今、その最中だ」

「不可能ですよ。人間界制圧は」

「なに」


 ドレスの隙間から地図を取り出して、テーブルに広げた。

 日本中どこでも手に入る世界地図だ。


「ヒノモトはこれです」

「!」

「小さいでしょう? 因みにこれでもウインディア全土の1000倍はあります」

「な」


 赤のマジックペンで、日本列島を丸く囲む。


「この陸地全部、人間の支配下です」

「なっ」

「空も。地上と海を全て監視できる機械が遥か上空にいくつも浮いています」

「……!」

「全部で、約75億人。兵士だけで見ても、3000万人ほどと目されています」

「なん……」

「人間界の『武装』をご存知ないでしょう。分かりやすく言えば『気付かないくらい遠い距離』から『気付かない速さ』で『対処できない量』の『鋼鉄の宝石』が『どんな甲殻も貫通する威力』で『大雨のように降り注ぎ』ます。エナジーに頼るこの世界の原始的な戦い方では、何ひとつ対処できません」

「…………っ」

「勿論、肉体レベルは人間より遥かに怪人の方が強い。ですが武器のスペックで充分補えています。空の向こうから、こちらの休む間もないほど継続的に長期間ずっと『猛毒入りの爆弾』を落とされ続けては戦いにすらなりません」


 今、ララディの説明した全て。

 21世紀現代で可能な『通常兵器』の性能である。そもそもが、詰んでいるのだ。今からどれだけ異世界から攻めてこられようが。現代人類は既に『無敵』である。いくらかの犠牲はあるだろうが、『人類が敗ける』ことはあり得ないと言い切れる。さらなる科学力で凌駕でも、されない限りは。


「……信じられるか。そんな荒唐無稽なっ」

本当ほんまや。全部」

「!」


 咲枝が口を開く。


「まあ、普通の銃はあんたらに効かへんけどな。威力上げたらえだけの話や。ほいで、エナジー使つこたらもっと強なるやろ」


 その言葉に、嘘は無い。それはナギにも、エナジーとして伝わっている。

 だが。


「…………わらわは王だ。100万の民を背負っている。そう簡単に、それを認める訳には行かぬ」

「でしょうね。ですから、実際に見てはいかがでしょうか」

「は?」


 ララディは。


「勿論、咲枝さん達『人間界側』の許可が無ければいけませんが……。ナギさんの『人間界ツアー』を。文化と技術水準を知っていただき、『武力による侵略を諦めていただく』というのはいかがでしょう」


 相当『やり手』である。咲枝は、この少女はリッサ以上に、いやナギ以上に。

 油断ならないと思った。


「……えよ。やろか。それが早いわ。ララがえ言うんやったら。やろか。空石さん達にはうまいこと言うわ」

「ふふ。ありがとうございます」


 微笑むと本当に少女のような笑顔だった。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈咲枝〉:いやあ、帰ってきたなあ。なんや言うてもあんま長居はせんかったな。


〈綾水〉:当初の目的もきちんと果たしましたしね。問題は、怪人のボスと一緒に帰ってきたことですけれど。


〈咲枝〉:まあ、ナギは『話せる』相手やったし、なんとかなるやろ。


〈綾水〉:でもこのまま終わってしまったら、拍子抜けと言うか……。


〈咲枝〉:現実はこんなもんや。ドラマチックな結末とかそんない無いで。


〈ふたり〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第28話『変身! ナギランチタイム! その裏で……!?』


〈咲枝〉:ほら、全50話やしまだなんかあるでこれ。黒幕。


〈綾水〉:気になりますわ……!

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