第15話 変身! 両軍の事情!
「もう変身はできないのか?」
「できへん。何回か試したけどな。やけど、完全に戦えへん訳やないねん」
「?」
咲枝は起きてから、自らの身体について調べたのだ。あの、金髪少女の跳躍を見て思うところがあった。
「変身時ほどやないけど、多分今でも普通の人より強いで、アタシ」
「どういうことだ?」
建物を出て、庭までやってくる。咲枝は軽く走りながら、ジャンプをした。
「ほいっと」
軽やかに、5mほど宙を駆けた。この時点で既に、人間の限界を越えている。
そのまま一回転して着地した。
「凄いですわ。咲枝さん」
「これは、どういうことだ?」
「サキエはずっと変身し続けてたディ。その分エナジーに慣れて、変身してない時でもサキエが本来持ってるエナジーを使って運動できるようになったんディ」
ポポディが説明する。こういうことも、歴代のエナリアであったのだろう。
「まあエナリアの半分の力か、良くて6割くらいやけどな。ブレスレット無いからエナジードレインもできへんし。やけどまあ、普通の怪人やったら倒せると思うで」
「ブレスレットの予備は無いんですの? ポポさん」
「無いディ。あの時は急いでて、持ち出せたのがふたつだけディ」
「ふむ。なら『つよ怪人』を倒せるのはまだ綾水だけということか」
「わたくし、責任重大ですわね……」
♡
「ぎゃはっ! エナリ……ア? 変身はどうした」
「
――【俵返し】!!
「がっはぁ! このやろ……」
「死ね!!」
バン。
銃声が響いた。咲枝は投げてから、エナジー銃でトドメを刺したのだ。額を撃ち抜かれた怪人は即死した。
「……ふぅ。やっぱ普通の怪人でも投げだけで倒せへんな。やけど、この距離やったらアタシでも当てれる。銃当てるんに近付いて投げなアカンて、なんか銃の利点無くしてるけど」
つよ怪人は、綾水でないと倒せない。今は別行動だ。ポポディは最悪の事態を考えて、咲枝に付いている。自身を犠牲にすれば、あと一度だけ、変身ができるからだ。勿論咲枝はそれを許さないが。
「そう言えば、最近空石さん何してんねやろな。あんま本部に居らんし」
「ハッサクも戦ってくれたら嬉しいディね」
「いや何言うてんねん。空石さんは指揮や指揮。アタシの士気にも関わるし、
「それはハッサクの意思と違うかもしれないディ」
「いや、まあそうやけど」
♡
「よう空石。待たせたな」
「……いや、良いタイミングかもしれん」
「確かに。春風は一般隊員より強いとは言え、以前のような活躍は期待できないからな」
警察署内に、三木の使用している研究室がある。彼は怪人対策本部の所属ではない。彼の行っている研究は、『怪人事件解決後』を想定しているからだ。
「これだ」
研究室は学校の教室ほどの広さがあり、事務用の机と椅子、黒板も配置されていた。
机の上には書き途中の紙束や、何やら作りかけの機械なんかが散乱している。それ以外には、怪人の写真なんかも散らばっていた。
「お前の『エナジー武器』だ。専用だぞ? 署内に『経験者』がお前しか居なかっただけだがな」
三木は、その機械のパーツをいくつか取り、空石に渡した。
「ふむ」
機械の大きさは、500mlのペットボトルほどだ。長細く、飛行機の操縦桿のような形で、空石の手にぴったり合った。
「ハンドルだけか?」
「そこのスイッチを押してみろ」
操縦桿ではなく、ハンドルと呼んだ。つまり『アーチェリーの持つところ』である。ボタンを押すと、軽いスライド音と共に、ハンドルからリム――『アーチェリーの弦を張るところ』が飛び出した。
「……今更だが三木よ。銃より、弓が強いと思うか?」
「『エナジー武器』で、かつ『対怪人』を想定するなら、条件は変わってくるさ。それにお前は弓の方が上手いだろ。元国体選手」
もう一度ボタンを押すと、リムが引っ込んでハンドルに収納された。アーチェリーと聞けば大きな荷物を想像するが、これなら持ち運びも簡単だ。
「実弾でも貫けない怪人だが、エナジーを塗ればBB弾でも貫く。その武器は怪人以外には攻撃力を持たない『安全な武器』だ。安心して射て」
「……最低でも『つよ怪人』は倒したいけどな」
「シミュレーションでは可能だ。だが弦も矢もエナジーを使う為、エナジーの消費は通常のエナジー銃より多い。これまでに対策本部で貯めたエナジーから補給するが、無駄射ちはしないようにな。エナリアのふたりと違って、眠ればエナジーが回復するなんてことは無い。怪人を倒すことでしか補給はできないんだ」
「ああ。どこかで試射できるか?」
「勿論だ。お前専用に微調整は必要だ。弓力やサイトスコープとかな」
空石は、口角を上げた。これで。ようやく。
「……守れるな。これで、幹部を射抜いてやる。俺が咲枝達を守る」
♡
「ようザイシャス。エナジークリスタル手に入れたって?」
「グリフト。お前も来たのか」
怪人は、人間界へ発生するとすぐに対策本部隊員が発見する。その異形の見た目で隠れることは、人の目が日本一多い東京では殆ど不可能と言って良い。
ではザイシャスは、どうやって姿をくらませているのか。
「お前もさっさと擬態しろ。昔と違って、人間の『目』がそこらじゅうにあるんだ」
「なんだと?」
ザイシャスは、スーツを着た人間の姿だった。ここは東京郊外にある廃墟だ。
怪人は、一定のエナジーを持つと擬態能力を得る。つまり、人間の姿に化けることができるのだ。これはまだ、人間側が知らない事実。
「……慎重だな。お前らしいっちゃらしいが」
グリフトと呼ばれた怪人も、ザイシャスに言われて人間に擬態する。彼は茶髪に筋肉質の身体で、タンクトップにジーンズだった。ここに来るまでに見た人間を真似たのだろう。服ごと擬態できていることは、咲枝らが知れば羨ましがりそうだ。
「グリフトお前、『人間』がどれだけ居るか分かるか?」
「ん? まあざっと見た感じ、精々100万人くらいか? 時間は掛かるが、余裕で皆殺しにできると思うが」
「75億人だ」
「はぁ!?」
ザイシャスの言葉に、グリフトは叫ぶように驚いた。聞いたことも無い数字だったからだ。
「慎重にもなるだろ。我々の国で、約100万だろ。それも、量産できる下級怪人を含めてだ。大国が全て集まっても、1億も行かない。……『人間界侵略』はな、もはや現実的じゃないんだ。やるとしても、100年単位の超長期プロジェクトになる」
「……75億……って。あり得ねえだろ」
「私も初めは耳を疑ったさ。だが人間の言葉を理解して、調べるとそうだった。今の人間界は、いつでもどこからでも世界中のことを調べられるんだ」
そう言って、ザイシャスが取り出したのはスマホだった。グリフトはまじまじと見つめるが、初見でスマホの価値や用途が分かる者は居ない。
「繁殖しすぎだろ」
「人間界は広いからな。地図を見せようか」
スマホを軽やかにタップして、地図アプリを開く。一般的な、日本を中心とした世界地図の画像だ。
「今私達の居るこの国がどれか分かるか?」
「……これか?」
グリフトが差したのは、アメリカ大陸だった。
「違う。これだ」
「はぁ!? ちっさ!! 嘘だろ!」
「嘘じゃない。私は飛んで上空から確かめた。1000年も前から我々の祖先が支配しようとしていた『ヒノモト』は、人間界全体からすれば豆粒だ」
「…………!」
『日の本』と言いたいのだろう。大昔にも怪人は人間界を侵略しようとしていた。
「それにな。エナジー武器でなくとも、私達の甲殻を破壊する兵器が人間界にある」
「なんだと? 馬鹿な」
「見ろ」
さらにザイシャスはスマホを使い、動画や画像を映した。そこには米軍の対物狙撃銃や戦車砲の演習風景があった。
「! ……この威力」
「壁に隠れた敵兵を貫く。それは何キロも向こうから精確に撃たれるんだ。この大砲はただの力押しだが、まともに受ければ私達もただでは済まない」
「……避ければ」
「避けられないんだよ。『狙い』はもう、人間がやるんじゃない。『機械』がやってるんだ。精確に、精密だ」
「キカイ?」
「……場所や距離、動き、風なんかを読み取り、いつどこで引き金を引けば当たるかの計算を行う道具だ」
「馬鹿な!」
「……人間自体の強さは、前時代と変わらない。だがな、それを補う『機械』を産み出したんだ。そしてグリフトよ。そんな『機械兵器』に、エナジーが使われればどうなる」
「……! いよいよ、勝てねえじゃねえか」
「そうだ。既に『銃』という兵器を、奴らは手にしている」
「待てよ、人間界にはエナジーはねえだろ。尖兵がやられて吸収されたのか!? 奴らにエサを与えたのか!」
「……それをしてでも、『ブレスレット』を確保しなければならなかったんだよ」
「!」
ザイシャスは説明を終えると、スマホをしまってブレスレットを取り出した。
「しばらく潜んで良いと思う。作戦を立てつつ、力を蓄えよう」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次回予告!
〈咲枝〉:なんか、アタシどんどん人間から離れていってるん
〈綾水〉:気になさることではありませんわよ。『味方が強い』ことで困る人はひとりも居ませんわ!
〈咲枝〉:
〈ふたり〉:次回!
『美少女エナジー戦士エナリア!』
第16話『変身! 異世界ウインディアへ!』
〈咲枝〉:ついにか。ぬいぐるみの世界。
〈綾水〉:色々と、ふわふわしてそうですわよね。ポポさんの世界。
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