第32話 魔王様の手厚い看病
「あれ……? ここは?」
モナが目を覚ますとベッドの上だった。
だが彼女はベッドで寝ていた記憶はない。
直前の記憶と言えば、モンスターの王都襲来後に女神祭で演説のために壇上に居たことぐらい。演説が終わった後に、仲間たちと控室に戻ろうとしていたハズなのだが……
「起きたか、モナ」
「ウル……!! どうして!?」
気付けば部屋の扉のところにウルが立っていた。
あたりを良く見れば、ここはレオの家だった。
「キミはあの演説の後に倒れたんだ。きっとあの大型のモンスターとの戦闘で疲労していたんだろう。モナの母上がみてくれて、大きな傷は無かったとは言っていたが……」
部屋の中に入って来ると、モナの頭を撫でてくる。
たぶんケガが無いのか確かめているんだろうが、なんだかくすぐったい。
「大丈夫よ。もう痛むところはないし、お母さんが回復魔法を掛けてくれたんでしょ?」
手の中に回復効果を高める教会印の護符が握らされていた。これは先代聖女であるレジーナが内職がてらずっと作っているものだ。モナも幼い頃から修行がてら制作の手伝いをしていたので、誰が作ったかなど一目瞭然だった。
おそらくモナが倒れたと誰かがレジーナを呼びに行ってくれたのだろう。
「でも、キミの綺麗な顔に傷がついていたら大変だ」
「そ、そんなこと……」
前髪を上げ、小さな傷が無いかまじまじと見つめる。そして、額にそっと口付けを落とした。
「まぁ傷物になっていても俺がちゃんと貰うけどね」
「もうっ、ばかっ!!」
(そもそもコイツには私をあげないっつーの!!)
傍目から見れば、まるで恋人がイチャついているようにしか見えない。少し前までは殺し合いをしていたはずなのに、お互いのことを知れば知るほどに友人以上に分かり合えるような、安心感が心を温めてくれる。
「それで、なんで私はレオの部屋に居るの?」
「あぁ、運んだのが俺だったのと、広場から一番近い家がここだったから」
(きっと誰かが余計な気を利かせてここで寝かせたのね。まったくあの人たちは!)
リザとヴィンチのニヤついた顔がモナの脳裏に浮かぶ。あの二人のことだ、あわよくば手を出されてしまえばいい、とでも思ったのだろう。
「ありがとう。じゃあ私はもう帰らなきゃ」
「おっと、まだ動かない方が良い。あれから丸一日近く寝ていたんだ。それに母上も大事を取って今日の午前中まではゆっくり休んでいろってさ」
「えっ……そう、なの……」
窓から差し込む光が明るいと思っていたが、数時間では無くもっと長い間眠っていたようだ。ウルの言う通り、身体には怪我はないようだが、身体はまだちょっと重い。あの戦闘でずいぶん疲労が溜まっていたのかもしれない。
ウルの言葉に甘えて、もう少しだけベッドで休むことにした。
「ん……?」
ベッドの背もたれに寄りかかった時、部屋の中央にあるテーブルに湯気の立つ木のお皿があることに気が付いた。
「それはなに?」
「あぁ、俺が作った麦のおかゆ。起きたらモナが食べるかと思って……でもあんまり美味しくないから、捨てようかと思って」
「ええっ!? だめよ、せっかく作ってくれたのに!」
まさかの、魔王様の手作り粥である。
いったい誰が病人のために試行錯誤してキッチンに立つと思うのか。
若干照れたようにして、お粥を持って部屋の外に出ようとするのをモナが引き留める。
「食べる!」と言ってきかないモナに折れたウルはその粥を手に取ると、彼女の隣りに座った。
そして匙で掬うと、ふーふーと冷まし始めた。
「……自分で食べられるわよ?」
「いいから、待ってて……ふぅふぅ……はい、あーんして」
「えぇっ、ホントに食べさせる気なの? ううぅ……あぁん」
食べるまでは動かないとばかりに、じいっと見つめられては断れない。
モナは目の前に差し出された粥の乗った匙をパクリ、と口に含んだ。
「んぐんぐ。んんっ……あっ、美味しい……」
思っていた以上に、美味しい。
優しい味で、どこかで食べたことがあるような。
(そういえば前世で私が風邪で寝込んだ時、旦那が慣れない料理をして作ってくれたんだっけ。あの味に少し似ているのかも……)
「お粥なんて初めて作ったんだけど、舌にあったようで良かった」
「ウル……ありがとう……とっても美味しいよ」
もぐもぐと味わって食べている様子を見て、ウルもホッとしたようだ。
にへら、と本当に邪気のない笑顔を見せる。
それは、本当にウルなのかと見間違うほどの優しい表情だった。
――トントントン
もう一口、といったところで玄関の方からノックをする音がする。どうやら来客のようだ。知り合いの少ない彼に客とは珍しい。
「誰かが来たようだ。ちょっと出てくる」
残念そうな表情で、席を立って部屋から出て行くウルをモナが見送る。
ちょっとだけ味の変わってしまったお粥を食べながら、部屋の中を改めて見回してみた。
家のレイアウトは以前とほとんど変わっていない。
違うのは家主だけだ。
机の上には、どこで手に入れたのかも分からないような、手書きの魔法陣が書かれた本が山となって積まれている。
彼は何かの魔術の勉強でもしているのだろうか……
「なんだか騒がしいわね……」
帰ってこない今の家主を心配していると、ガヤガヤという複数の人の話し声が聞こえた。
何かトラブルでも起きたのかと思い玄関の方に向かってみると、困惑しているウルが片手にカゴを持って立ちつくしていた。
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