第28話 孤独な戦い
モンスターの襲来によって急遽討伐に駆り出された三人の勇者メンバーと彼らの師匠であるヴィンチ。
彼らはたくさんの国民に見送られ、王都の正門にやって来ていた。
もう既に視界の先には、大小さまざまなモンスターの群れが次々と押し寄せてきている。
それも、羽の生えた狼や四足歩行をしている岩石など、異形のバケモノから無機物までバラエティ豊かなモンスターたち。
それが今、土煙を立ててこちらへと向かってきているのだ。
「なんで俺がこんなことを……」
「仕方がないでしょ、勇者が居ないってバレたら格好がつかないんだから」
「だからって……何でよりによって俺が勇者なんかに……」
そういう男の見た目は、完全に勇者レオナルドである。
だが口調や仕草は彼とはまるで違っている。
「ははは、ヴィンチったら案外サマになってるよ?」
「うふふふ、そうね。どうせなら、そのまま勇者になっちゃえば?」
「みんな、もう敵が目の前に迫ってるんだからあんまりふざけないで……」
「はぁ……帰りてぇ……」
そう、実際の中身は勇者たちの師匠であるヴィンチだった。
魔法が堪能なリザの幻惑魔法で彼を勇者レオに仕立て上げたのだ。
理由は簡単、彼が居ないとバレたら後で方々からメチャクチャ怒られるからだ。
「でも、彼に教えたのは師匠なんだからレオの真似なんて簡単でしょう?」
「ばっか、俺の歳を考えろっつーの。老人をコキ使いやがって全く……」
文句をブーブー言いながらも、不敵に笑うヴィンチ。
彼も勇者たちに教える前は王城の兵たちの指南役を長年勤めていただけあって、戦闘に関しての技術や経験はピカイチである。
つまり根っからの武闘派である彼はこの状況を心の中で密かに楽しんでいた。
「それじゃあ、みんな。後は競争ってことでいいかな?」
「お、いいね。アタシは賛成!」
「えぇ……ホントにやるの?」
「なんだ、モナ。ビビってんのか?」
「ふふふっ。馬鹿にしないでよ? 私だって成長したってところを見せてあげるわ」
そしてその戦闘狂は弟子たちにも立派に受け継がれている。
この場に居る誰もが、あのモンスターの大軍に恐れなど抱いては居ないのだ。
誰からともなく、四人は四方へと猛スピードで散っていく。
東西南北にある門を護る為に、それぞれがバラバラに向かったのだ。
その光景を正門に集まっていた、王都内を守護している第二騎士団の兵たちが呆気にとられた様子で彼らを見送っていた。
先日この部隊に配属されたばかりの新人兵士が不安に思ったのか、上官に質問する。
「隊長……彼ら一人で本当に大丈夫なんですかね?」
「大丈夫だ!! ……と信じたいが、正直分からん!!」
「ええっ!?」
隊長と呼ばれた中年兵士はモジャモジャの顎髭を揺らしながら大声で答えた。
世界最強の英雄たちがもし負けてしまば、次は自分たちがこの王都を守らなければならないのだ。
彼らが不安に思うのも当然だろう。
「だが、我らが束になってもまるで敵わないあのヴィンチさんが実力では最早あの四人には敵わないと
「そんなに……俄かには信じられませんよ!?」
「もし巻き込まれても良いっつーんなら、お前も行って来い!」
「うええっ!? それだけは勘弁してくださいよ隊長!!」
がははは、と隊長の豪快な笑い声を背に受けながら、各自の持ち場へと移ったモナ、ミケ、リザ、ヴィンチの四人はさっそく己の武器を取り出し、モンスターの群れへと突撃する。
ミケは国宝の両手剣を手に素早い動きを見せる巨大ネズミのモンスターを一刀両断に。
リザは空を舞う漆黒の怪鳥を自慢の炎魔法で一網打尽にしていく。
そしてヴィンチは特大のハンマーで鋼鉄の身体を持つスライムを片っ端から破砕していた。
一方の聖女、モナといえば……
「はぁ、はぁ……ったく、キリがないわねっ!!」
自身に回復魔法を掛けながら、跳ねまわる猿にそっくりなモンスターをトゲ付きメイスでモグラ叩きのようにポコポコと叩き潰していた。
「まったくっ! わたしはっ、戦闘専門じゃっ、ないのにっっ!!」
今度はメイスをバット代わりにして見事なスイングでモンスターたちの顔面を次々とクリーンヒットさせていく。
さながらモンスターのバッティングセンターだ。
「これならっ! 王都に残ってっ! 結界でも張って守護してた方が楽だったわっ!!」
彼女の本分は回復や防御である。
つまりこうやって前線で戦うのは本来は彼女の得意分野ではない。
とは言っても、さすがは勇者メンバー。
その細腕で猿型モンスターたちを次々となぎ倒し、死体の山を積み上げていく。
しかしそれでも、モンスターの群れは一向に尽きそうにない。
いったい何処からこんなにも大量のモンスターが湧いて出てきたのか。
王都周辺の見回りをしている兵たちに文句のひと言も言いたくなってくる。
「……って、そうだった。魔王討伐の影響で軍縮したってミケが言ってたっけ。だからって急にこんなタイミングで襲来するなんて『グォォオオッ』……あぁもうっ、今度は何よっ!?」
振り向きざまに背後から飛びかかってきたモンスターを外野フライにしたところで、今までとはまた違う唸り声を聞いたモナ。
その声のした方を向くと……
「ちょっと、うそでしょう……?」
群れるモンスターをかき分け、ひと際大きな体躯をしたモンスターがやってきた。
ただデカいだけではない。さっきまでの猿が可愛く見えるほどの、ゴリラの様な筋肉を持っている。
猿が雑魚ならば、コイツはさながら中ボスといったところか。
パワータイプのモンスターとヒーラーのモナでは相性が悪すぎる。
まるで図ったかのような最悪の配置である。
これを意図的にできる人物など、そうそう居ない。
考えられるのはあの魔王ウルぐらいなものだ。
「アイツ……まさか本当に……」
少しだけ彼を信じ始めていたのに、やっぱり人類の敵だったのかという考えが頭をよぎった。
同時に少しだけ、本当に僅かだけ。モナは自分の心がチクリと痛むのを感じてしまった。
「あれ、なんで私……ショックを受けているんだろう。レオさえ戻ればそれで良いはずなのに……」
戦闘中にもかかわらず、そんなことを考えていると……遠くから涼やかな鐘の音が鳴り響いてきた。
太陽はもう、空の一番高いところで光り輝いている。
その鐘がモナの耳にも届いた時、モンスターたちに異変が起きた。
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