魔性の王と奴隷契約 〜世界を救った聖女ですが、結婚予定の勇者に乗り移った魔王に溺愛されて困っています~

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第1章 契約開始

第1話 崩壊への序曲

「だめ……っ、それ以上は契約外……、でしょうッ……!?」

「ふぅん? でも言い訳をして良いというのも……キミとの契約に無かったよね?」

「むぐっ……!?」


 男にベッドへ押さえつけられ、止めさせようと開いた口を無理やり塞がれてしまう。

 仕事服である彼女の修道服も乱れきっており、神に仕える聖職者にあるまじき姿となっている。だが、そんな事を気にしている余裕は彼女にはない。

 むしろ拒否の言葉とは裏腹に、男を熱っぽい目で見つめていた。



 何度も自分をまもってきたこの背中を、彼女は知っている。

 命懸けの戦闘で鍛えられた、あのたくましい腕も。

 鋼のような筋肉で造られた胸を、彼の汗がどのように流れていくかさえも。


 共に戦い、死闘の末に魔王を打ち倒した勇者。

 救世の英雄と民から尊敬されている彼の事なら、彼女は何でも知っているつもりだった。




 なぜなら彼女は、彼を見てきたのだから。


「やめて……お願い……本当の貴方はそんなことをする人じゃない、でしょうっ!?」


 前世である日本の記憶を持ったままこの世界に生まれ落ちた。

 それも何の因果か聖女となり、恐ろしいモンスターや魔王に立ち向かわなければならないと言われ、不安な幼少時代を過ごす。


 そんな幼かった頃の自分を、底抜けに明るい性格だったこの青年が救ってくれた。

 自然と彼に好意を寄せるようになっていったのは、何も不思議なことではないだろう。



 だからいつかその手で、優しく触れてくれることを望んでいた。

 眠れない夜に彼を夢想したことすら幾度もあった。

 もしかしたら彼女が世間からは聖女と呼ばれていることも、妄想を更に刺激的にさせるスパイスだったのかもしれない。



 そして今、その夢が実現しようとしていた。

 ……だが彼女をベッドの上で拘束しているのは、その夢にまで望んだ彼であって――見た目こそ同じだが――中身は全く違う、因縁のだった。


「いい加減に……しなさいよっ、ウル……!」

「その魔王と契約を望んだのはキミだったよね? 聖女のモナさん?」

「くうっ……!!」



 勇者と魔王。

 正義と悪の代名詞であり、この世界では相反する存在。

 それがどうしてこんなことになってしまったのか……

 幼馴染である勇者の身体に、なんと魔王の魂が宿ってしまったのだ。



(この、悪魔め……!!)



「それに俺との契約を破ったのはキミだろう? 忘れてはいないはずだよ。契約不履行――その時のルールは?」

「……一度破る度に、自分の大事なモノをひとつ相手に捧げる。だけどっ! だからって、こんなのって! んんっ!? ず、狡いわよぉっ……」


 小さい頃はあれだけ女の子みたいな手をしていたのに。

 勇者となって鍛え始めてから、節くれ立った男らしい手になった。

 その指が今、彼女の身体に触れている――


 どれだけ身をよじって逃げようとしても、この執念深い蛇のような指はどこまでも追跡し、ひとたび反応してしまえばしつこく、ねちっこく、時に焦らすように攻められてしまう。


 


 そうしている内に、いつの間にか足の間に彼の身体が割り込まれる。

 さらには空いていた片手で彼女の両手首が拘束されてしまった。


 なんといっても、相手は魔王すらほふった世界最強の勇者だ。

 そのポテンシャルを最大限に使われてしまっては、いくら聖女といえど抵抗することはかなわない。



 他に手を封じられ、聖女は魔王を睨みつける以外に出来ることが無くなってしまった。

 遂に彼女を追い詰めたと満足したのか、魔王はニッコリと笑う。


「これからが本番。……覚悟、して?」

「ひっ!?」



 当然、止めてと言ったところで彼の手は休まることはない。

 


 二人が居るこの部屋には不思議な香りが充満していた。

 そしてその匂いは魔王から出ている。


(だめ、だめなの……この香りは余りにも危険すぎるわ……)


 そもそもアレは不快どころか、不思議な中毒性のある甘い匂い。


 より深く、より強く脳を揺らし、溶かしていく。

 聖女の理性はもう崩壊寸前だ。


 そしてそれは――彼も同じだった。


(あのレオが……)


 あの誰にでも優しかった彼が、欲に塗れた顔をしている。

 その感情を他でもない、自分に向けて。

 嫌だ……そう、頭では願っているはずなのに。



(ああ、女神様……私をお許しください……)



 ぼんやりと薄れゆく意識の中。

 モナはこの事態を引き起こす発端となった、ひと月前の事件を思い返していた。


(あの時、コイツとあんな契約なんてしなければ……)


「さぁ、聖女モナ。俺のモノになる覚悟はできた?」

「……ッ!!」



 遂に最終通告をもたらされたモナ。

 彼女は諦観にも似た表情で瞳を閉じるのであった。


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