第17話 3 繁華街の片隅のバー



 真夜中の街に紳士ズラをした男達四人がいる。四人は夜の街を徘徊し、一件のバーに入った。それぞれにウイスキーやカクテルを頼んだが、瓶ビール3本が限界の市木は、それでもピルスナーのビールを頼んでいた。

 飲み物が一通り揃うと、酔っ払いの紳士崩れ達は、乾杯をしたが、それぞれが自分の世界に入り込んでいるように黙っている。市木は軽く会話のジャブを入れてみるつもりで、

「そういえば、梅本、子供はいくつになった?」

「んー、僕は、まだ子供はいないんだ」

「え?」

「それ、ワシや、娘が一人や」

「そーだなー、何処かで連絡の行き違いがあったのかもしれないな。まー、結婚しているのが、僕と丸山だけだし、子供がいるのは、丸山の沙織ちゃんだけだね」

それ以上会話は進まず、また四人の酩酊男達は黙り込む。

「なんか、この少人数っていうのも悪くないねんけど、こう、何んて言うか、何んか足りひんような感じがあるなぁ」

としみじみと丸山が言う。

「そうだなぁ、僕ら四人かぁ、確かに誰か足りないような気がするね」

と梅本が言うと、

「リン」

と市木が言った。

「そうや、リンや、あいつ、めっちゃんこ別嬪さんやったなぁ、今頃、何処で何してるんやろぅ」

「しかし、近藤もモテたぞ」

と市木が言うと梅本がそれを受けて

「そうだねぇ、四人の中でと言うよりも、予備校の中でも1番カッコ良かったと思うよ」

「せやなぁ、こいつ見た目だけは良かったもんな」

「たけやん、それはないんちゃうのぉ」

と丸山に向かって近藤が不平を言う。

「まぁ、近藤の事は放っといて、リンって不思議な子やったなぁ」

「そうだねぇ、確か両親は海外にいて、自分は日本で一人暮らしをしてるって言ってたような」

「何んかさぁ、本名はイタリア語みたいな名前とか、言うてたような気がするねんけど」

自分の話題から外れて安心したかのように近藤が言う。

「んー、どうかなぁ、しかも男の子の名前を言っていたような」

梅本がそう言うと、

「まんまと騙されたのさ」

と市木が答えた。

「そない言うけどな、あいつ、ワシ等の住んでたところで言うたら、宝塚歌劇団の男役やったら、ハマり役やで」

「あー、そうだねぇ、目がブルー、髪がブロンド、だったら間違いなく純粋の外国人だよねぇ」

「そやで、予備校でも、大股で、肩で風切って歩いとったやん」

梅本と丸山が交互に言う。

「だから彼氏もできなかったんだよ」

と市木が言うと、

「あいつ、告られる度に足蹴にしてたん知らんの?」

と丸山が答えた。

「そうかぁ、リン、かぁ。不思議な子だったなぁ」と誰もが心の中で呟いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る