第197話 ネコカフェ状態



 僕は雑貨屋さんで大量の無職のツボを買った。三百個だ。これでとうぶん、無職のツボには困らないだろう。


「あとは銀行に行って、マーダー神殿で転職もして、そうそう。ギルドに寄付もしとこうかなぁ」


 何しろ、別荘からお姫様を救って、そのあとすぐに大会で準決勝して、その夜は疲れてすぐに寝ちゃったから、まだひろった二十二兆円、持ち歩いてるんだよね。気になって、気になって。


 銀行に二十兆円預けた。

 これで僕の老後も安泰だ。この世界にいるときは、だけど。


「はい。じゃあ、三千億円寄付ね。貧しい人たちに使ってあげてよ。とくにエレキテルのそばのスラム街の人たちに」


 受付のお姉さんにお金を渡す。すると、お姉さんは言った。


「あのスラム街でしたら、ワレスさまの提言で、衛生面や防御を考慮した街として再建するため、すでに兵士が派遣されていますよ。ですが、街づくりの資金を提供してくださるのは大変ありがたいことです。復興が早まることでしょう」

「よし。じゃあ、さらに二千億寄付だ」

「ありがとうございます」


 アジたちの故郷だもんね。住みやすい、いい街になってほしいな。


 最後に転職だ。

 マーダー神殿へ急ぐ。


「やっとツボが手に入ったから、ネコたちにも新しい職業をおぼえさせられるね」


 ニャーニャーとついてくる猫四匹。可愛いなぁ。

 でも、蘭さんの目が……。


「かーくん。たしかに猫たちは可愛いですよ? でも同じモンスターばっかり四匹もつれ歩くのはムダじゃないですか? 馬車に乗れる人数もかぎられてるし」

「ええー! 可愛いよ? ネコりん可愛いよ? どこでもネコカフェだよ? 動くネコカフェ〜」

「まあ、可愛いですよ。でも——」

「お願い。まだいいでしょ? 馬車にゆとりあるし」

「……わかりました。ゆとりがあるうちだけですよ?」


 うう。釘を刺されてしまった。ということは、ネコりんはどの子か一匹、多くとも二匹を優先的に育てないとダメか。子白虎になれる白ネコりんのトイと、トイと仲よしのキジトラのタイガがいいかな。


「じゃあ、トイとタイガは盗賊ね。あと、封じ噛みができる市松人形のツボがもう一個あるんだ。モンスターにおぼえてもらうのがいいと思う。ロランは誰がいい?」

「大会のとき、ぽよちゃんが使ってた技ですね。今回みたいに二手にわかれたときにも使えそうな技だから……ケロちゃんなら、どうでしょう? ケロちゃんは石化攻撃がメインです。石化の効かない相手に対しても使える技があるといいですね」


 というわけで、ネコりん二匹とケロちゃんは決定。

 アジがなんと盗賊団育ちなのに、盗賊になれなかったので、これもツボで盗賊。


「ああ、たぶん、ラフランスさんも盗賊なったことないかもだね。後衛援護はしてもらいたいから、弓使いになるために、盗賊のツボとっとかないと」


 とつぜん、猛がつぶやく。

「……かーくん。兄ちゃん、格闘王になれるみたいだ」

「えッ?」

「生来特技の武術ってやつのランクが5にあがってる。格闘王になれるって」


 ふう……神様は不公平だよ〜。猛ばっかり、強い技が使える。


「じゃあ、なってよ」

「ああ」


 猛は格闘王になった。

 そうか。兄ちゃんも反射カウンター使うようになるんだ。ますます強くなるねぇ。


 蘭さんは聖騎士マスター中だから、いいとして。


「アンドーくん、まだ大技がないよね?」

「そげだに。トドメはHP減っとらんと効果出んしねぇ」

「じゃあ、アンドーくんに羊飼いのツボあげる。毛刈りをおぼえてほしい。攻撃しながら相手の防御力けずれるのはオイシイ」

「だんだん。ありがとう」


 僕はぽよちゃんを何にさせるか考えた。ぽよちゃんは前の特訓のときに、暗殺者にまでなったから、もうツボを使わずになれる職業はない。商人のツボが一個だけ残ってるから、これにしようかな。それか、詩人。


「詩人をおぼえたら、ぽよちゃんは騎士になれるね。じゃあ、詩人かな」


 と、そのときだ。

 僕は気づいた。まだもう一個だけ、なれる職業がある。


「ああッ! ぽよちゃんが……」

「どうした? かーくん。困ったときは兄ちゃんが助けてやるぞ?」

「いや、困ってないけどさ。どうしよう。ぽよちゃんがバーサーカーになれる」

「バーサーカーか。あれは味方も攻撃してくるんだよなぁ。なろうと思えば、兄ちゃんもなれるけどな」

「えッ? ヤダよ? 兄ちゃんの攻撃力で味方襲ってきたら、殺人鬼じゃん」

「だから、なってないだろ」

「あっ、よく見たら、僕もなれる」


 すると、蘭さんとアンドーくんも口を出す。


「バーサーカーですか。僕はなれません」

「わはなれぇよ?」


 アンドーくんと言えば、暗殺者。


「そうか。暗殺者マスターが就労条件か」


 だからって、バーサーカー……。

 でも、こういう負の職業って、たいていマスターすると、そのあとすごくいいことがあるんだよな。

 どうする? まさかのバーサーカー祭りか?

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