第23話「閃き」

 トレースで敵のスキルを使える様になったのはいいけどこれだけじゃ相手にダメージを与えることが出来ない。


 こいつの弱点も鑑定してくれよ。と蓮は先程までの感謝を忘れて鑑定アイテムにイライラをぶつけていた。


すると敵は突然、倒れていた青年の方に向きを変えて襲い掛かろうとしている。


 戦闘前少し離れた場所に移動させておいたがどうやら松明たいまつの明かりに反応してしまったようだ。


「おい! その松明を早く投げ捨てろ!」


「は、はいっ!!」


 松明は蜘蛛の足元に転がっていくとそれを見た蜘蛛は動きを止めて後ろに退き、口から吐き出された粘糸で松明の火を消した。


 (ん? 今やたらと火を嫌がっていたような……)


「……!」


 蓮は何かを思い付いたかの様に青年に叫んだ。


「すいません! 火種となるものは持っていませんか!?」


「松明に着火するための道具なら後1回分ありますけど……」


「蓮、そんなもの何に使うの?」


「少し試したくてね」


 蓮は青年から受け取った着火道具を百合の矢に付けた。


「百合! 相手に向けて矢を放ってくれ!」


「よく分かんないけどこれで良いんだよね!?」


 百合の放った矢は先端から炎を上げて風を切り相手の体に直撃した。あまりの速さに足による防御も間に合わなかった。


『グギャァァァァァ!』


 矢が敵に当たるとこれまで聞いた事もない叫び声で苦しんでいる。


 (やっぱり、おそらくあいつの弱点は火だ! さっき松明をすぐ消そうとしたから不思議に思ったけど……間違いない)


 あとはどうやって火による攻撃を敵に当てるかだけど、俺の白剣に属性付与してもあの巨体じゃ何回も切らなきゃいけないから難しい。


「蓮! 何か様子がおかしいよ!」


 蓮は敵の腹辺りに視線を移すと腹から10体ほどの子蜘蛛が現れていた。


「きゃぁぁ! むりむりむりむりっ! これはホント無理!!」


 大量に現れた蜘蛛はヘビースパイダー程ではないがかなりの大きさの蜘蛛だった。


 出現するや否や一斉にこちらに飛びかかって来た。蜘蛛1匹自体の能力はそんなに高くなさそうだったが、数が多すぎて処理が追いつかない。


 葵はギャーギャー叫びながらひたすら部屋中を逃げ回っている。


 蓮は昔見たテレビを思い出していた……炎が大きくなる仕組み……大量の空気を大量の火種に送り込むと燃焼が強くなる……大量の空気、火種……!


 蓮は上手くいく保証はなかったが、すぐに行動に移した。


「葵! 百合! そのまま部屋を逃げ回って親蜘蛛の周りに子蜘蛛を集めてくれ!」


「わぁぁぁぁ! こっち来ないでぇぇぇぇ!」

「お兄ちゃん! もう葵さん色んな意味で限界だから頼んだよ!」


 蓮はコクリと頷くとすぐにスキルを掛け直した。


「カスタマイズ[改変]AGI+、属性付与(火)を白剣へ、AGI +、属性付与(火)をナイフへ!」


 二つの武器から大きなサークルが出現して《属性付与効果の多重発動を確認―性能倍化―》の表示が現れた。


 二つの武器に同時に属性付与効果を付与した事で性能が上がったようだったが蓮は気にする余裕がなくそのままスキルを唱えた。


「瞬身、硬質化……」


「二人とも! 助かった! 離れていいぞ!」


 蓮は部屋中央にまとめられた敵に目掛けて外側から中に追い込む様に全ての敵を高速で斬りつけた。

 途中敵からの反撃は硬質化を掛けた腕でダメージ軽減しながら防いでいった。


 敵からはこれまでの属性付与以上の炎が上がっている。しかし、敵を倒すまでには至らない。


「よし、これで準備はできた。最後だ!」


 瞬身で敵から即座に距離を置くと先程トレースしたスキルを敵中央に向けて放った。


「ポイズンストーム」


 部屋の中央には毒霧の紫と燃え盛る炎の赤色が混ざり合っていく。

 そして突風に巻き上げられた炎は更に勢いを増して周りに強烈な熱波が押し寄せた。


「あっつ!!」


『ギャァァッ! ギィィィィッ!』


 敵は親蜘蛛と子蜘蛛が火種となり炎の勢いは延々と続いた。ここまで継続的にダメージが入れば再生も追いつかないだろう。


 暫くして敵が苦しんでいる声が止まるとヘビースパイダーが、燃えた体でゆっくりとこちらに近づいて来た。


 瞬身の硬直が既に溶けていた俺は白剣を大きく振り被り頭目掛けて突き刺した。


 悲鳴も出す事なく、敵はそのまま消滅していった。


 《大蜘蛛の体液を取得》


 《レベルアップ Lv.49→L v.50》

  -ステータス変動無し

  -スキルレベルアップ【カスタマイズLv.3】→【カスタマイズLv.4】


 蓮はレベルが上がりカスタマイズのレベルも4に上がった。


 (今はさっさとこの場を移動するのが先だな。後で確認しよう)


「上手くいったな。ポーションを飲ませたとはいえ傷が酷い、ひとまずこの場を去るぞ!」


 蓮達は青年を背負いながらデュラムの元へと向かった。


「よく戻ってきてくれた! 大丈夫か!?』

「……はい。デュラムさん。この人達に助けて頂きました」


「二人ともまだ辺りには敵がいるかもしれないので一旦、街へ戻りましょう!」


 負傷した二人を連れて街へ戻った。街へ着くと青年とは一度別れてエルムの鍛冶屋へとデュラムと共に向かった。


「いらっしゃいませ!……お父さん!? どうしたの!?」


「ちょっと厄介事に巻き込まれてな。この人達に助けてもらったんだ」


「あ、そう言えばデュラムさん! これをエルムさんから頼まれていて」


 すっかりツルハシを渡す事を忘れていた蓮は今になってデュラムへ渡した。


 エルムとデュラムへと依頼の事や12階層で起きた出来事を説明すると二人は改めて蓮達へ礼を述べた。


 クエストが達成されたと認識されたのかウィンドウが表示された。


《連携クエスト達成》

 A難易度達成

 ・報酬獲得

  -ユニーク装備一式作成レシピ

  -カスタマイズスキルの強化


「これでクリアか。報酬については後でまとめて確認したいが、この装備作成ってのは鍛冶屋で作ってもらえるのかな?」


「あ、はい! 良ければ私の方で作成致しますがどうされます? 今回のお礼に作成費用も頂きません」


 タダで作ってくれるなら願ってもない話だ。蓮達は即答して作ってもらえようお願いした。


 四人分の作成には時間が掛かるみたいで3日後にまた来る約束をして鍛冶屋からギルドホームへと戻った。


 ホームへ帰るとそこにはティリアが満面の笑顔で出迎えてくれた。


「皆さんおかえりなさい!」


「「「ただいまっ!」」」


 それからティリアに12階層での出来事を話して装備を作成してもらえることになった事も話したらティリアは喜びと共に自分がその場に入れなかった事を申し訳なさそうな表情で謝ってきた。


「あ、そういえば皆さんがモンスターを倒して頂いたおかげでレベルが上がったんですよ! スキルレベルも上がって出来る事も増えました」


 ティリアはギルドボーナスによる経験値取得でレベルが上がり作成出来るアイテムと使えるスキルが増えていた。


 作成アイテムはスペクタクルズと麻痺の状態異常を治すパナケア、そして毒状態を治すポイケアの三つだった。


 スキルも対象の状態異常効果を別の対象に移すシンクロというスキルを覚えた。


「戦闘でも使えそうなスキルだな! アイテムも気になるからまた素材を調べて作成しようか」


 装備作成までの三日間は傷を癒して、今回のクエストで手に入った素材などの情報を整理して過ごした。


 そしてクエスト報酬のカスタマイズスキル強化の内容を見た蓮は困惑していた。


「なんか見た事ない項目が増えてる……SBP?」

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