第68話 騎竜
「お~~~!」
「どうですか、走竜の乗り心地は」
「最高だ」
吹き付ける風が程よくなるくらいの速度、生き物に乗っていることを感じさせない滑らかな走り、そして抜群の安定感。
どれをとっても満点な走竜たちは今、大草原の奥側にある大樹を目指して走っていた。
なんでもその大樹の下はロタリオとナディアの愛竜2体が気に入っている場所で、この時間はそこで昼寝をしているらしい。
厩を出発した直後、ロタリオの「大樹のもとに行きましょう、騎竜と直接触れ合うことができるのはそこしかありません」という一言に全力で頷いたら向かうことになった。ちなみにその時はリア姉もぶんぶん頷いていたっけ。
まぁリア姉がうっかり貴族モードを忘れてしまうのも分かる。
騎竜と触れ合うことができるというのはそれほどまでに貴重な体験なのだ。
「本当に触らせてくれるのか?」
「もちろんです、アルテュール様。彼らも尻尾を振って歓迎することでしょう」
まるで犬のことのように話すロタリオであるが、話しているのは騎竜のことだ。間違えちゃいけない。
騎竜ってのはとても誇り高い生き物だ。
竜騎士のような騎竜自身に特別だと認められた人間じゃないと対等に触れ合うことを許されない。
究極の器用貧乏(笑)の俺がおいそれと触れ合える生き物じゃないのだ。
―――そんな
不安もあるがそれよりも断然期待感のほうが大きい。無意識のうちに頬が緩んでにやけてしまいそうだ。ぐへへ…。
気分が前向きになれば自然と視線も上がる。
最終目標は大草原奥の騎竜と触れ合うことだが、それまで何もしてはいけないというルールはない。存分に騎竜を観察しようじゃないか。
◇◇◇
ここ、第三騎士団本部後ろに広がる大草原には現在30体もの騎竜が放し飼いされている。
放し飼いされている生き物がウサギとかの小動物なら探すのに一苦労二苦労かかるのだろうが、俺が今探しているのは他ではそう見ない巨大生物ドラゴンだ。
なので走竜に乗り、街中とは思えないような大自然の景色を眺めながらでも見つけることができた。
竜騎士の服の群青色よりもさらに濃い紺色のがっちりとした大きな体躯、大空をどこまでも自由にかつ大胆に駆けていけそうな立派な翼、生え際から先端にかけて細くなっていく長い尻尾。
どこからどう見てもドラゴンにしか見えない生き物がちょっとした湖と言っていいほど大きい水場で水色の瞳を細め、翼をたたみ尻尾を空中でプラプラと振りながら気持ちよさそうにくつろいでいる。
「ロタリオ、あれが騎竜なのか?」
魔物図鑑や伝承で見たり読んだりしたことはあるけれど実物を見るのは王都初日を含めるとこれで二回目。
わーい騎竜だー!と喜んで実はそれが走竜の亜種でしたなんてないと思うが、あったら恥ずかしすぎるので念には念をと湖に浸かる大きな生き物を指さし尋ねる。
「はい、あれが騎竜です。アルテュール様―――今はちょうど水浴びをしていますね。比較的冷涼な王国北東にある山々が本来の生息地であった騎竜――グリューンには王都の
「なるほど」
ロタリオの言葉に頷きながらも俺の視線は騎竜――グリューンに釘付けの状態。
時間があればここでいったん降りてドラゴンウォッチングと洒落込みたいところなのだが残念なことに今は時間がない。
あそこにいる生き物が騎竜だと確信した瞬間から目を離すことができなくなった。
また、ロタリオが言っていたグリューンというのは騎竜本来の名前のことを指す。
騎竜は何も生まれた瞬間から騎竜であったわけではない。王国北東に生まれ、そこで成熟したのち竜騎士と出会い、王都に連れてこられて騎竜と周りから呼ばれるまではグリューンと呼ばれる魔物の一匹に過ぎなかったのだ。
走竜も同じような感じで元の名はラオフェンと呼ばれる竜の魔物。本来の生息地は王都とさして気候が変わらない王国東部の平原あたりだ。
ロタリオの話と自分が持っている情報に乖離がなかったことを確認し、また話しかける。
「となるとここから
先ほどまで見ていた
「はい、おっしゃる通りです。本来ならば王都という場所は彼らにとってあまり居心地のいい場所ではありません。
「…おう」
思っていたよりも熱く長い返答に若干引きつつ、本日3体目となる水場でくつろぐ騎竜を見ながらこいつら贅沢させてもらってるな~と思う俺。
その後も目的地である大樹につくまでの間、水場でくつろぐ騎竜をちらほら見たが騎竜からはストレスのスの字も感じ取れなかった。
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