第37話 究極の二択と二人
「アル様、これとこれどちらがいいと思いますか?」
3人を見送り、その後なんやかんやあったが無事服屋に着くことが出来た。
庶民が背伸びして入るお洒落な服屋。そんな感じのところに俺たちはいる。
そして俺は今、究極の二択を迫られていた。
そう洋服選びである。しかも、トップスとスカートのセットだ、難問である。
ハーバードの入試より難しいだろう。
ハッツェンの右手には灰色の胸ポケットが付いた薄手のTシャツと黄色のロングフレアスカート。左手にはショート丈、ラウンドネックの白シャツとハイベルトのプリーツスカートが。
(なんか服だけ文明レベル高くね?)
そう思わずにはいられない。
ハッツェンには悪いがどうしても気になってしまったので店員さんに聞く。
「店員さん、この服すごくかわいいね?外の人はこんな格好してなかったけど何で?」
「あら坊やどうしたの?あ~それはね、ここで取り扱っている服の大半がフィリグランから取り寄せた物なのよ。でもここら辺では浮いちゃうでしょ?だから女性はみんな普段は着ずにいざという時のための一着として必ず買っておくのよ」
「へ~、そうなんだ」
芸術の都フィリグラン―――いつか行ってみたいものだ
「あ、店員さんありがとう」
「どういたしまして、ほら連れの綺麗なお姉さんを待たせないの。早く戻ってあげなさい?……最近の子はませてるのねぇ」
優しい人だと思ったが最後の一言は完全に余計だ。
「ごめん、ハッツェン。ちょっと気になっちゃって」
放置されて少し不機嫌になってしまったハッツェンに謝り、現実と向き合うことにする。
(さて、どっちだ)
この究極の二択を迫る時、女性側はほとんど答えが決まっている。そんな都市伝説を聞いたことがある。
それなら聞くなよなと思うが女性は結構大事らしい。うん、マジで分からん。
右手と左手の洋服を交互に見る。
(う~~~ん、一緒じゃん)
ただここでそんなことを言ってみろ、店中の女性を敵に回すことになる。
弱冠5歳にして女性の敵にはなりたくない。
適当にこっちといっても、正解不正解に関わらずハッツェンは俺が選んだ方を買うのだろう。
でも出来ることならしたくない。長考の末の不正解ならまだいいが適当はダメだ、ハッツェンが悲しむ。
「う~~~ん」
期待を込めた眼差しで俺を見つめてくるハッツェン、そんな目で見んでくれ。
悩んだ末に導き出した答えを恐る恐る彼女に伝える。
「俺は左手のやつがいいと思うな、」
さぁ、どうだ?
「う~ん、理由も聞いていいですか?」
真剣な目で両手にある洋服を交互に見つめているハッツェン
(それは、どっちなんだ…!)
分からん、本当に分からん。
ただ聞かれたからにはありのまま俺が思ったことを話す。
「えっと、俺が選んだ方は何というか、大人っぽいっていうのかな?その最近ハッツェン大人っぽくなってきたからさ、それを引き立ててくれるんじゃないかなぁ、と」
言語化するとひどいな。
ただそれを聞いた彼女は真剣に考えてくれている。
「でももう一つの方もハッツェンが髪の毛を後ろでいい感じに結わえば似合う気がする。ハッツェンスタイルいいし……」
思ったことを全部言ってしまう、どっちつかずの回答だ。あぁ情けねぇ。
それでも彼女は何かに納得したように頷いて店員さんに向けて
「二つとも下さい」と言った。
「畏まりました、では採寸のためこちらに来ていただいてもよろしいでしょうか?」
店員さんに連れられ奥の方に行ってしまう。
(なんか視線を感じる)
周りを見ると店の中にいた人が全員俺を見て「よかったね」と目線で言ってきた。
(うるさいやい)
◇◇◇
ご機嫌なハッツェンとその後適当に王都を散策し日が暮れる前に屋敷へ戻る。
自分の部屋へ向かう途中、昨日道案内してくれた綺麗な侍女さんに声をかけられた。
「若様、御屋形様がお呼びです」
「?わかった、すぐに行くよ。ところで君名前なんて言うの?」
別に口説いてるわけじゃない。だからハッツェンそんな目で見ないでくれ。
「マリエルと申します」
マリエルはそう簡潔に言った。
改めて俺は綺麗な侍女マリエルを見る。
年の頃は20くらい?大人っぽいんで正確な歳は分からない。透き通ったエメラルド色の長髪に優しそうな目元のおっとり癒し系美人。背丈はハッツェンよりちょい上、ギリ高身長と言ったところか。
そして何より目を引き付けるのは胸部の御神体、服の下からでも神気が溢れ出している。ありがたや~。
そんな俺の
「若様、女性をじろじろと見るのは紳士ではありませんよ?」
「ああ、すまない。綺麗だった揉んでつい」
全然反省してない俺氏、言葉でセクハラしてしまっている。
ハッツェンの目がさらに厳しくなる、そろそろヤバい。
「…マリエル、昨日はありがとうな。助かったよ」
「それが私共の役目ですからね」
露骨な話しの逸らし方に、マリエルはクスリと笑い優しげな眼でこちらを見つめてくる、超恥ずい。
「じゃあ俺たちはこれで。父上のところに早速行かなくてはだからな」
逃げるようにしてこの場を去ろうとする。マリエルの、ハッツェンの視線から逃れようとする、が―――
(あ、俺執務室の場所覚えてねぇや)
「…マリエル、執務室まで案内してくれないか?」
「承知いたしました」
―――――あぁ、恥ずい
◇◇◇
マリエル、ハッツェンと会話しながら執務室に向かう。
その会話の中で分かったのだがマリエルはなんと17歳らしい。
見えない、雰囲気が大人っぽ過ぎるからかなぁ。
初めは不機嫌だったハッツェンもマリエルと気が合ったらしく、楽しげに話していた。
そんなハッツェンは今年で16歳だ。いつも周りにいるのはチビか年上しかいないみたいなので同性の同年代と知り合えて嬉しいのかもしれない。何よりだ。
最後らへん俺は会話に参加せず楽しげに話している美少女たちをただ見ていた。
それだけで幸せな気分になれるのだ、美少女パワーとは末恐ろしい。
執務室の前に着いたので、マリエルにはお礼を言い、ハッツェンには父上との話が終わるまで扉の外で待ってもらう。
「アルテュールです」
「入れ」
執務室の中に入る。父上がいない間も毎日使用人たちが掃除していたのであろう、埃っぽさ一つない。
夕暮れの赤が窓から差し込んできている。
それを背景に父上が高級感あふれる机で腕組みをしていた。その顔は少し疲れている。
嫌な予感がしながらも尋ねる。
「父上、ご用件とは」
「ああ、そうだったな。はぁ」
深くため息を吐く、一呼吸おいて―――
「明日、国王陛下と謁見することと相なった―――お前も一緒にな」
とわけわかんないことを言った。
「マジですか?」
素が出る。これは仕方ない。
「大マジだ」
マジらしい
一週間後の予定が1日後になってしまった。本当のことを言えば2年後だったのだ
父上もさすがに嫌そうな顔をしている。
「父上も嫌なのですか?」
「いや、そういうわけではないんだが…国王陛下はこの国の王であると同時にアデリナの御父上なのだ、」
(あ~、そゆことね。嫁の父親に挨拶しに行くのが億劫なのか)
ここに母上がいれば父上も心強いのだろうが、残念なことに母上は今ここにはいない。
それと比べたら俺は大したことしないな。自分より哀れな
前年ながら慰めの言葉を持ち合わせていない。
部屋へと戻りハッツェン、そして何故か居るマリエルに事情を話す。
マリエルはハッツェンが呼んだらしい。ここ俺の部屋なんすけど。
「国王陛下は家族想いでいらっしゃいますから、若様との面会が待ちきれなかったのでは?」とマリエル。「それにしても急過ぎますね」とハッツェン、俺を膝の上にのせている。
「……」
父上のおかげで何とか立ち直ったものの、乗り気になったわけではない。
最近また少し大きくなったハッツェンの胸に後頭部をうずめて俺はそれを聞いているだけ。
そんな様子を見てマリエルが。
「若様は胸がお好きなのですね?」と微笑みかけてくる。
ただ俺は動揺しない。ありのままを伝える。
「御神体を崇めて何が悪い」
今の俺はある意味無敵なのだ、後ろに
「アル様、御神体ではありません、私のものです。今あなた様は私に癒されているのですよ?」
「…そこ重要?」
「ええ、とっても」
ぎゅっと抱きしめてくる。全身がいい香りと柔らかさで包まれていく。
「本当に仲がいいのね」
「ええ、とっても」
「私も同じことをさせてもらいたいのだけど?」
「ぜひおねが「ダメです」……ふぁい」
新たな桃源郷への冒険を許してもらえなかった、無念だ。
「別にとったりなんてしないわ、少しだけよ」
「ダメです」
頑として譲らないハッツェン、大事にされているのが分かるので素直にうれしい。
「あら残念。若様、私の胸は何時でも空いていますからね?」
妖艶な笑みを浮かべ、そう囁くマリエル。ほんと大人っぽい。
しかし、ハッツェンからの親愛をこの身に受けている最中の俺には先ほどのようには不思議と響かなかった。
(ハッツェンを悲しませてしまうからな―――)
「その時はよろしく」
しかし、思考とは裏腹に口が動いてしまった。
「アルさまぁ」
もうっ、という感じのハッツェン。
「その時を心待ちにしていますね♪」
うれしそうなマリエル。
―――理性と本能は別物らしい。
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