第11話 権限拝借
カルロスとの戦いが終わり、蓮心は宿の中でユリアとエルフの二人と話していた。さっきまで試合観戦していた者達はまるでお祭り後みたいにはしゃいでいた。
その証拠に、
「どんどん酒を持ってこーい」
パンツ一丁の男が叫び、
「おらー、もっと飲めー」
中年の男がパンツ一丁の男を煽る。
「小僧の一撃に乾杯!」
元気のいい女性が集まり乾杯をして、
「さっきのカルロス間違いなくビビってたわ! ひゃふぅー」
と、女性達が喜んでいた。
そんな感じで、朝から盛り上がっていた。
お店の従業員さんからしたら大変なのだろう。ウエイトレス達の忙しそうな光景がそれを証明していたが朝からご苦労な事でと他人事で終わらす。今はそれよりやるべき事がある。
「それで一つ聞いていいかしら?」
「はい」
「あの時、君はなんで隕石を召喚できたの?」
「それは私も気になるわ。この世界に来て僅か二日でAランク魔法修得はいくらなんでも早すぎる」
どうやらエルフとユリアの反応を見る限り、奇跡的に魔法を習得できたみたいな言い回しだ。強運なのか悪運なのかは正直分からないが、もしこれが偶然だとしたならば正に薄い確率を引く天才だと自分で思う。事実ステータスを見ればそうなのだが。
「あれってそんなに凄いんですか?」
まだEX固有スキルについては黙っておきたいので少し話しの論点を変えてみる。ここで全部の情報を開示するのは少し危険というかリスクが高いと考えたから。ユリアがマリアと繋がっている可能性を考えるとそこからカルロスにまで伝わる可能性を否定できないから。ユリアとマリアが実は悪い人で俺を裏切る前提で繋がっているとは今の所考えにくい。だからあくまでも限りなくゼロに近いであろうがゼロではない。だから予期せぬ事態発展までを考えた可能性の話し。儚い希望を込めて二人の顔を見ると、二人が顔を見合わせて何かをブツブツと言っていた。
「凄いも何もアレはマリアの必殺魔法の一つよ?」
「本当に何も知らないのね」
「そもそもアレは一流の魔法使いや魔法を極めた者だけが使える技なのよ?」
「…………」
まじかよ。
実は一番最初にとても凄い魔法をコピーしていたのか。
どうりで良い銃は打ち手を選ぶ法則が成り立ったわけだ。
だけど考え方によっては今の状態でも広範囲かつ固そうな相手の時は使えそうだな。その時は自分の安全を確保が絶対条件になりそうだけど。
「わぉ~俺超スゲぇーじゃん♪」
おっと心の声が漏れてしまった。
「そうゆうこと」
「成程。まぁ、でも。流石マリアが認めただけあるわ。この世界に来てもうその技を習得なんて」
「そのマリアからさっき口すら聞いて貰えなかったんだけど?」
その言葉に二人は当たり前じゃないと言う顔をしてきた。何度も言うがこの世界に来てまだ二日目である。そんな人間がこの世界について知っている方が不思議である。そもそもマリアについてすら詳しく知らない人間があろうことか魂を揺さぶられたあげく助けようと動こうとしているわけだが。
「え? ユリアから聞いてないの?」
「……えっ?」
ユリアの顔を見ると何かを思い出したような顔をする。
「ゴメン。忘れてた」
ゴメンではないような気がする。何でそんな重要な事を忘れていたんだ。
もしかして、マリアとユリアって少し抜けている部分があるのか。
「えっと、マリアの結婚は明日の結婚式が終わるまでは解消する事が可能なの。条件はマリアが世間に言った強い人が好き。結婚するならそんな人としたい。つまり、カルロスを倒せば結婚が破棄され新たにその人と結婚する事が出来る。だけど、それは双方の合意が合ってだから断る事も可能。マリアを奪いたい助けたいと思う人はカルロスを倒してその後どうするかはその人とマリア次第って事になる」
マリアが渋々結婚を受け入れた事と緊急任務の件からそこは薄々わかっていた。それよりも本題に早く入って欲しいので逸れた道を修正する。
「それで何でマリアから俺は無視されたの?」
「本来、女神となったマリアと話したりするにはそれ相応の階級が必要なの。私やアリエルならともかくランクEの蓮心じゃ話す事すら出来ないのよ。最低でもAランクが必要ね」
つまり、大聖堂のユリアの権限と言いこの世界ではランクが貴族階級みたいな役割を果たしているみたいだ。それなら色々と納得だったがランクEではどう頑張ってもこの先マリアを助けても平凡な生活すら出来ない気がしなくもなかった。先がない人生って考えただけでも本当に真っ暗だった。
つい、二人の前で本気のため息を吐いてしまった。
「それでアリエルって誰?」
聞いた事がない名前だったので一応確認しておくことにする。
これでもし緊急任務をクリアする中で重要人物とかだったらマジで笑えない。
その時は隕石を沢山落下させてこの世界を消滅させよう……。
大丈夫。半分は冗談だから。
「ん? 私だけど?」
「…………」
「君、大丈夫?」
「あ、アリエル?」
「そうだけど?」
良かった。アリエルを探して何かをするイベント的な奴じゃなくて。本当に良かった。ただでさえ緊急任務開始までの時間が三十時間しかないこの状況で新たなフラグが立たなかったことに安堵する。まさか目の前にいるエルフがアリエルだとは思いにもよらなかったので一瞬言葉を失ってしまった。
「そんなに私を見つめてどうしたの? 一目惚れでもしたの?」
「いや、何でもないです」
「それでマリアを助ける為に今からどうするの? 今の君じゃカルロスと再戦してもちゃんとした剣の勝負だと負けそうだけど」
「とりあえず、情報が欲しい。ってことで大聖堂に行こうかと」
少々予定が狂ったが今から予定通りに動く事にする。
本は偉人たちの知恵が詰まった宝庫のようなもの。
本来であれば何十年、何百年、中にはそれ以上かけて、作られた、発見された、技術が詰め込まれている。それを読み理解することはこの世界を知る方法としてはまさに王道。それに上手くいけばこんなにも敵が有名なのだからカルロスについても知れるいい機会なのかもしれない。
「そう。でも君のランクじゃ多分入る事すら出来ないわよ?」
アリエルが心配そうにこちらを見る。
「それは大丈夫。昨日ユリアから権限を借りたから」
権限の一時的譲渡。
本当にいいシステムだ。
言い方を変えれば従者にお使いをさせる時に主人が権限を与え動かすためなのかなとこのシステムを知った時、ふとっ思ったがまぁそこは考えたらキリがないので考えないようにしておく。
「そうゆうこと」
それから少し遅めの朝ご飯を食べ大聖堂に向かった。今朝の一件を心配してかアリエルの配慮によって護衛としてユリアが同行してきた。最初は一人でいいと断ったが途中からユリア自身が心配だから付いて来ると言って聞かなかった。
何故かアリエルからも心配されているらしくフレンドになりそこから蓮心、ユリア、アリエルの三人で仮のパーティーを作り宿から常にHPゲージとMPゲージを監視されることとなった。監視されているから何か不都合があるわけではないが何か複雑な気持ちになった。言うならば親からGPSで常に心配される子供の気持ち。
これでは何かあった時に隕石で証拠隠滅……ができないではないか。
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