第10話

「だだいま」南は自分の家に帰宅した。彼女の家は学校から離れていて、電車で三つほど離れた場所であった。今日の怪獣を騒ぎがあった○○市からは数十キロ離れていて被害はなかった。


「ただいまって、あなたはどこに行ってたの!?○○市は、また怪獣騒ぎで大変だったみたいよ!まさか、学校のほうに行ってたんじゃないでしょうね!」母親は帰ってこない娘を心配してたようであった。


「違うわよ……。友達の家に宿題しに行ってたのよ」流石に、あのロボットの近くにいたことは言えなかった。


「ちゃんと電話ぐらい出なさい。本当に生きた心地がしなかったわ」ひとまず、娘の安否が解ったので安心した様子であった。


「ごめんなさい……。心配かけて」こんなに心配させて申し訳ない事をしたと、南は心の底から思った。


「お父さんも心配してたのよ。ちゃんと謝りなさい」どうやら、昼間の騒ぎで父の会社も休業になってしまったようだ。


いつどこで起きるか解らない怪獣騒ぎ、政府は避難を奨励している。近隣の住人達の中にも転居や避難を検討している者も多いようだ。

ただ、災害と、違いどこに逃げればいいのか?その答えは誰にも解らなかった。


「噂では、あの怪獣達は、本当は地球征服じゃなくて、あのロボット目当てで攻めて来ているんじゃないかって……。それなら迷惑な話だ。よそでやってくれればいいのに」父は煙草に火をつけてテレビのニュースを見ている。


昼間の騒ぎで、○○市は災害指定地域になったそうだ。自衛隊が、行方不明者の捜索をする様子が流れていた。辺り一面やけ野原になっており、到底日本の市町村であるとは思えなかった。


「南、ご飯はどうするの?」そういえば食べていない事すら忘れていた。


「えーと、部屋で食べてもいい?」なんだか、テレビに写し出された光景を見ながら食事をする気分にはなれなかった。


「解ったわ。先にはお風呂に入りなさい」母は察したのか、娘の希望を優先することにした。


「お母さん、ありがとう」南は部屋に戻ると着替えを用意してから、脱衣場に飛び込んだ。汚れた服を脱いで、洗面台の鏡を覗く。そこには見慣れた自分の顔がある。「一郎君……、どうして」自分の顔に一郎がオーバラップしていく。鏡の中の彼は優しく微笑んだ。その途端、南の頬を一筋の涙が流れる。彼女は、浴室に移動して体を洗ってから湯船に身を浸した。


「あの女の子は一体……」一郎の夢に出てきたと聞かされたレオという娘。しかし、彼女は実在した。そして彼女の出現によって、南のキャンバスライフの歯車は完全に狂ってしまった。一郎、中野、そして自分。この三人での時間が彼女にとっては最大の憩いだったのである。


中野の弟が最初の怪獣騒ぎで瓦礫の下敷きになり、今も意識不明になってしまったそうだ。先ほどの父の話では無いが、彼はロボットの戦い方に疑問を抱いていた。


被害にあった人々は口を揃えてこう言った。


あのロボットは怪獣を倒す事を第一に考えて、周りの町や人命の事は全く考えて無かった。


「どうして、一郎君なの……」そして、そのロボットを操っていたのが、あの一郎なのだ。


「きっと、一郎君は無理やりにあのロボットに……」そう考えてみるが、今日の二人の雰囲気はそんな感じではなかった。どちらかというと……、恋人同士……、南は湯船にゆっくりと顔を沈めていった。


新しい下着に着替え、パジャマに着替えブラッシングをして浴室から出た。


父は相変わらずテレビを見ている様子であった。


「おい、南。怪獣もそうだけど、最近、若い娘の失踪が多いそうだ。なんだか変なヤツがいたら、すぐに逃げるんだぞ」父は相変わらず煙草を口にしながらソファに座っている。


「うん、解った」本当に解ったのかどうか解らない返事を返すと、テーブルに置かれたトレイをバランスよく両手で持つと二階にある自分の部屋に戻っていった。


「本当に解ってるんだか……」母は、食器を洗いながら苦笑いした。







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