第8話

「なんなんだ!?この威力は!!」一郎は目の前に広がる幾百もの輝きに目を見開く。それはまるで大きな花火を一斉に爆発させたような、いや炎の壁が一面に広がったというほうが妥当かもしれない。


「敵セクターノ、70パーセントヲ殲滅シタワ」


「流石ですね!エクス!!」一郎の頭の中で、二人の会話が展開される。


「ちょっと待って!?あれ不味いんじゃないのか?」


エクスの発射した光線を浴びた無数のセクター達は、その身を焦がしながら町に炎の塊となって降り注いだ。あちらこちらの建物が延焼している。それは、まるで大空襲に襲われたかのようである。逃げまとう人々、きっと死者も出ているであろう。


「現在、考エ得ル最モ効果的ナ手段ヨ、多少ノ原住民ノ犠牲ハ仕方ナイワ」エクスはまるで、悪びれない様子であった。


「で、でも、これじゃあ!!」一郎は目の前の惨状を直視できない。


「一郎!次が来ますよ!!」レオの声がする。先ほどのエクスの攻撃から逃れたセクター達がこちらをめがけて飛んでくる。


「レオ!海に逃げるんだ!!」


「なぜ逃げるのですか?ここで撃退すれば……」


「駄目だ!!これ以上の犠牲を出しては駄目だなんだ!!」一郎は激しい口調で怒鳴りつけるかのように叫んだ。


「解りました……。そうまで言うのなら……」渋々のような口調でレオは同意した。


エクスは、セクター達に背中を向けると海へ向かって移動を始めた。



「父さーん!母さーん!由美子ー!!」浦山猛は家族を探していた。

辺りは火の海が広がる。彼はこのような光景を目にするのは生まれて初めてであった。すぐ側には、空から落ちてきた炎によって焼かれた人々の屍。崩壊した建物だらけであった。


会社の書類を整理していた猛は、ボールペンが無い事に気がついた。昨今、たいていの仕事はパソコンでこなしているのだが、それでもアナログな作業は残っていて、サラリーマンにボールペンは必須アイテムであった。


「あらら、会社に忘れたみたいだ……」壁にかけたスーツの胸元を確認したがそこに目的の物は無かった。


彼は仕方なしに近くのコンビニエンスストアに読みたかった週刊誌の購入も兼ねて出かけた。


彼の家から、コンビニまで徒歩で5分程度の距離であった。散歩も兼ねて歩いて行く事にした。天気がいいので壮快な気分で空を仰ぎながら目的地を目指していく。遠くについ先日までは無かった赤い塔のような物が目にはいる。


「なんだか、仏像みたいだな」


テレビのニュースでは、あのロボットと怪獣が暴れて彼の住む町の隣町に結構な被害が出たらしい。数十人の犠牲者も出たようだ。インタビューに応える遺族の悲痛なコメントに胸を打たれた。たしかに、あのロボットは味方のようであるが、犠牲になった人達の家族にしてみれば同様に憎き対象のようであるのであろう。


「なっ、なんだ!これは!!」猛がレジで精算を済ませようとした時、聞いたことも無いようなサイレンが鳴り響く。店内の人々は外に飛び出した。先ほどまで晴天であった空がどんよりと澱んでいる。それは、無数の虫であるように見えた。


「あ!あれを見ろよ!!」一人の男性が遠くを指差した。その先には、先ほど猛が遠くから見たロボットが空を飛んでいる。


「あんな物が、空を……」幼い頃、空港でジャンボジェット機が空に舞っていく姿を見たことはあったが、あのロボットの大きさはそれの比では無かった。


呆然として空を見つめていると、唐突にロボットの胸の辺りからまぶしい光が発せられて、対峙する無数の虫達を焼き尽くし始めた。

 先ほどのどんより空がまるで無数のスポットライトのように輝いた。それは、目も眩むほどの輝きであった。そしてその光に焼かれた虫達は猛の家のほうへ燃えながら落下していった。


「ちょ、ちょっと、なんで!?」猛は慌てて、自分の家を目指し走りだした。

家には父、母、そして妹の由美子がいる。先日の怪獣騒ぎで父親の会社、由美子の学校は休みになっていたのだ。炎が燃え盛る町、先ほどまでの穏やかな日常とは、全く真逆の地獄絵図であった。この状態では、消防局の消防活動などあまり効果かないであろう。


「なぜ!こんなことに!!」空を見上げると赤いロボットが背を向けて逃げていく。それを追うように残りの虫達が追いかけていくのが見えた。「畜生!ホントにあれが俺達の味方なのかよ!!」猛は地面に膝をついて絶叫した。


目の前にあるはずの彼の家は、跡形もなく吹き飛んでいた。












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