第4話

「あの女性は何者だ」暗く狭い部屋で一郎は尋問を受けている。まるで犯罪者のような扱いだと彼は思った。


 あのセクターという怪獣を倒し、レオと一緒にエクスから降りた途端複数の車両から現れた男達に取り押さえられてしまった。昨晩のように、彼女が暴れて男達を殺してしまうのかと危惧したが、意外なほど大人しくしていた。きっと、彼女にとって」この男達は脅威でもなんでもないのであろう。そのまま、2人は警察署に連行されてしまった。校庭にエクスは放置されたままであったが、それを移動する術は誰も知らなかった。


「し、知らないです。僕も昨晩・・・・・・・・、初めて会ったばかりで・・・・・・・・」考えてみれば一郎も彼女の素性を全くもって知らなかった。


「嘘をつくな!お前とあの女二人で、ロボットを操って街を無茶苦茶にしたんだろう!!」取り調べをする偉そうな男が机を勢いよく叩きつけた。


「いや、本当に・・・・・・・、知らないんです!」一郎は理不尽な尋問に少し泣き出しそうになっている。


 ドアがノックされてから開き、スーツを着た若い男が現れて、尋問している刑事らしき男になにやら耳打ちをした。


「何だって!・・・・・・・・ちっ!!」舌打ちをしながら一郎を睨みつけると、机を一回叩いてから部屋から出て行った。それと入れ違いのように、3名ほど男達が入ってきた。


「天野一郎君、君の処遇は私達の組織に移された。僕の名前は大井戸だ」中央の男が眼鏡を整えながら自己紹介をした。先ほどの刑事と違い紳士的な大井戸という男の対応に一郎は少し安堵のため息をついた。


「僕は・・・・・・・・、どうなるんですか?」先ほどの刑事の口調では、どうやら警察の認識ではセクターと、2人の乗ったエクスが町を破壊したという認識のようであった。亡くなった人達もいるようなので、殺人罪とか適応されてしまうのかと一郎は思った。


「ああ、大丈夫だよ。僕の認識では先にあの大きな昆虫のような・・・・・・・、怪獣が先に現れて暴れた。それを君と、あの女の子が助けてくれたんだよね。君の友達にそう聞いたよ」きっと、中野と南達が一郎がエクスの乗った経緯を説明してくれたのであろう。大井戸は一郎の恐怖に震える体をなだめるかのように優しく肩に手を置いた。彼のその言葉と仕草に、一郎は少し安心した。


「君の事は、全て調べさせてもらった。家族はお母さんとおばあさん、そして猫が一匹。どこにでもいる普通の高校2年生、天野一郎君だよね」初めから彼の素性など丸裸状態なのであろう。大井戸はまるで一郎の全てを知っているかのような口調であった。


「あ、あの・・・・・・・、レオ・・・・・・・さんは?」自分の潔白を理解してもらえた事で安心したのか、急に彼女がどうしているのか気になった。


「そうだ、彼女はレオって言うんだね。君に協力をしてもらいたいんだが、彼女はどうも僕らを信用してないようで、何も話してくれないんだ。君が同席してくれれば少しは心を開いてくれるかも知れない。どうだい?」優しい口調ではあったが、自分には選択する権利は無いのであろうと一郎は感じた。


「ええ」一郎は小さく頷いた。



「イイカ。余計ナ情報ハ原住民二疑心感ヲ与エルダケダ。最低限ノ事以外ノ情報ハ離サナイヨウニ」レオのイヤリングから機械音声のような声がする。


「解ってるわよ・・・・・・・」レオは、軽くイヤリングを指で弾いた。彼女は一郎がいたと同様の部屋にいた。彼女にとっては、あまりにも原始的な空間で呆れていた。


「失礼するよ」ドアをノックしてから、大井戸が部屋に入ってきた。その後ろを一郎が少しオドオドしながら追従してくる。


「一郎!」レオは満面の笑顔で立ち上がった。


「ほう、そんな笑顔をするんだね」大井戸は少し驚いたように、一郎を見た。彼は恥ずかしそうに大井戸の後ろに隠れている。


「三人で話をしたいんだけど、いいかい?」大井戸は言いながら、椅子を一つ用意して一郎に座るように差し出した。机を挟んで、レオと一郎が対面する形となり、

2人を横から見る形で、大井戸は座った。


「ええ、話せる範囲で良かったら」レオはゆっくりと席に座ると、肩に掛かった髪を軽く掻き上げた。一郎が加わるだけで、急に態度を軟化させた彼女を見て、大井戸は少し苦笑いをした。


「君達が戦ったあの怪獣だけど、あれは何なんだい?」大井戸は扉口に立っていた秘書の女性に飲み物を持ってくるように目配せする。女性は、すぐに察したように部屋を出て行った。


「あれはセクター、セクター人に改造された生物兵器です」レオは質問に答えた。ここに来てからまともに会話したのはこれが初めてのようであった。


「セクター人とは何者なんだい?どこから来て、どうして町を襲ったんだ?」大井戸は眼鏡の位置を整える。どうやら彼の癖であるらしい。


「セクター人は、宇宙人です。そうですねセクター星としておきましょう。彼らの住む星から移住の為、そう侵略の為にこの地球にやってきたのです」淡々と答える。


「侵略って・・・・・・・・、あいつらこの地球を・・・・・・・」一郎は驚きのあまり目を見開く。なぜか彼のその反応を見て、レオは軽く微笑む。


「では、君は何者だんだ。どうして地球にいて・・・・・・・、彼らセクター人と戦うんだ」大井戸は少し体を乗り出して質問を続ける。


「私は・・・・・・・、彼らからこの星を助ける為に・・・・・・・、ここに居ます」彼女は宙を見る。何か見えない宇宙を見ているかのようであった。


「それは、ありがたい話だ。でも、どうして君のあのロボットに、天野君も一緒に乗せたんだ。彼は、君の言う状況は知らないようだけど?」


「あれは、私の分身。でも、エクスは私一人では動かせません。パートナーが必要なのです。そして、私と一郎はパートナーになる為の、契りを交わしました」レオは頬を赤くして答える。


「ち、契りって、君達未成年だよね!」大井戸は少し慌てた顔をして、一郎の顔を見る。


「ち、違います!そんな、俺達何もしていません!」一郎は慌てて立ち上がって否定をする。


「でも、彼女が・・・・・・・」大井戸はゆっくりとレオに視線を移した。


「彼のDNAを唇から接種させてもらいました。一郎のDNAは最高です。エクスと一郎のシンクロ力はMAXになっています。」レオは嬉しそうに語る。


「MAXって、じゃあ、あのエクスってロボットを実際に操っていたのは・・・・・・・、天野君なのか?」大井戸の推測では、エクスを操っていたのは、このレオという少女で一郎は巻き込まれたのだと思っていた。あんなロボットを普通の高校生が訓練も無く操縦できるなんて考えてもいなかったのだ。「天野君は、どうやってあんなロボットを操縦したんだ?」


「え、いや、操縦したというよりは、僕の体がエクスになような・・・・・・」一郎は自分の手の平を見つめた。あの時とは違い、人間の物であることに改めて安堵する。さkほどの女性が飲み物を運んできて、丁寧に三人の目の前に置いてからお辞儀した。


「もう一つ・・・・・・・・、レオさん。君は、どうして地球を守ってくれるんだい」どうやら、これが最後の質問のようであった。


「・・・・・・・・、宇宙の平和を守る為・・・・・・・です」レオは人差し指で、銀色の髪をクルクルと巻いた。なにやら歯切れの悪い返答に聞こえた。


「そうか・・・・・・・・、凄いな」一郎には、大井戸の返事がひどく適当のように聞こえたのだった。




 

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