「ソイレント・グリーン」(SF/ディストピア/サスペンス)

 この映画を紹介する前に、まず、日本を代表するキャラクター「ドラえもん」の生みの親である「藤子・F・不二雄」先生(1933 - 1996)について、ちょっとだけ触れます。

 藤子・F・不二雄先生の漫画は「S(少し)F(不思議)」というテーマで、ユニークなキャラクターが多く登場し、愉快で、なにより温かみのある優しい作風が特徴です。

 そんな藤子先生ですが、一時期は青年誌向けにハードSF短編漫画を描いていた時期もあり、「ミノタウロスの皿」「カンビュセスの籤」など、ハードで残酷なディストピアSF作品も描かれていました。

 今回紹介する映画は、たぶん、藤子・F・不二雄先生が影響を受けたと思われるディストピアSF作品です。


「ソイレント・グリーン」(1973 アメリカ 97分)

原作 ハリイ・ハリスン著 『人間がいっぱい(英語版)』

監督 リチャード・フライシャー

脚本 スタンリー・R・グリーンバーグ

出演 チャールトン・ヘストン


 2022年。世界は人口が増えすぎたため、貧富の差が激しくなった。

 富裕層は住居を持ち、野菜や肉などを食せて快適な生活を送っていた。

 一方、貧困層は住居がなく、路上や廃墟などで敷き詰めるようにして横になり、眠る。そして、食事はソイレント社から配給される謎の加工食品「ソイレント・グリーン」から栄養を摂取していた。

 富裕層と貧困層の差が、残酷なまでに広がった世界。

 刑事である主人公・ソーンは、ソイレント社の幹部が殺害された事件を追っていた。

 ソーンはこの事件を追及していくうちに、衝撃の事実を目の当たりにしてしまう……。


 観ていて、息が詰まってくるような画面。

 刑事なのに、被害者の自宅から高価な品々を平然と奪っていく主人公。

 まるで、押し入れに無理矢理、物を押し込んだように狭い場所で眠る人々など、この世界の残酷さに陰鬱な気分になっていく。


 そして、ラストで明らかになる真相が、かなり強烈である。

 1973年当時。進んでいく科学と、広がっていく格差社会に対する警戒と恐怖が込められていた。


 この映画。刑事であるはずの主人公が被害者の所有物を平然と盗むように、所々でこの世界の異質さを描いている。

 そして、この異質さが、やがて衝撃の真相へと結びついていく。


 この世界には、救いはなく、残酷な未来しかないのだ。


 現在は2021年。現実で、この映画で描かれたようなことは起きてはいない。

 だが、来年の2022年。この映画の世界と同じ年である2022年に、もし、「ソイレント・グリーン」が配給される日が来てしまったら……。

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