【番外編】後編 叛逆王子はハロウィンを平和に過ごしたい



後編

シリアスギャグネタバレなどあります

耐性があって平気だよって人よければ読んでください


ちょっとえっちぃです気をつけてね



≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫




【-後編-叛逆王子はハロウィンを平和に過ごしたい】














「それではみなさん。お手元の資料をご覧ください。見ないと死にますよ自主的に」




不穏な言葉と共に始まった会議だった

主催はユダ

きっちりとした品のある燕尾服を纏い

感情を感じさせない顔で自分で作成した資料(呪術付き)を淡々と読み上げている

僕はその隣に座って手元の資料(圧)に目を通す

じゅ殺されるのって自主的になるのかな?


「ご質問は?…坊ちゃんなにかありますか?」

「え!?な、なにもないようん」

連日による不眠でユダが作り上げたハロウィンパーティーのためのスケジュール表を掲げていった

こんなことになるとは思わなかった

姿は完璧に繕えても、あのユダがプライベートを犠牲にして作成作業に鋭意努力した結果

見事なスケジュール肯定評価出来上がったのだ

呪力を帯びるほどに

文字が動いて呪いの文が構築される前に燃やさなくては……



「…ですので零時からA班とB班がC班とD班と交代で一時間の休憩後E班とF班がG班とH班と交代で表門の貨物運送と機材の確認作業に移ってください。あとはこのスケジュール表の通りお願いします。一晩でも遅れましたら休憩はなしになります他に質問などありますか?」


シンとした使用人たち

手前の方で静かに挙手したものがいた

「はいカールトン発言を許可します」


「は、はい!おやつは「却下」」


ひぃえぇぇえ……

と声を出してカールトンは沈んでいった

哀れなり


「は「却下」」


すかさずヘイムが手を挙げたが発言権すらないらしい

その隣でルカが控えめに手を上げようとしたけど上げて下がった

怖くなっちゃったんだね仕方ないよ


「それでは以上でお話は終わりです。坊ちゃんからは何かございますか」


その言葉に一同が僕を見る

ひぇ

「…ご、ご安全に」


ダメな主人でごめんなさい





≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫




なんとかハロウィンまで工事は進み

途中下請けとのいざこざや現場とマネージャーとの確執やライバル企業による妨害などがあったがすべてユダがだからなんです?の一言(一言とは言ってない)で片付いた

今日もいい天気である

そして僕らは当日を迎えた

使用人の三分の二はユダ特製元気が出るよドリンクの虜となった何が入っているかは秘密らしい

法律は守っているらしいよ

よかった


見事にハロウィン仕様になった屋敷は豪華で彫刻やカボチャの馬車を模した乗り物やお化け屋敷風のお洒落なカフェエリアもできていた


「ほら坊ちゃんじっとしていてください」

「くるひぃです」


ぎゅっと腰紐を引っ張られて苦しくなる

鶏の最後みたいだ


「よし。悪くないですねさすが私」

自分で見繕った仮装を見て自画自賛のユダさん


「これ、へんじゃない?」

変だと思うんだけどなぁなんでハロウィンに仮装なんてしなきゃならないんだ

ハロウィンだからか

帰りたいな

あ自宅だったんだここ

へへ


「いま画家を読んで参りますのでお待ちください」

「お、お断りで!お断りで!頼みます」

土下座する勢いで止めた

チッと舌打ちが聞こえたのはきっと気のせい


「ドレスが汚れますのでやめてくださいね」

「うぇ~脱ぎたいよぉ~無理だよぉ」

泣き言を言う僕を無視して小さな飾り付けされた箱から

ティアラを取り出した

ぽんと置いて位置を調整した

「ほら立ってください。姿勢が辛いなら椅子でもベットでもお好きな方に寄りかかってくださいませ」

うぅ主人の話聞かない子

大人しくおずおずと立ち上がり

ユダの前に立つ

それを確認して膝を折り跪いた

そして箱からガラスの靴を履かせてくれた

は、恥ずかしいなんだよこの雰囲気

細く絹のようなまっすぐな前髪から覗く長いまつ毛と影が

ユダの美貌を際立たせている

その目が僕の方に向いた

ドキッとして固まる

冷たいガラスの冷たさとユダが触れた指先の温度が対比していて熱いとすら思った

目はまっすぐ僕を捉えていた

目が離せない

「…苦しくはありませんか」


「…う、うん」


言葉もなく片方の足にも靴を履かさせる

冷たい感触と

するりと肌を撫でるように動く指先の感触が

くすぐったいようなもどかしいような

静かな行為はなんだかいけないことのような気がしてくるようで

次第にさらりと流れる指先が上に登ってきた

「ゆ、ユダ!あっ」

ゾクっとした刺激が脳に流れる

それでもユダの視線からは逃れられなかった

狩人の冷たい執着の目だった

そんな…


「いったぁ!」

ぎゅっと太ももをつねられた

「何するんだよ!痛いじゃん!」

「また隠れてお菓子食べましたね?共犯はカールトンですか。いや餌付けしたヘイムでしょうかまったく」

先程の雰囲気なんて幻だったかのようにユダはいつも通りだった


「何をしているんです?できましたよ」


肩を支えられ立ち上がる

また目があったがついそらしてしまった

一瞬見えた口元には笑みが浮かんでいて

知らないものを見た気がした


……


姿鏡の前に立った僕の姿が映し出されていた


「よくお似合いで」

「…それはどうも」


主催だから仮装しなきゃだろうけど

なぜ、なぜ女装なんだ

しかも


「シンデレラなんて聞いてない!」

どんと足を踏み鳴らす

強化ガラスと魔術でできたガラスの靴はびくともしなかった

透明なバラの装飾が付いている見事な靴だ


「言ってませんからね。あーなんでもいいよ任せると仰ったのは坊ちゃんです諦めてください」

そんなこと言って…言った気がする

三徹したんだもん返事だって適当になることもあるよ


はぁ


軽くて光沢感のある白ベースの生地にサイドに流れるように青い生地でできた綺麗なドレスを着ていた

髪もウィッグをつけさせられセットされられた

たしかに自分で見ても美少女だ


「さぁ主役の出番ですよ」

「揶揄ってるでしょ」

「とんでもございません」

このたぬきが

「たぬきの仮装などよくて?」

「次はそれも候補に加えさせていただきますシンデレラ」

「灰の中から現れて見る?」

「それも素敵ですね。では銀灰をご用意致します」

「灰かぶり姫の名前にしては豪華だね」

「もちろんです。今宵はハロウィン。悪魔が闇に現れる日ですからただの灰では連れ去っていく気も無くなってしまうでしょう」


「誘拐推奨とか新しい」

「いいえ。何者にも渡しませんよ」




離れたユダは扉を開けこちらを向いて手を伸ばした

「さぁ今度こそ舞台へ参りましょう。一年で一度だけの魔が蔓延る祭りへと」

その手をとって歩き出す

「カーテンコールまでよろしくね」

「喜んでお供します」




人が集まって見つめる舞台上に僕は舞台に上がった

さぁ演劇を始めようじゃないか


舞台に現れた僕を見てみんなが驚いている




「紳士淑女の皆様今宵にお会いできまして私はとても嬉しく思います。空高く我らを照らす月 星々は飾り立てるようにそこに在り 仮の姿の我らをより美しく着飾ってくれています ですがハロウィンの夜は冥界から死者や悪魔の が訪れます ですから捕まらないよう 

ここでは皆が役者 演じる道化でございます ぜひ夜の闇に引き込まれて帰ってこれなくなりませんよう 十分お気をつけて 本日はお楽しみください」


ドレスサイドを持って一礼する

するとけたたましい拍手と声が聞こえた

ふぅ これでなんと始められたかな

笑みを浮かべながら舞台袖に降りた


「お疲れ様です。この後は国王陛下にご挨拶して、それから各お客様とご挨拶してください」

「えぇ、陛下も来てるの!?暇なのかな」

「暇ではないと思いますが」

だよねと返事する

あれ?

「ゆ、ゆ、ユダ、それ」

「なにか?」

コテンと首を傾げた

それと同時に頭の上の二つの耳がぷるっと揺れた

「ね、ね、猫!」

「そうですね」

「どうしたの?!いじめられたの?呪い?脅されでもした?変なの食べちゃったの!?」

「……いろいろ言いたいことはありますが、そんな風に思われるんですね別の意味でショックです」

「えっ、あごめん」

若干眉を下げている珍しい上に罪悪感が半端ない

ユダはいつもの燕尾服にハロウィン風のデザインのワインカラーのストールを巻いて後ろには黒の尻尾と同じ色の猫耳がついている

「そんなに見つめないでください。奥様がお選びになったのです」

ふぁー、母上グッジョブ

「画家を呼んでこようか?」

「ご冗談を」

きっと睨まれたので回避する

ふふどうだやられる側の気持ちはくやしかろうくやしかろう


「セウス!!私の可愛いセウス!!あは!」

高い声と共に兄上が現れた

「リオス兄上。こんばんは。よく来てくれましたね」

「そりゃあ来るに決まっているだろう?なんて素敵なんだシンデレラか、とてもよく似合っているよ」

白い手袋ごしに手を握られてそう言われた


「あ、ありがとうございます。兄上は仮装はなさっていないんですね」

「ん?しているとも」

「え?」

「王子様」

「王子様…」

これはツッコんでいいのだろうか

「お、お似合いで」

「だろう?まぁ普段着なのだがね」

おい

「まだ他の挨拶が残っているんだね。また後で会いに行くよ」

「はい。楽しみにしております」

にこやかに笑みを携えて群衆に混じっていった

ブレないなほんと


「よく似合っているよセウス。よい娘を持った」

「本当に素敵よセウス。嫁にだしたくなくなってしまうわ」

「は、ははっ、ご冗談を」

ん?って顔しないでよ

「コホンッ。本日はいらっしゃっていただきありがとうございます国王陛下」

「何を言うんだセウス。父親が家に帰って当たり前じゃないか。さぁパパとお呼び」

「それはちょっと…」

「ちょっととはどれぐらいかね?」

「ちょっと、はもうちょっとですね」

ちょっとのゲシュタルト崩壊が起きている

「こちらお飲み物です国王陛下。王妃様」

スッと横からお酒の入ったグラスを持ってきたユダがフォローしてくれた

さすが有能


「おおユダか。元気そうでなによりだ」

「お優しいお言葉痛み入ります」


軽く世間話をして移動をした




「おやこんなところにいたいけな淑女がいると思ったらセウス王子ではありませんか。よくお似合いで……似合いすぎだろ全く!」

「お、お兄さまお気をたしかに。たしかに妹にしたいぐらいいたいけですが中身はあのセウス王子ですよ」

「う、うん」


……フィックトス兄妹か今日も元気だな

「お久しぶりですね。よくお似合いですね」

二人はお揃いの仮装でヘンゼルとグレーテル、かな

カゴを持っていて中には高級なフルーツと小瓶の飲み物そしてふかふかのパンが入っていた

赤と青の服でぐりっとしてぐらっとしたものに似ている

なんとも金持ちの子供の道楽感がある見た目だ

まぁ本格的になんてするわけないよね

うちの執事ぐらいだ


「あ、当たり前だ!」

「あらそのティアラ素敵ね」

ハロウィンを楽しんでもらえているようでよかった

適当にかわしてその場から去った


顔と名前が一致しな相手と握手して会話する

あー疲れますね

皆最初顔を赤らめて手を拭いてから握手する

マナーだよねうん

若い人は今度食事やショッピングを誘ってきたり

世継ぎの子供がいる貴族の親は嫁に来ないかと暗に言われる

息子が同伴している場合が多く乗り気だ

てかその度に男だと言ってるのに

この国じゃ当たり前のことじゃないかな?

王子だよ僕

「これで三十組目ですね」

「おい数えるな」

横で大人しくしていたら数えていたのか誘ってくる奴を

なんて傍観者スタイルうらやましい


「おう坊ちゃん!よく似合っているな!」

「あっ、す、素敵ですね」

使用人兄弟がやってきた

兄の方は大皿に食べ物をたくさんこんもりと乗せている

ギリスは顔を赤面させていてチラチラと見ている

「二人ともお疲れ様。今日はお前たちは好きに楽しんでいいからね。でも騒いじゃダメだよ」

当日勝手をされて台無しにされても困りますからね

そばで適当に食事でもなさってなさい

とユダに言われてその通りらしい

「わかってるぞ。場を弁えるのは紳士の嗜みだからな」

ドヤ顔しているがお前が一番怪しいんだ

黙ってれば貴族のような好青年なのにね

「兄さんは僕が監視しときますので、ご安心してくださいね」

「うん。頼むよギリス」

ニコッと微笑むと目を逸らされた

嫌われてる……まさかねへへ


「二人ともも似合っているよ。もしかしてユダが揃えたの?」

「はい。私が用意したほうが早いので」

二人も仮装をしていた

ヘイムは犬?かな大型犬みがある

ギリスは鶏冠があるから鶏かな可愛くデザインされていて似合っている

「お疲れ様です坊ちゃん。ユダさんもお疲れ様です」

ドリンクを持ったルカが横からやってきた

「ルカもお疲れ様。照明よかったよ」

「お褒めいただきありがとうございます」

うん執事感出てきたね

「その格好、…馬?」

「ロバです」

隣からご指摘があった

へぇー珍しい


ん?ロバ、犬、猫、鶏?

これって

「ブレーメンの音楽隊?」

「はい。モデルにさせていただきました」

なるほど

たしかにみんなで揃えると一体感があって楽しいね

あれカールトンは?


「なんだユダは黒猫かと思ってたのに。それかチャシャ猫」

「猫なので特にそういった設定はありませんね。皮肉にもなりますしね」

「んん?」

「なんでもありません。次行きますよ」

みんなに見送られて移動した


「なんで僕だけ女装…しかもシンデレラ」

今日の客人は簡単な仮装もどきだ

まぁ準備もあるし好きにしてくれて構わないんだけどさ

配膳や運営をしてくれている使用人たちもそれぞれ簡単に仮装してくれている

本当に働いてくれたなぁ

褒美と長めの休みを取らせよう

感謝大事




「ああ!なぜ!なぜあなたはロミオなの?」


「麗しき君よ!なぜ君はジュリエットなんだ?」


先程いた舞台では今は演劇が行われている

確か母上が都で気に入っていた劇団だとか

確かに迫力があってうまい

身分の差で苦しみながらも思い合っているはずの二人の恋のお話



シャッ

シャン


一瞬幕が閉じて、また開いた


「ああなんて事、なんで悲しい事なんだろうか…」


「うぅう、かわいそうにかわいそうに」


「こんなに美しいのに、かわいそうに」


「死んでしまって かわいそうに」


小人の役をやっている小柄な役者たちが悲しそうに台座を囲んで泣いている

台座は何も乗ってはいなかった

あれは、白雪姫?

でもこれじゃ…


「これじゃあ 王子様は いらないね」


どこからか笑うような声音で声が聞こえた

語り部だろうか


シャッ

シャン



あれ?


「シンデレラ!この悪魔の子!なんて悍ましいのでしょう!」


妙齢の女性が僕を見て心底憎らしげな目でそう言った


「本当に嫌だわ。怖い子。きっとわたしたちを不幸にするわ」

「本当にそう。恐ろしい子。呪われているのでしょうね消えてほしいわ」


なんだろう、これは


「シンデレラ、シンデレラ。哀れで悲しい。そして呪われた灰かぶりの子。どうかそのまま灰の中で消えてちょうだい呪われた子。灰の中から出てこないで黒い呪われた子」



「ぼ、僕はそんなんじゃない!呪われてなんかいないし誰も不幸になんて」

「嘘だ。わかっているくせに」

振り返るとライトに照らされた場所に

僕がいた

灰色の僕がいた

「誰だよ、お前」

「わかってるくせに。白々しい」

淡々と告げるくせに冷たくて憎悪を感じられた



「知らない。僕は、お前なんて知らない…」

「嘘つき。僕だけが知っている。濯げぬ罪を。血塗られた手を」


ッ!!


思わず後ずさる


ビチャ


驚いて下を見ると血溜まりだった


顔をあげると姿鏡がある

そこには僕がいた


大人の僕が


「鏡よ 鏡 世界で一番 穢れて罪深いのはだぁーれ」


声が反響した


鏡の中の僕が 僕を指差した


「う、うわぁああああ!!」

叫んで尻餅をついた

血溜まりの中で濡れてでもドレスも赤く染まっていた


「僕が、僕が悪いの、そんなの、わかってるけど」


だって だって 前に進むしかなかったんだ


「さぁ己の中の罪をみよ 己の中の罪をみよ さすれば汝は救われん」


救われるの?

この暗闇から

罪から


手を伸ばした


その時白い鳩が飛んできた

パリンッ!


白い鳩は鏡を突いて割った

ヒビが広がりバラバラと地に落ちて砕けた

破片の一部がまだ 僕を睨んでいた


「見てはダメです。あれはあなたの後悔。幻です」


「あ、あなたは」

白い鳩が形を変えて人になる


「お久しぶりですねセウス王子様」

ニコッと微笑んだのは

あの日以来会うことはなかった

ノマドだった

「の、ノマドさん」

「ノマドとお呼びくださいませ」

ニコッと優しい微笑みだった

なぜか知っているような優しく悲しい笑顔だった


「どうしてあなたが」

「いえ、今日はこちらでハロウィンパーティーをなさっていると聞いたのでご挨拶に伺ったのですが迷ってしまって。そうしたらあなた様に出会えました。たまには迷ってみるものですね」

ふふと笑う

場にそぐわないのに、落ち着く笑みだった

「た、助かりました」

「いえいえ、きっと黄泉の者の悪戯でしょうね。今夜は特に張り切っている様子。外も大変なことになっていますでしょうね」


「それって!みんながあぶないの?」

「まだ大丈夫です。ですがこのままだと危ないかもしれませんね」

「ここから出たい。どうか教えてはくれませんか?」

「それは構いませんよですが、よろしいのですか?」


「え?」

僅かにしゃがんで目を合わせてくれた

その目は慈愛と憐憫の念を感じた


「このまま悪意を取り除いたこの世界なら、きっとあなたは苦しまず、悲しまず、そして苦しませず悲しませずに済みます」


わからないはずなのに、わかってしまった

ここは一つの救いであり監獄であり

夢なのだと



………セウス!



どこからか遠い場所で名を呼ばれた



「それでも、きっとそれが正しいことなのはわかる。でも僕が行かなきゃならないんだ」


「それはどうしてです」


「僕自身が決めて、僕の罪で、僕の選んだ人生だから」



真っ直ぐ見つめる

ノマドはただ静かに見つめ返す

美しい顔の眉がこまったように下がった

やっぱり、君は……





「それでは参りましょう」

手を差し出されて掴む

ひんやりとした手だった

でも嫌いじゃない手だ


「…あなたは誰なの?」

子供のような質問をする

横顔は何も変わらない


「誰なんでしょうね。私にもわからなくなってしまいました」

淡々と告げる

そんなことどうでも良さそうに


「どこから来たの?」


「さぁ。遠い遠い。寂しい何もない場所からでしょうか」

笑みを浮かべているがそれは空っぽだった


「寂しい?」


彼は歩みを止めて

僕に振り向いた

じっと僕を見つめている


「寂しい…寂しいですか」

ふふっと笑った

その顔は好きだった



「とても……‥寂しいですね」

声は静かだったが痛ましいほどの哀哭のようだった


僕はぎゅっと繋いだ手を強く握った

少しでも温度が 気持ちが伝わるように


「なら、僕といなよ」

ノマドは跳ねるようかな顔を上げた

その顔は子供のようにあどけなくて

それが本来の顔だと思った


「いいのでしょうか……私はもう」

「いいんだよ。僕がそう言っているんだから」

泣いている気がして頬を撫でた

つるりとしていて暖かかった

その手に重なるように手を置いて

嬉しそうに頬を寄せた

それがくすぐったくて嬉しかった


「ありがとうございます。その言葉だけで、来てよかった」

スッと立ち上がった


「さぁもうすぐ出口ですよ」

ノマドが向いた方には光があった

僕はあこそに行かなきゃ


歩みを進める

もうすぐだ

「僕にはわからないけど…」

「はい」

「許したとしても許されたとしてもさ。罪は消えない。だから一生背負わなきゃならないんだ」


「……そうですね」


「でも」

もう一度、見つめて言う

届けと


「一緒に背負ってあげる。だからもう寂しくないよ」


ッ!

悲痛な顔をしたノマド

やっぱり図々しかったかな

何も知らないくせにね


「…そうですね。なら私もあなた様の背負ったものを共に背負いましょう。そうしたらあなた様も寂しくはありませんか?」


「うん。きっと大丈夫だよ。なんていったって僕には頼り甲斐のある仲間がいるんだからね!」


胸を張って言う

それを見てくすくす笑うノマド


「ええ、頼りにしてみます」


もう、目の前にありますよ


振り向くと光の中だった

繋いでいた手の感覚がなくなってくる

「ノマド!!」


ノマドは無言で微笑み手を振った

「必ず!迎えに行くから!待っててね!」

届いたのかはわからない

彼が黄泉の国の住人だとしても

必ず約束は守りたい


「それではお元気で また逢える時を楽しみにしております ーーーー。」



空白に飲み込まれた




≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫





「セウス!!」


「わっ!」


大声に飛び跳ねてしまった

「大丈夫かセウス。遅くなってすまない」

「あ、うん」


いつのまにか僕はログナスに抱き抱えられていた

ログナスの宝石のような赤い瞳が僕を映す


「な、なにがって、うわぁ」


ログナスの格好につい驚いてしまった

いつもの騎士服に似ているが胸元ははだけていてその男性的で逞しい胸が出ている

青っぽい襟の大きい黒のマントを羽織り

口元からは牙がのぞいていた

えっ、セクシードラキュラですか!?

いつもの清廉で朴訥とした真面目な男が

仮装してこんなふぇ、フェロモン撒き散らすような格好をするなんて

ワイルドな王子様にも見えなくはない


「お、お母さんは許しません!!」

「何を言っているんだ?お前は母ではないだろう」

「あ、うん。つい」

「それよりまずはこいつらを片付けよう」

ログナスが向いた方には

剣や杖を握ったカボチャやサツマイモ

そして先程演劇をしていた役者たちに取り憑いたと思われるゴーストがいた

「これは何事?」

「俺が準備を終えて会場に来たらこうなっていた。舞台の真ん中で動かないで固まっているセウスをみて心臓が止まるかと思ったぞ」

「そ、それは面目もない」


僕はユダと挨拶の合間に演劇を見ていて…

そこからの記憶はない


何をしていたんだ

とても大事なことだった気がする

「俺が片付けるから下がっていてくれ」

「でもそれじゃあ….」

まだ客人たちが様子を窺っている

これはまだ演劇の途中だと思っているのかな

まぁ二人してこの格好だしね


コホンッ


「ログナス様!どうかお助けください!」

「な、なんだどうしたんだ」


口の動きで合わせてと言った

まだ混乱しているがすぐに行動してくれた


「任せたまえ!悪しき亡霊たちよ。このヴァンパイア騎士が倒してくれる!」

ヴァンパイア騎士なのね

堂々としているけど耳が赤い


「素敵ですログナス様!あ、前お気をつけを!」

迫ってきた芋達を飾り剣で斬った

瞬時にカット野菜になっていく


広告塔になってくれたらその剣高く売れそうだね!



続々と集まってくる野菜たち

それぞれがさまざまに仮装している

すごい光景だった

僕たちの後ろにもたくさん現れた

派手に暴れると演劇じゃないとバレるし僕剣持ってないし

ログナスは多分僕の指示待ちをしてくれている

アドリブは苦手なのかな






「迷える魂に癒しと祈りを 祓魂」



シュワーと音と共にゴーストが数体倒された

「ユダ!」


「お困りですかニャ。ならば助太刀致しましょう」

えなに?


「暗闇に潜む影の支配者 ネコ!」


「俺は誰よりも大きい声で鳴くぜワンワン!イヌ!」


「馬?違うね?ロバだよそんなこともわからねぇの?ハッ。ロバ!」


「こ、こけ、コケコッコー!朝じゃないよ!ざぁーんねんでした!ちょいワル鶏界の鶏とはあたいことよ!トリ!」


「私ですか?農民ですよ。隣家が騒がしいので見てみたら動物たちが大騒ぎ!可愛いですね動物園にならないかな?自由と耕作を愛する男!ノウミン!」

 


最後のはなんだ?カールトンただの動物好きな農民じゃないか


「「我らブレーメンの音楽隊+農民!お助けはご入用かな」」


皆で声を合わせてそう言った

カオスだよ


「そうか。なら頼む」

「疑問抱こうよ!」

ブレない男ログナスだった


「仕方ないか。じゃあウマシカ「ロバです」「イヌだ!」は後方の敵を。トリは魔術で遊撃。ネコは全体のフォローとゴーストの対処。騎士は私と一緒に前の敵を倒しましょう!」


「「はい「おう」」」



「風よ 仇なすものを集めよ!」

とりあえず魔術で支援する

客人のほうにいかないように野菜たちを集める

「ログナス!」

「わかった」

一塊になった奴たちを両断した


「ネコ!」

「お任せを」

俺たちの後ろからユダが逆さまに空中に跳ねて

そのまま詠唱する

「魔のものよ 罪あるものは省みよ 彷徨いし者に光は今注がれん」

悪霊ばらいの術式を組み込んだ光弾を飛ばして取り憑かれた役者たちから離す


「光よ 今魂の導きを示さん! ライトネスレイン!」

野菜たちと役者から離れた悪霊を祓う光の雨


溶けるように消えた

「極雷よ 我が剣の先へ 断ち斬る」

巨大な魔力を剣に集約し 空気を焼く電撃を纏わせる

そして一太刀


陰に隠れていた何かごと

ログナスは巨大なサツマイモとカボチャを両断した




あれって庭にとりあえず置いといたやつじゃん



「こ、これで平和を取り戻せました。皆さんありがとう」


「「「「「私たちはまた旅に出るさらば」」」」」


獣と農民が去っていった



「怪我はないかシンデレラ」

ログナスが剣を収めて僕の手を握る

なんだか、どきどきする


「は、はい。貴方様のおかげで無傷です」

「美しいあなたに何かあれば、私はきっと心が裂けてしまうぐらい悲しむでしょう。どうかあなたの憂も悲しみも、私にくださいませんか?」


「そんな、いけませんわ。私はただの灰かぶり、貴方のような素敵な殿方には相応しくありません」


腰に腕をまわされ抱き寄せられる

はだけた胸元からログナスの優しく男らしい香りと

柑橘のような香り

そして生々しい体温と肌の感触が頬に触れた

な、なななにして


「相応しくなど言わないでくれ。化物の私を、美しいとこの瞳を見ていってくれた貴方が、私は恋しくて身を焦がすほど愛しいのです」


あまりの迫力と動悸でふわふわしてくる

どうすればいいの!?




「わ、わたしは」


唇に人差し指が当てられた

剣を持つ者の逞しく優しい指だった

「何も言わなくていい。今はただ私のそばにいてくれ。そんな願いはダメだろうか」

「……私も、貴方様のそばにいたいです。どうか、どうかいつまでもこの手を離さないでくださいませ」

「……離すものか。永劫の時を貴方に魂と共に捧げよう」


「騎士様……」

「セウス……」


互いに見つめ合う

俯いて見つめているログナスの瞳は赤く燃える炎のようで

光を吸い込んだ宝石のようでもあって

また心の中の闇から燃えたぎる執着の炎でもあって

目が離せなく

この世で一番美しいと感じられるほどだった


次第に顔が近づく

ログナスの影が顔にかかり

艶のある黒髪が頬に触れ

冷淡な男から出ていくものとは思えないほど

熱い吐息を肌で感じ


今……

互いの唇が




ーッ!!



大きな演奏が始まった


「そうして二人は誰も知らない古城で 末永く幸せに暮しました おわり」


兄上の半ば強制的な語り部の終わり発言に

幕は降りた








≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫





「「「「かんぱ〜い」」」」




なんとかハロウィンパーティを終えて

仲の良い者たちが僕の部屋に集まって

お疲れ様会を開いた

と言っても残り物をならべてもらっただけ

それでもみな楽しそうに飲み食いしている

基本僕とユダ、ログナス以外はモリモリ食べていたと思うけど


「坊ちゃん!すっっっごく楽しかったですねぇ!シンデレラとってもお綺麗でしたよぉ〜!!」

まだ麦わら帽子を被ったままローストビーフを食べているカールトン

「それはありがとう。カールトンはどこにいたの?会場で会わなかったよね」


「はい!ユダさんにお客さまの案内のための標識に仮装してご案内してました」


「標識?農民じゃなかったんだ」


「これは舞台に上がる直前に、庭の用具室に置いてあったのを着せてもらいました。最初のはエフィジー?とかいうのです可愛いですよぉ」


おぅ…それは、酷いことを

(検索する場合いは気をつけてね)




「お疲れ様でした坊ちゃん」

「よく頑張ったなセウス」


ログナスとユダが交互に言った

「うん。どうなるかと思ったよねほんと」


「結界は張ってありましたが使った業者が粗悪品の呪具を乗せていたのと客人の中に相性が悪い方がいたみたいでこの様な事態に、申し訳ありません」


「いやいや、十分だよ。もともとデカくて魔力をたんまり貯蓄した芋達があるから干渉したんでしょ。なら仕方ないよ。うまくいったんだし気にしないで」


「そうですか。わかりました」


「それより本当に似合っていたなドレス。また見せてくれないか?」



「ぜっっっっったいに嫌!!」

「そう言わずに」

「嫌!」

「写真ならここに」

「流石だな」

「こら!」

いつのまに写真なんか……

あの挨拶している時チラチラいた奴らか?



まったく……

グラスに入ったリンゴジュースを持ってベランダに出る

静かで冷たい風が心地よかった

丸い月が黄金色で 美しかった


……


ぎゅっと後ろから抱きしめられた

「なっ」

「…そのままで頼む」

ろ、ログナスか

今日は随分ストレートな…


ただ言葉なく

伝わる鼓動と熱

心地がよかった

腹に重なる手につい手を重ねてしまった

その時ビクッと震えた

自分からくっついてきたくせに変なの

大きな手を撫でる

なんだかいつもと違って力が強いな

痛くはないけど

どきどきしてきた



「ろ、ログナス」

「…なんだ」

耳に吐息がかかりくすぐったい

「大丈夫?」

「…大丈夫だ」

「そう」

そして沈黙

苦痛ではないけど、なんかムズムズする

「月、綺麗だね」

「…そうだな、とても綺麗だ」

そう言葉を吐いたのに変わらず耳に吐息がかかる

………


「ちゃんと見てから言ってよもう」

「フッ、そうだな。すまない」

全然申し訳なさそう感じられないように言った


「もうログナスったら」

ぎゅっと手を握る

すると腹に重ねてあった片手を抜いてすぐ僕の手に重ねてきた

はわわっ


「…ろ」

「セウス」

言葉続かなかった


「トリックオアトリート」

「えっ?」

「セウスが教えてれたんだろ?さぁ菓子をおくれよ」

「も、もってないよ!今部屋から持ってくるからっ!?」


急いで部屋に戻ってテーブルの上に沢山あるお菓子を持ってこようとしたが

強く抱きしめられてさらに密着して動けなかった


「ろ、ログナスッ」

「持っていないんだな。なら、悪戯しないとな」


唇が耳に当たり声の震える振動が伝わってきた

そして腹を抑えていた手は僕のお腹を直接シャツを捲り入って触れてきた

「ログナス!だ、だめだよ」

「なんでだ?悪戯しなくてはいけないんだぞ」

そう話しながらもなぞるように触れて

甘くてむず痒い刺激が走る

手を押さえている片方も押さえながらも

指先で爪を撫で関節を撫で、そして手のひらを擦り付けるように触れる

不思議な感覚に体が沸騰したように熱くなり

足に力が入らなくて崩れ落ちそうになったが

すぐに支えられて

背から抱かれたまま

腰に押し付けるようにくっついてしまった

「……ろ、ろぐな、す」

自分でも息が熱くなっているのがわかる

垂れた唾液が伝い落ちる前にログナスのしっかりとした男の指先で拭われた

恥ずかしいのに抵抗できない

つらいよ



「……すまない。やりすぎたな」

ベランダの手すりにもたれ掛かれるように支えられる

「…ひどいよ」

「ごめん」

ぎゅっと縋るように後ろから抱きつかれた

なんだかとっても安心した

いつものログナスだ

顔は見えないのにわかるのが不思議



チュッ


「わぁっ」

うなじに柔らかい感触と音がした

キ、キスなんてはれんちなっ…


「ハッピーハロウィン。セウス」

「ハッピーハロウィン……ログナス」


照れて小声で言ってしまう

ログナスが悪いんだ

振り返ったら鼻を摘んでやる





「愛している。いつまでも」




びっくりして振り返る

そこには誰もいなかった

部屋の中からは彼らの騒ぎ声が微かに聞こえるぐらいだ




……幽霊?

一夜だけ来る冥界からの亡霊

そんな御伽噺があったな



おずおずと部屋に戻る





「セウス」

ッ!?

「どうした?やはり寒かったんじゃないのか顔が赤い。風邪を引くと大変だ。温めてあげよう」


「け」


「け?」


「結構ですぅ!!!!」



全力でお断りした

顔が見れない





カボチャのような月だけが二人を見ていた

夢と現実

冥界と現世が交わる

特別な一日だった








≫≫END≫≫









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る