第7話









「うわぁああぁんもういやだ!!!」




連日雨が降っていて天気が悪くじめじめとしていたが

二日前から天気が良くなり

今日の昼下がりも晴れやかには晴れていた

だがそこに似合わない僕の悲痛な叫び声が響いていた



「泣き言はおやめなさい坊ちゃん。これで二十三回目ですよ。立って構えてくださいませ。そのままふっ飛ばされたいですか?」



ひぇえええぇあくまだぁ!



僕は悪夢を見た日に決心し

その日うちにユダに、稽古をつけてくれと頼んだ

ユダは珍しくポカンとし即答しなかった

暫し思案顔でいると

なぜそのようにお考えに?坊ちゃんにはまだ不要かと思いますが、その意思と自分の身を守れることは何も悪いことはないですけど。

それに僕は、守られるだけでは嫌だと守れる力が欲しいと告げるとこちらをまっすぐ見て頷いてくれた

そして日々の社交マナーと学問を勉強をする時間と

ユダに稽古をつけてもらえる時間を貰ったのだ


だが後悔を大いにしている!!


厳しすぎるぞユダ!悪魔め!


最初の方は戦術や基本の戦闘技術、戦法など詳しく教えてくれた

僕は簡単な基礎魔術をすでに習っていたし

一度目の人生があるから余裕かと思っていた

それが甘かったのだ


「何をお考えで?余裕がおありなようですね死にますよ」


ユダが素早く足払いをして体勢を崩した僕の腕を掴み捻って地面に組み伏せた

そして手刀で首を押さえた


「これでまた死にましたね。戦闘中に無駄に考える暇なんてありませんよ坊ちゃん。常に相手の思考と出方を考え先手をとり常に優位に動かなくてはいけません。では次」


僕を起こして少し離れて構える

素手での近接戦から始めたがもうすでにやめたい

だが確かにこれが身につけば強くなれる

ていうか強すぎないかなユダ

我が家の厳しい採用試験にトップの好成績で採用されて

僕の執事兼専属護衛となっている

魔術の才の適性もセンスもすごいらしく

本来なら魔術師団か国王陛下の側近にも推薦されていたらしい

僕より少しだけ身長が大きいだけで体も細いし中性的な

見た目をしているのに

軽やかに素早く動き無駄がない

成人してる僕でも近接戦だけなら勝てないだろう


「ユダ。どうかもっと加減をしてくれないか?セウスが怪我でもしたら可哀想だ。相手なら俺がかわろう」


庭の真ん中で組み手をしていた僕たちから離れ

白いテーブルと傘の下に椅子がありそこに

心配そうにこちらを見ているログナスがいる

目の前に出された菓子とお茶にも手はつけられてはいない


「それはできませんね。実戦では刻々と状況は変化するものです。厳しくせねばいざ本番で臆し満足に戦えぬまま死ぬだけの戦士が多くいます。必要なことなのです」


ユダはこちらに視線を向けながら話す

隙がない

「それに、ログナス様に代わっていただいても何も身につきません。貴方様は非常に甘すぎなのです。お遊戯会かと思いましたよ」


数日ぶりにいつのまにかやってきたログナスは

庭でしごかれている僕を見て驚いていた

何事だとユダに問い詰めたが

珍しく僕以外に面倒くさそうにして

坊ちゃんの自己防衛のための護身術をお学びに自ら御志願なさったのです

そこに席を設けてありますのでそこでお待ちくださいはぁ


涼やかに流してた

相手は国一番の騎士だぞ?

不敬罪って知ってる?


そわそわしていたログナスはなら俺が相手をしようと進言し

国一番の騎士を子供の相手をさせるなんて贅沢な


だが自分で言うのもなんだがこれはダメだ


僕が全力で剣を振っても

当たるなんてあり得ないがそれにしても

慈愛の瞳で見つめ僕の手が痛くならないよう剣同士をぶつけても力を流されて庇われる始末だ

介護か!!


一度目は死闘を繰り広げたと言うのに悔しすぎる


僕もこれはダメだとユダを見たが

綺麗に佇んでこちら身を見ていたが

その目には光がなく怖かった




そしてユダに代わってもらい

素手の組み手一時間

剣を持ってが一時間

して休憩を挟んだ

ログナスの反対側に座りユダに汗を拭ってもらっている

ユダは汗ひとつかいておらず淡々としている

悔しい

このあとは魔術の訓練だ

以前から魔術はユダに基礎を教わっていた


「お疲れ様、セウス。しかし突然どうしたんだ訓練だなんて」


「僕だって自衛できたほうが今後いいでしょ?貴族だってむしろ魔術適正高い血筋が多いしあるなら備えたいと思ってさ」


「まぁそうだが……無理はしないでくれよ。セウスは俺が守るしユダもいるんだ」


だからこそ力が必要なんだ

無力な奴は何もできない一方的に踏み躙られるなんて

もう二度と嫌だ


「うんわかってるよ程々にしとく」


「しかしセウスもあんなに動けるなんて知らなかったな。驚いた」


「ユダの訓練がすごいからね。最初は全身筋肉痛だったな」


そっと静かに透明なガラスの容器に

琥珀色の紅茶とカットされたフルーツが入って花が飾ってあるアイスティーが置かれた


「ありがとうユダ。ユダも休みなよ」


ユダは軽く一礼し皿を片付けている

「私は平気ですお気になさらず」


僕の執事生意気すぎないか?


訓練で熱った体に冷たい紅茶が喉を潤し

一息つけた

フルーツの香りと風味が美味しく感じられほのかに甘さが加えられていた

僕好みの味だった

ここから見える生い茂った濃い緑の葉とふわっと大きく咲いた赤い花が光に当たって綺麗だった

この花はエディブルフラワーで飾り付けにゼリーやサラダ

、カルパッチョやセミドライにして茶葉に混ぜたりしていた


この庭園はユダが管理しておりハーブや珍しい植物や綺麗な花が多い

以前一人で遊んでいたら毒草のエリアだったらしく

怒られた

そんなもん植えとくなって内心思っていた




ゆっくりしたと次の訓練だ


「坊ちゃんは魔術の素養がおありです。冷静に集中して体内の魔力の流れを意識し、形をイメージしてください。論理的思考と感覚的行動を一致できるように覚えましょう」



僕は瞳を閉じて魔力の流れを意識し

力を集中させる


「坊ちゃんの魔術属性の適正は風、火、雷ですね。三属性は非常に珍しいです。基本的に一属性、貴族や才能があるものはニ属性です」


「他属性が全く使えないってわけでもないのですが適正があれば発動も威力も違います。それを魔道具や刻印などで増幅したり構築させたりします」


自分の中で風をイメージする

大いなる疾風

大地を駆ける風


「その調子です。そこからは式を構築し詠唱して具現化させて発動です」



「風の精霊よ我が望みに応え形を成さん 願う立ちはだかるものを廃せよエア!」


大気に魔力が混じり合い緑色に発光する

それが形となり前方の木の人形を吹き飛ばした


「お見事です。適正した属性なら中級程度扱えそうですね。ですが完成度はいいですが発動が少し遅いです。練習ですからかまいませんが、敵なら発動前に攻撃します。なのですぐ発動できる魔術も習得しましょう」


「わかったよ。確かに実戦なら考えとかないとね」


こちらを黙ったままユダが見る


「どうかした?まだ何かある?」


「いえ、随分練度が高いと思いましてね。昨日魔術学論をお教えいたしましたが、そこまでできるとは思っておりませんでした」


「そ、そう?才能とかあるのかなぁはは」

あぶない察しが良すぎる

以前の僕は上級、禁断魔術に手を出していた

今の体に合わせてと考えていたが

構築の速さは確かに速すぎたかもしれない


「そうですね。まぁ悪いことではないですが、あまり魔力が慣れてないと離脱症状が出る場合もあるのでご注意を」


「そうだね!気をつけて頑張ってみるよ」

なんとか誤魔化せたな

ユダはこれでも俺の身を案じてくれてるからな

悪いけど僕の嘘に付き合って欲しい



「セウスはすごいな!驚かせてもらったぞ。それなら魔道具の杖か儀礼剣、魔法剣とかも扱えそうだな」


近場にログナスが寄っていた


「確かにそれがいいですね。坊ちゃんに合うものを見繕いませんと」


「なら俺の剣とかどうだろうか」

ずいっと腰にさしてある剣を渡そうとしてきた


「ダメに決まってるだろ!それ国の聖剣じゃないか。それは人を選ぶし簡単に貸したりしたらダメなんだぞ!」

僕はそう怒ってログナスをとめた

なぜか不服そうにしょんぼりしているがダメなものはダメなのだ


「そうですね。何かあったら国宝です坊ちゃんでも処罰は免れませんねふふ」


「なんで嬉しそうなの?」


「いえ別に」


キッ!

この悪魔め!


「ならこれを」

ユダがそう言って腰の隠してある黒い短刀を差し出してきた

黒い刀身で赤い魔石が埋まっている装飾品のような美しいナイフ


動悸が早まる呼吸がうまくできない

これはあの、あの時じゃない

しないはずの炎と肉が焼ける煙の匂い

人の叫び声

そして初めて見せたユダの緩んだ優しい顔



「坊ちゃん!!」

「セウス!!」



ハッとして現実に戻される

二人に肩を掴まれ腰を支えられていた


「坊ちゃん具合が悪くなりましたか?魔力の枯渇はしていないと思っていましたが魔力酔いかもしれません。お休みください」


「セウス無理をするな!苦しそうだが大丈夫か?顔色が悪い少し待っててくれすぐ良くなる」


ログナスがいつのまにか回復魔術を発動してくれていた

体の震えが落ち着き楽になる

ユダは体を支えてくれて背中を撫でてくれていた


そうだあの時とは違う

僕がしっかりして歴史を変えなくちゃならない

絶対にだ



「2人ともありがとう。…だいぶ良くなったよ心配させてごめんね」


少し休むよ

そう言って歩いたが二人に支えられて

屋敷に戻った






そのまま屋敷の部屋で三人で談笑していた

夕食もお母様とユダとログナスが混ざり

四人で食事をした

全てを守りたい

なんてできないけど

せめて犯した罪をおかさず

自分の大切なものだけでも必ず守るんだ






お母様は話し足りないようだったが

遅くなってはいけないと部屋に下がってもらった


そして僕の自室でお茶を飲んで休んでいる


「体調は大丈夫か?」


「大丈夫だよ。心配しすぎだよログナス」


「心配はいくらでもするぞ俺はな。それぐらいはせめてさせて欲しい。ほんとはずっとそばにいれたらいいのに」


……


「それは僕が息が詰まるから困る!ユダだけで精一杯さ」


「ほぅ。私だけで精一杯でございますか。ならご自分でこなせます様に指導しますのも私の勤めですね。では朝から早速調教を」


「なんでもないですごめんなさい」


「仲がいいな。確かにユダがいるなら心配はあまりないが、これは俺の気持ちの問題だから許してくれ」


許すとか許さないとかの話しじゃないと思うんだけどなぁ

忙しい国一番の騎士のくせに来すぎじゃない?

二人はこんなに過保護だったかな

二回めだからこそ気づけることもあるんだな





和やかに時間が過ぎていった


「そこでドラゴンが現れて流石に驚いたな。仕方ないのでゴーレム八体と地竜を倒す羽目になったんだ。流石にあの時は日帰りでは帰れなかった」


ログナスのちょっと街までふらっと寄ったら祭りがあって遊んだら遅くなってしまった

並の軽さで国三分の一は被害が出そうな案件を気軽そうに話す

アホか


「ログナスがいなかったら国はとっくに滅んでいたかもなぁ」


「そんなことはない。この国の戦士も人々も勇猛果敢で強い。俺がいなくともなんとかなったさ」


「どうだろうそれは……。被害が大きいし国力も下がるから他国との戦争に発展したかもしれないね」


「そうですね。今は大国のニ国ともおとなしいですが、きっかけがあればまたってこともあり得ます。百年戦争のとき魔王の復活により戦争どころじゃなくなりまして仕方なく協定を結び三国と勇者のおかげで世界は平和になりました。人は利権や欲をかくと碌なことをしませんからね」


「手厳しいなユダ。確かに歴史はそうだが、繰り返さないように我らが歩み寄り未来を築いていかねばならないだろう。あと四年で平和記念祭五十周年を祝うのだから我らは日々努めなければならないのだ」


そうだ

あと数年であの悪夢の日がやってくる

それまでに準備をして刃を研がねばならないな

全盛期までとはいかないが剣術と魔術は底上げし

戦力を増やさないと

あとはあの日何があったか

裏切り者を炙り出し必ず阻止して

僕が自ら裁くのだ

誰も悲しまない世界なんて夢物語なんてわかっているけど

悲劇よりいいじゃないか


一度目は王族の誰もお母様のことも僕のこともなかったことにされた

ただの不幸な事故だと

王城の主賓たちの襲撃は多くなく

なぜか城の離れた場所にいた僕たちの場所が爆破され襲撃され

あの悍ましいアイツがいた

結局アイツは二度も会うことはなかった

自滅したのかログナスが倒したのだろうか


一度目の時反乱軍を率いていて名を告げて宣戦布告をした

その後戦場でログナスと再開した

だが僕のことを騙されているだとかそんな事はする必要はないだとか戻ってこいだとかほざいていた

あまりにくだらなく腹が立ったので話をそれ以降聞かず

戦った

ログナスは悪くない

己の使命と誇りにかけて動いたんだ当たり前だ

でもそれでも

兄のような人でも

僕の邪魔をするなら殺すつもりだった

結局勝てなかったけど

今はあれで良かったと思う

大切な人を殺さなかったのは正しいことだった

それだけは信じられた



「セウス、もう眠くなったのか?今日は頑張っていたからな」


「坊ちゃんそのままそこで寝ないでくださいませ。ログナス様は本日はどの様にいたしますか?」


「そうだな。泊まるつもりはあまりなかったが朝早く出れば大丈夫だし、世話になってもいいか?」


「もちろんお任せください。ではそれまでごゆるりとお待ち….」


「…」


ん?

なぜ二人とも黙ったんだ?

僕何かしましたか?

確かに眠くて聞き流したけどさ






「坊ちゃん、招かざるお客様です」





つまり侵入者か




こんなことあったっけ?

覚えてない



「申し訳ございませんがお二人はこのお部屋でお待ちくださいませ。掃除をしてきますのでしばしお待ちを」


「ユダ、俺が片付けよう。お前はセウスのそばにいたほうがいい」


「この屋敷は私の管轄でございます。ご主人様とお客様は侍従である私どもでお守りせねばなりません。どうか坊ちゃんのお側にいてくだされば私も安心して働けます」


「だが俺が動けばすぐに片付けられる。セウスも不安だろうお前がそばにいれば心強いはずだ」


「ちょっ、ちょっと待ってよ僕も戦えるから大丈夫!それよりお母様たちが心配だ!」


「奥様は近衛兵がついております。この屋敷の使用人は車夫まで戦えますご安心を。そして坊ちゃんを前にだして戦うなんて愚行はしません。弱点を晒す行為ですご理解を」


「うぅ、でもそれじゃあユダが…、強いのはわかってるけど、それでも嫌なんだ。部外者でいるのは」


………



「それならばログナス様と表の方をお願いできますか?ログナス様がいればかすり傷もあり得ないでしょう屋敷、壊さないでくださいね。私は奥様たちを確認した後裏庭の方を片付けます。感知魔道具の一番離れているのに感知される様な相手です。過信した愚か者か隠す気もない実力者かどちらかです」


「任せてくれユダ。セウスには指一本触れさせない。片付けなら応援に行く」


「期待してお待ちしております」


「…….ユダ、ログナス。ごめん、でも力を貸してほしい」


二人はこちらを向いて優しい笑顔で頷いてくれた


これは今後のための模擬戦にもなる

記憶にないってことは簡単に前回は片付けられたんだろう

正直言ってこの家は王城より戦力過多だ

運が悪かったな侵入者



そして部屋を出て別れ道で僕とログナス、

ユダと別れた





廊下の窓からは状況にそぐわない

白い月が静かに僕らを照らしていた





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