第2話
状況を整理しよう
落ち着け僕
こういう時こそ冷静にだ
現在の状況は
何故かあの炎の中での決戦を敗北で終え
死んだはずの俺は
十歳の時の俺に時間が巻き戻ったみたいだ
その証拠に刺された腹は無傷で巻き戻った瞬間には
俺はブランコから射出され回転しながら木に突撃した
そしてたんこぶができしんだはずの母上に再会できた
それで宿敵の黒騎士ログナスに馬乗りで支えられまた頭からの不時着は回避された様子だった
再出発できるのか
なら今度はこれから起こるであろう不幸を回避し
後悔を重ねた人生をやり直すため
俺ことセウス・クルースベルは二度目は堅実に生きようと誓ったのだ
そのはずなのに
あれからこんなことになるとは
あの悪夢の日以前の記憶は正直言って曖昧だ
「さぁ坊ちゃん。そんか不貞腐れてないで起きてください。私の仕事を増やそうだなんてそんなに甘えん坊でしたか?でしたら今日の坊ちゃんお怪我治ってよかったねそれとごめんね会をキャンセルして子守唄と国の銘菓を集めた茶会でもしましょうか」
「おいユダ!!いくらなんでも不敬だぞ不敬!不敬罪で処されるぞ!」
部屋でユダがクローゼットから服を取り出し今日の一張羅を選別している
こちらを見ずに言う
「はぁそうですか。では処される時に坊ちゃんの悪行と恥ずかしいお話を洗いざらい吐いてスッキリして召されましょうか。あ、お供えは日替わりでデザートをお願いしますね。お茶も忘れずに」
「それはやめてくれ頼む。本当に執事なのか疑わしいなユダ。てか注文するな」
うぅ、朝から頭が痛くなる
「あとそのへんなネーミングセンスの会やめてくれ。間違ってはいないけど」
そう、そうなのだ
あの時ブランコで空を舞い不覚にも怪我した僕
それを母が父である国王陛下に涙ながら責めたらしい
美人な母の涙に勝てる男はいないだろう
王は急いで手紙と見舞いの品をいくつも送り
花と歌手を連れてきて王の悲しみと愛しい我が子への憐憫とすれ違う愛をテーマにした歌を聴かされ恥ずかしさで
死ねそうだと思った
その時居合わせたログナスは歌詞には触れず
絵画のような姿で拍手をしていた
俺たちの後ろでユダがバレないよう大笑いを我慢していたのは屈辱的だった
初めて見たはあんな顔
しかも歌詞楽曲貰ってたし
絶対ろくなことに使わないだろ
そんなこともあり
完治したら城で祝い改めて謝罪を兼ねた食事会があるらしい
実にくだらない
だが断れば母と父にさらに確執が生まれる
面倒ごとは避けたいんだけどなぁ
はぁ、とベットに埋まったままため息を吐く
「お洋服の準備が整いました。さっさと諦めて着替えましょう。」
「うー、いやだー。いきたくないー」
そりゃそうだろ
遊び方を逸脱して勝手に自滅しといて
会を開いてもらって晒されるなんて
恥ずかしすぎる
俺の馬鹿!
「ごねても結果は変わらないのですから潔く諦めてください。…城での食事会ですから軽食にしましたが、坊ちゃんのお好きなはちみつとクリームのトーストとミルクティーをご用意しましたから、今日一日頑張ってください」
なんだと!!
ユダは普段意地悪だが僕が本当に困っていると
助けてくるしへこたれているといつも好物を用意してくれる
「…….食べる」
「はい。では前失礼します」
少し声音が優しくなったユダが片膝をつき
ベットの端に座ったままの僕の服を脱がす
ユダの手つきは早く丁寧だ
柔らかくきめ細かなシャツの袖を通す
ボタンをとめ白いズボンを履かせる
首に青い紐でリボンを作る
そして金の刺繍が入った濃い青の上着を着せる
うん、さすがユダ
センスがいい
色素が薄いブロンドの髪で碧眼の僕に自分でもよく似合うと思う
「とてもお似合いですよ坊ちゃん。これなら盛大に笑われても見た目で中身の残念さはある程度カバーできますでしょう」
「ぐぅ!褒めて貶すな!」
「それではお食事を準備をしますのでお待ちを」
ユダは部屋から廊下へ進むとすぐ戻ってきた
メイドに運ばせていた食事を待機させていたようだ
準備がいいな。こうなることを見越していたのか
部屋から直通の庭で食事を取る
甘いスパイスと牛乳卵に浸されたパンを焼いたものと
白ワインで煮込まれたまだ食感と爽やかな酸味があるりんごが添えてある
蜂蜜が入れられた瓶とたてられた生クリームが並んでいる
そして隣でユダが蜂蜜とクリームを綺麗にかけて整える
素早くポットからブラックティーをそそぐ
「どうぞお召し上がりください」
「いただきます!」
うううううまい!!
数年ぶりに食べた好物に不覚にも涙が出た
「ふふ、坊ちゃん如何しました?そんなにお腹が空いておりましたのでしょうか。焦らずごゆっくりお食事なさってください」
ユダも感激しながら食べる僕を見て
機嫌が良さそうだ
そうか、あの時のせいでユダは行方不明になったから
本当に久しぶりの味だった
ユダは零落した貴族の息子で国への借金が返せなくなり
担保として我が家へ執事見習いとして家に来た
とても優秀だったユダは他を抜き僕の専属の執事になったのだ
同い年なのにすごいやつだと思う
まぁログナスが凄すぎて二つ違いなのに
ヴァーミリオン家当主の騎士団長について行って魔獣討伐に向かい単独で魔獣の群れのボスを倒したらしい
正直実感は湧かないがあのログナスならやりかねないと思ったのだ
「なんか僕の周りってすごいやつ多くないか」
ついそんな言葉が漏れた
「そうでしょうか?ログナス様のことを申しているのなら、あの方は別格でしょう。比べること自体無駄です」
ユダが部屋で荷物をまとめながら告げる
「そりゃそうだけどさ。あ、兄上だってもう政事に参加して城下の民に人気じゃないか。かっこいいし」
そう、俺には二つ上の兄がいる
母親は別だが第二妃の子だ
成長しても百七十未満の身長の僕と違って
二つ上の二人の男はそれより十センチも違う
「そうですね。ですがそれは無い物ねだりです。年配者の彼らは得意なことを見つけ努力し才能を開花させたのです。だからといって坊ちゃんが劣っているなどあり得ません。身長以外では」
「一言余計ではないか?だけど、そうかな。確かにいつまで比べて拗ねてても何もよくなることはないよね」
「そうです。まだ坊ちゃんはしたい事できることを焦らず探していけば良いのです。今のところお二人に負けてないとこがございますよ」
こちらを見ずに部屋からまっすぐ歩いてきてティーカップにお茶を追加してくれた
「それってなに?」
「周りのものを癒し愛されることです」
「え!なんだよそれいみがわからないぞ」
驚いて誤魔化すように食事を詰め込む
そうするとむせってしまった
ユダはそれを一瞥し背に周り優しくさする
「国王陛下も王妃様も、特別可愛がっておられます。兄上様も会えなくても必ず手紙を送ってくださるではないですか」
「そ、そりゃ両親は大事にしてくれるだろこれでも王子だし。兄上だって一人の弟に手紙くらい………」
「素直さも大事ですよ。肝心な時に気持ちがすれ違ってしまいますから。別にやらなくてもいいことを喜んで率先してしてくれる。愛情を注いでくれるのはその価値が坊ちゃんにはあるという事実が証明されるのです」
「そ、そうだね。ごめん」
「私に謝罪は不要です。思うことがあればその愛情に応えられるよう考えることです。それに」
いつのまにか反対の席でお茶を飲んでいる
ユダが言葉を止めた
「うん、わかったよユダ。ユダはいつも忖度無しで伝えてくれる。それはとても素晴らしく得難いものだと思っているよ。そしてそれに?」
「忖度しても無駄な労力ですから。可愛らしいのですから花嫁修行でも精を出してみては?ご両親もログナス様も喜ぶでしょう」
つい口の中のお茶を軽く吹き出してしまう
すごく嫌そうな顔をしているユダ
今度はさすってはくれなかった
「花嫁修行とか何をいってるんだユダ!?僕は男だ!それにな、なんでログナスも喜ぶんだ関係ないだろう」
手ぬぐいで拭う
テーブルは拭いてくれたようだ
「そりゃ喜ぶでしょうあの方なら。あの方が愚鈍な坊ちゃんのめんどくさがらずに好き好んでそばに居て使用人のように尽くすなんて、暇なんてない忙しい身のあの方が時間を作ってまでそうなさるんですからねぇ、そういうことでは」
優雅に紅茶を飲む姿に本当に執事かと思う様になりすぎだ
「そんなの頼んでないし、年下の僕で遊んでるだけじゃないのか?兄上は同い年で似たタイプだから友達というより仕事仲間な感じだし、母上のお気に入りだから顔をたてて付き合ってくれるいると思う」
つい視線を逸らし言った
言い終え視線を戻すと
本を読みながらお茶を飲んでいる
優雅だった
「ユダお前寛ぎすぎ!!!」
「はいはい。ならご本人様にご確認ください」
「そんなこと本人を目の前にして聞けるか!今日だって会場にいるだろうしほんと無理だから!」
何故自分を殺した奴に僕のこと愛してる?って聞かなきゃならんのだアホすぎる
「簡単にあの方なら愛してるって言いそうですけどね。完璧な方ですが恋愛方面ポンコツそうですし」
「ポンコツって、一応貴族の出世頭の騎士にすごいなユダ」
「それを普段振り回して送迎に来させてる貴方に言われたくはございませんね」
「振り回しなんか、…………えっ?迎え?」
「いらっしゃいますよもうすぐ。ログナス様」
「はぁ!?」
そう叫んだところで爽やかな声がした
「おはようセウス。ユダ。良い天気で素晴らしい一日になりそうだ。入り口から庭に来てすまない声がしたものだから」
「それと今日の主役は一段と素敵だ。よく似合っているなセウス」
…………ブフッ!?
驚いて衝撃が遅効性で効いてきた
吹き出したお茶をトレイで防いだユダ
そして反対側の面のトレイで頭を叩かれた
僕が悪いけど王子だよ僕
その後テキパキと掃除され片付けられ
荷物を代わりに持ったログナスと共に白へと向かったのであった
出発前にも一悶着あって
てっきりユダついてくるのだと思っていたら
着いてこないらしい
あの面子では陽の気に当てられて死んでしまう
おなじ王族でもキラキラしてて辛すぎる
この美形の死んだ魚のような目のユダが緩衝材に
なればいくらかマシになる
そんな魂胆がバレてしまっていたのか
「私も暇じゃないんです。子守はログナス様にお任せするので楽しんできてくだしませ」
そう言って足早に去っていった
それを見ていたログナスは
「ユダは相変わらず優しいな。役目を譲って任せてくれるなんて愛されているなセウス。安心してくれ君は俺が守る」
先程の会話もあって愛とか言われるともう色々やめてほしい
顔が見れないので僕も足早に馬車に向かう
なのに歩いてきたログナスが普通に追い抜いて
扉を開けてエスコートされた
もう色々と嫌だ
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