第17話






「いい加減降りないか?」

「嫌だ」

「なんで背負われてんのに偉そうなんだよ….」



異界を抜けた後俺たちは次の村を目指していた


「スイウン代わってくれ」

「…」

「おい」

「絶対嫌だね」

顔を背けて頭の後ろで腕を組んでいる

反抗精神を見せつけてきた

一度馬のアレクに乗せようかと話になったが

アレクが蹴り上げる構えをしたので断念した


別に軽いし嫌ではないが

「……ふふ」

チラッと俺たちを見るたびに微笑ましそうに笑うスノーに複雑な気持ちになる


「お、見えたぞ」


山肌から飛び出た崖から下を覗く

そこには森の中に村があった



「これでゆっくり休めそうだね」

「ああ、誰かさんのせいで長時間歩かされたからな」

「我輩スイーツなるものを食べてみたいぞ」

「…」

「爺さん肉体変えると精神まで子供になんだよ」


前を歩き出した彼らに

後ろの子供ヴァンパイアを背負い直して

俺は歩き出した





≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫





「「「………」」」



「シケた村だのう」


「こ、こら」

急いでカインの口を塞ぐ

誰にも聞こえてないと願いながら周囲を確認したが幸い聞かれていないようだった



「…でも確かに空気悪いな」

「…どうだろ、たまたまかもよ?大人は今は村の外にいるのかもだし」

スノーがそう言って周囲を窺う

丁度家から人が出てきたが

俺たちを見て扉を閉めた




「…歓迎はされてないみたいだね」

小さくスノーが言った


「はやく!はやくスイーツを馳走せよ!はよ!」

「耳元で大声を出すなよ」

「はよう!はよう!」

ジタバタと暴れ何発か頭を殴られる

落としてもいいんじゃないか?

と思考が過ぎる



「あっ」

トスン…


スノーが立ち止まる

目の前には小さな男の子がいた

「ごめんね!怪我はないかい?」

慌ててスノーが抱き起こす

男の子はされるがままだぽかんとしている

「怪我は、ないみたいだけど。痛くなかった?ごめんね」

「……」

「…どうかしたかな?」

子供に優しい話しかけるスノー

母性が溢れてて魅力的だ

「うぬ?気持ち悪い気配が…」

「気のせいだ」



「…あの」

じーと子供はスノーを見つめる

「あの…」

「聖女様!」

「え?」

「聖女様だ!」

男の子が目を輝かせてスノーの腕を掴む

「こらこら困らせちゃダメだろ?」

ゲシッ

脛を蹴られた…

「プフッ」

「….」

笑いを堪えるスイウンを睨む

「おい坊主。いくら別嬪さんでも失礼だろ?モテねーぞ」

ドヤ顔で子供に接する


「おじちゃんだれ?」

「「ププッ」」

「てめぇら」

二人セットで笑ってしまった


「聖女様!やっと来てくれたんだね!」

「えっと、俺は聖女様じゃないよ」

「えーそんなわけないよこんなに綺麗なのに!」

「あ、ありがとう。でも本当に違うんだ」

「えー?」

子供は無垢な暴力を働いた

「わ!」

「えい!」

なんとスノーの胸を両手で揉もうとした

「こ、こら!」

「こら!」

子供からスノーを離す

くそエロガキめ

俺だってまだなのに…


「ありがとうヴァルツ…」

「大丈夫だったか?」

「うん…」

少し頬が赤い

この子供只者じゃないのか!?


「聖女様!いらっしゃい!お祈りに来たの?」

「違うよ。旅をしているんだ」

「聖女様が旅?いいなぁ」

「大きくなったら君も好きに選べばいいと思うよ。それよりどこか宿と食事できるところないかな?」

スノーはうまく舵をとるらしい


「あるよ!」

「そうなの?なら案内してくれないかな?お礼はするから」

「うん!」

そうして案内してもらった先は


「ここだよ!僕の家!」

「うん…」

確かに宿屋だった

前の村より明らかに小さいが

村自体小さく辺鄙な所なのであまり需要がないのかもしれない


「ありがとう。これどうぞ」

「なに?お菓子?」

「うん」

「ありがとう!」

飴をもらってその場で舐める

嬉しそうだった

「なんか手慣れてんね」

スイウンが聞いた

「そうかな?旅をするとそこの子供たちから話を聞いたりするから、少しは慣れてるかもね」

笑ってそう話す


宿に入る


中は薄暗く、廃れているように見えた

「あのー…」

子供は走って奥に行ってしまった

物音しなく少し不気味だった


「あの」

「ひぇ」

情けない声を出してしまった

声の主は髪を束ねた女性だった

「コホンッ。失礼、すみませんが宿に宿泊と食事をしたいのですが?」

その女性は訝しむような視線を向けていた

…気まずい

「……はい。わかりました。でしたらあちらで受付をお願いします」

促され紙に名前を書く

「お食事は一階でお召仕上がりできます」

「わかりました」

「お部屋は二つありますがどうしますか?ベッドはそれぞれツインとなっております」

二部屋でツインか……


「俺はスノーちゃんとな」

後ろから目ざとく覗いて言ったスイウン

「却下」

「はぁ?おれはてめぇとなんか嫌だからな」

「珍しく同感だな」

「失礼なやろーだな」

「お互い様じゃないかな?」

睨み合う

「じゃあ間をとって我輩が」

「「却下!」」


長い攻防の末

スノーに決めてもらうことになり

俺とスイウン、スノーとカインとなった

異議申し立てをしたが

子供だからねと言われ終了した

中身は違うと言ったがカインが騒ぐので女性の目が痛かったので仕方なく譲った

何かしようしたら切り捨てる口実ができるなと思った


一階で食事を終え部屋に行く

互いの荷物を置いて少し休み

村を散策するというスノーに俺は同行した

スイウンは定期報告だと言って別れ、

カインは眠いと言ってたので宿に置いて行った

つまり、二人っきりである

俺は心の中でガッツポーズをした



だがこの村はなんというか

排他的なようで歓迎された様子ではなく

日暮れ前に

手短に物を買って戻った


まだスイウンは戻ってきてないらしい


俺の方の部屋でお茶をすることになった

日頃のお陰かありがとう神様…


「はいどうぞ」

「ありがとう」

湯気立つ紅茶を飲む

今日もスノーが淹れてくれたお茶がうまい!

幸せだ!


「しかし変な雰囲気だねこの村」

「確かにな。まぁ閉鎖的な村だとよくあるよ」

騎士団で寄った村や町でも

毛嫌いされて歓迎されないことなんてよくある事だった

「…なんだろうこの、空気がおかしいというか」

「…」

黙って話を聞く

「目がね…」

「目?」

「俺たちが通る時目を逸らすんだけど、通り過ぎる時一瞬だけこちらを見つめるんだ」

それが少し不気味だったと苦笑する

「そうだったのか」

「あとあの教会」

「あああれか、確かに村の様子と違って立派だったよな」


昼間の出来事を思い出す




後から俺たちを探して追いかけて来た

「どこ行くの?」

「散策しているんだ」

「へぇー」

小石を蹴って遊んでいる

村の様子とは違って子供は元気で安心する

「あれは、教会?」

スノーの視線の先にはこの村にしては立派な教会があった

「…行ってみようか」

歩き出したスノーについて行く

その境界は白い壁でできていて上には鐘と小さなステンドガラスの小窓が見える


スノーが近づいて重そうな鉄扉に触れようとした

「何をしている!」

鋭い声が聞こえた

振り返るとそこには少年がいた

怒りの表情、だろうか険しい顔をしている

「あんたたち何をしている!勝手に入ろうとするな!」

近づいて扉に触れていたスノーの腕を掴む

「やめてくれ」

俺は少年の腕を掴み上げる

簡単に外れる

「うぅ」

「兄ちゃん!」

男の子が少年に引っ付く

驚いて手を離した

「オプタ!お前どうして…お前が連れて来たのか?ここには近づくなって何度も言っただろ!」

肩を掴んで怒鳴る

男の子は泣き出してしまった

「おい。言い過ぎじゃないのか?」

「うるさい!関係ないだろ!」

噛み付くように吠える

「勝手をしてごめんなさい。つい興味があったからここに来てしまったんだ。その子は関係ないよ」

スノーが庇うように言う



「……」

男の子を抱きしめ俺たちを睨む

何でこんなに敵愾心があるんだ不思議に思う


「…あんたたち、旅人か?」

疑っているようだった

「そうだ。先程到着してその子の家の宿に泊まっているんだ」

「あっそう」

男の子、オプタに耳打ちして

オプタは頷いて振り返りながら走り去っていった



「…」

少年は俺たちを無視して去ろうとした



「待って」

スノーが呼び止める

「…」

「なんで、この教会には近づいてはダメなの?」

その問いかけに少年は止まる

赤茶の髪が夕日に染まって赤くなる

そして顔だけで振り返る

「…何も知らない方がいい。無事にこの村を出たいならな」


そう告げると走り去っていった

何だったんだ

疑問が残った

スノーはただ去っていった少年の方向を見つめていた

そして宿に戻って来た次第となった


「この村はやっぱり、何かありそうだよね」

「…かもしれないが、よそ者の俺たちに出来る事はないんじゃないか?」

下手に動いて危険に巻き込まれるのは勘弁だ

この度で何度スノーが危険な目にあったか

せめて防げる厄災は未然に防ぎたかった

「…その通りだね」

「疲れたんだろう。少し休んだらどうかな」

「そうしようかな。カインくんも寝ているし」

「明日はゆっくりして午後から出よう。半日も歩かないで街があるらしいし」

「そうか。そうしよう。スイウンが戻って食事の時間になったら起こしに行くよ」

「うん。お願いするね」

手を振って退出したスノー

何か憂いているようだ

君には笑っていて欲しいのに

願い事は増えるのに

うまくいかないことばかり、俺は増えていく


窓から日の光の中わずかに姿が見える月が見えた



………



≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫





………



「おい!起きろ!起きやがれ金髪ゴリラ」

ゴスッ


「…痛い」


「起きないお前が悪いんだよ!いつまで寝てやがんだ」

「俺は、寝ていたのか…」

いつのまにか椅子に座ったまま寝てしまったようだ


「今何時だ?」

「九時過ぎだ。式神送ったはずなんだが…」

ボソボソと何か言っている

俺はまだ寝ぼけていた

「あっ!」

思い出した

すっかり寝てしまい食事の時間も過ぎてしまい

スノーを起こすのを忘れてしまっていた


「スノーを起こさないと」

「スノーちゃんも寝てんのか?俺以外寝てたのかよずりぃな」

午後とか言っているスイウンを無視して

部屋を出ようとしたが下から異音がした

スイウンと目で会話する

音を消して階段を降りる


気配がある

あの女性ではなく隠れるような気配だ


布が敷かれているテーブルの下に何かいる

俺は近づいては武器を構える

反対側にスイウンが立つ

タイミングを合わせる

「出てこい!何者だ!」

テーブルをどかす

すると蹲っている人がいた

それは

「君は、昼間の少年じゃないか」

昼間俺たちを睨んで愛想の悪かった少年が

青い顔をして蹲っていた


「どうしたんだ?」

肩に触れるとビクッと震え

俺を見るとすこし安心したようだ

「なんだこのガキンチョ」

「何があったんだ?」

安心させるように話す

「お、…」

声が震え歯がガクガクと音を発している

何が少年をそこまで怯えさせているのか分からなかった


「ゆっくりでいい。離してくれ」

目を見つめ話す

「……お、弟が消えたんだ」

「弟って、オプタか?」

その問いに頷く

「迷子か?なら村の大人たちでも自警団にでも相談しろよ」

下らないと背もたれを前にして椅子に座るスイウン


「違う!!オプタが勝手に夜出歩くわけがないんだ!きっと、教会に近づいたから、連れてかれたんだ」

驚くことを言った

教会に近づいたから連れてかれた?

「なぜ連れて行かれたんだ?この村は何を隠している」

俺は矢継ぎ早に尋ねる

これは異常事態かもしれない

旅とは関係ないが困っている人がいるなら騎士として見逃せない

「い、言えない」

「なぜだ!」

肩を掴み目を合わせる

彷徨っていた目が俺の目を捉え

力が抜けたように、口を開いた



「悪魔が、教会にいるんだ」




少年はそう一言告げた





「あくまぁ?」

椅子の背もたれに頬杖をしながらスイウンがくだらないとでも言うような態度だ


「ありえないね。真っ先に邪気を探知したが感知されなかった」

「嘘じゃない!アイツのせいでみんなおかしくなったんだろ!!」

涙を流し歯噛みして言い放つ

その様相は嘘をついているようには見えなかった

俺はスイウンに目で尋ねるが

スイウンはお手上げとも言うように小さく手をあげる


「…なら俺が教会に行って確かめる」

「は、お人好し」

嫌味を言うが無視をする

「で、でも」

「任せろ。これでも俺は騎士なんだ」

剣を見せて納得させる

「騎士様なの?なら、アイツを、悪魔を倒して!お願いします」

泣きながら俺の胸に縋る

落ち着かせるのに背を撫でる

「言ってくるからここでこのアホな兄ちゃんと待ってな」

「誰がアホだ」

「でも、殺されるかもしれないよ」

「俺は簡単に殺されない。神様の祝福があるからな」

「そうなの…でもアイツは、神様が見ている教会を住処にしてるのに、それに同じ事を言ってたあの人も帰ってこない…」

あの人?

俺は怪訝な顔をする

少年は俺の顔を見て不安な顔をした

「あの人って、誰だ?」

嫌な予感がした

「…昼間会った、綺麗な人」

俺は二階の部屋に走った


バンッ!

「スノー!!」

扉を開けてみたが

スノーの姿はなかった

全身に嫌な汗が流れる


蝋燭と月光差す部屋では虚しくカーテンが揺れていた





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