【番外後編】ハロウィンブルーナイト




お、おえ~~~~………



広場から離れた井戸の近くで

哀れな男二人は水を拝借して口を洗っていた

……

わ、忘れよう


スイウンも同じように項垂れて水で洗っている

やられるとすごい腹が立つが、仕方ない

くそ今日はスノーと仲良く楽しんでいたのに

この間男が!(付き合ってない)


熱気すら感じる祭りの喧騒から離れ

冷たい秋の夜風が肌の温度を下げてくれて気持ちがよかった

「…スノー、寒くはない?」

様子を窺って尋ねると

風に揺らいでいた髪を指で掬って耳にかけて

月に照らされた顔を向けてくれた

それが儚さと美しさを際立てていて

見惚れてしまった



「ん?」

「いや、綺麗だなと思って…」

あつい本音がッ!

「そうだねー。満月だ」

同じように空を見上げる

あたりに散らばった星々の中で

丸い月が煌々と輝いていた


「うん。綺麗だ」

微笑んでそう言ったスノー

ずっと横に並び仮装の上着を脱いで肩にかけた

そしてのそのまま肩を寄せるように抱いた


……


し、静まれ俺の心臓!!!

初めての野外訓練で荒れ山のジャイアントベアの巣穴に投げ入れられた時以上に心臓が高鳴る

もちろん意味合いは全く違う

風とともに柔らかな花の香りと月光に当たってキラキラと輝く髪が光って美しい

細い肩と体は簡単に収まりまるで大切なものを抱えるように

周りの誰にも見せないように包み込めた


………


「………ゔ、ヴァルツ?」

珍しくスノーの声が高く跳ねて緊張を伝えてくる

俺に肩を抱かれて意識してくれたのだとか柔らかい肩が気持ちいいとかもっと抱き寄せたいとかむしろ膝に乗せてもっと密着できればなとかこ、このまま告白とかしちゃったりなんだりしちゃったりとか?はぁ?


我ながらパニックを起こし自分にキレる始末


指の震えが伝わっていないかとか

今夜は素敵な夜ですね?とか

ハロウィンって結局なんの祭りなんですかねとか

ロイが「おいヴァルツみてくれこの最新号、仮装美女百選だってよ」とかくだらないこと言ってたなその表紙の子が確か赤ずきんの格好で……

チラッと見えた視線の先には白い太ももが見えて

そういえば、下着はどうなっているんだ?

流石に男物だよなあはは、ですよね?


もう頭の中がぐちゃぐちゃで脳内会議では乱闘騒ぎである

「だから言っているだろう!可憐なスノーとは着実に好感を持ってもらうために尽力しそしてメロメロになってから告白すればいいんだ!」


「ふざけるな!そんなの待ってられるか!こんな美人で可愛くて料理ができて可愛いんだぞ!ウダウダしてる間にあのアホ男に手なんか出されたらどうするんだ!絶対スイウンブッコロ!」


「落ち着たまえよ。こういった時こそ騎士道だ。麗しき我らの姫を攻略するには難関がいくつもある。正直世事から遠ざかり色恋なんて見向きもしなかったせいでこのざまだ。ロイがとてつもなくウザかったが少なからず学ぶべき点があった。そうだろう?」


「恋愛初心者だからこそ慎重にすべきだ!フ、フラレでもして拒絶されたら、い、生きていけない」

「「やめろそれは俺らにも効く!」」


「だから既成事実だ!ロイもよく言ってただろ。乙女ってのは多少強引にされるのが好きなんだよ!想像してみろ。スノーがいや、だめ、ヴァルツ恥ずかしいよとか言って、あぅたまらん」


「落ち着け馬鹿者それでも騎士の端くれか。全く情けない。スノーは俺たちの嫁だ。丁重に扱わなければならない。屋敷はどこに建てればいいんだろうか。やはり王都と避暑地に別荘でも建ててスノーと二人で時を過ごしたいな。うん、たまらん!」


「議長も落ち着いて!そもそも付き合ってないのに飛躍しすぎ!ほらスノーが困惑しているだろ!」


「「え?」」


脳内会議から投げ出された

「ねぇヴァルツ大丈夫か?また鼻血でてる!」

「あ、ああすまない。ちょっと野暮用で」

「野暮用で鼻血ってなに!?落ち着いてよ」

「落ち着いてる落ち着いてる」


布で鼻血を拭き安心させようと笑みを浮かべたが

引かれた




≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫




「おぅいたいた」


「あ、おかえりスイさん」

「チッ」


「おいこら人をパシッといて舌打ちとかまじ舐めてんな」

「それはすまなかった」

「棒読みかよ全く」

ボソボソと文句を言いつつも温かいものを買ってくれてきたらしい


「こっちがスノーちゃんの。エビとカボチャのトマトスープだってよ?卵つきしたけど食える?」


「うん好きだよありがとう!」

「好きかぁもっと言ってくれ」

「えっと「これはなんだねスイウンくん」」

「邪魔すんなよ」

「邪魔なんてしてない」

睨み合う

「喧嘩両成敗?」

「「な、なかよしだよぉ〜!」」

肩を組んで仲良しアピールをする

屈辱だが仕方ない

奴もなかなかにトラウマになったらしい

思い出したら吐き気がしてきた


「……おらよ」

「……感謝する」

蓋を開けると湯気が立ち上る

これは…

見上げるとニヤっと笑った


「カボチャとミルクのハニースープだ。体にいいからあっためとけよ坊主」

明らかにコケにして子供扱いにしているな

フン

俺は相手にすること自体が無駄だと思い黙っていただく

む、普通に美味しい

ミルクの甘みに蜂蜜の甘みと香り

そしてほくほくとしたカボチャにふんわりと香るハーブの香り


「…そっちも美味しそうだね」

「ん……たべるか?」

「いいの?じゃ一口。ヴァルツも食べてみなよ」

お互いに交換して食べ合う

全く違う味付けで、エビの旨味とトマトがよくあって美味い

横を見るとスノーも気に入ったのか笑顔だ

「チッ。いちゃつきやがって」

蹲踞の姿勢で悪態をつく

スノーに聞こえないギリギリの音量で

無言で笑ってやった

そうしたらムカついたのか小石を投げてきたのでかわす

残念でした


「まったくさっきから子供みたいなことばかりして。まぁ子供が主役のお祭りだしあってるといえばそうなのかな」


「子供が主役なのか?」


「正確には冥府から年に一度やってくる幽霊や悪魔などに捕まらないように仮装して追い払うだとか、豊穣を祝って飾り付けのカボチャを用意したとかさまざまな諸説があるね」


「へぇースノーちゃん詳しいね」

「旅をしながら本を読んでたからね。いろいろなことが知れて楽しいんだよ」


「あー俺の働いてる本拠地にはすげー本あるよ。本で壁が埋め尽くされてる」

「へぇ!それはぜひ読んでみたいなー」

「だろ?いつか寄れたら案内してやるよ」

「図書館にもよく行くけど、国立とかだと旅人や移民は閲覧制限があるから読ませてもらえないけど、その仕事場は俺が入っても大丈夫かな?」



「大丈夫大丈夫!スノーちゃんなら歓迎だよきっと。うちの隊長さんも喜んで、くれるはず?その前に叱られそうだな俺」


「えー?」

「基本めっちゃいい人なんだけどなぁすこし報告遅れたりすると外野がわーわーうるさくてなぁ全く」


「それはお前が悪いんだろ」

「仕事だって手を抜かなきゃなんねー時もあんの!これだからお子様は」

「自分の不真面目さの言い訳はよく出るな。その隊長さんとやらも大変だ!」

「あぁ?テメェ本気でぶっ飛ばすぞ」

「ふん。図星だったか?俺が隊長なら反省させたあと部署移動だ。トイレ掃除のな」


凄まじい速さの拳が顔面に迫った

それを受け止める

「……」

互いに睨み合う

こいつの本気の一撃、ってほどじゃないな

すでに手が痺れている

だが負けていられない

「二人とも」



「悪いスノー。男には引けない戦いがあるんだ」

「そうそう。さっさとこいつぶっ倒してデートしようぜ」


「させるか!!」

押さえた反対の腕で殴りかかる

当然のように受け止められた

互いに力で押し合う

スピードや技術で負けるが

力勝負なら勝てる!

「とか思ってんだろ?」

「!」


突然力が増した

ぐっ!

「誰が馬鹿正直に手の内見せるかよ。経験の差だよガーキ」


くそ!ムカつく!

全力で押し返す

「なんだよお前、八神式も丹田も理解してねぇのに…この力、魔力、じゃねぇな」

「なにを、ぶつぶつ、いって、るんだ!」

「クッ…」

全身をバネに押し返す

このままいけば

「調子に、乗んなよ」

雰囲気が変わった

瞳の色が怪しく光った気がした


「そこまで、でござる」


!?


何かが飛んできて互いに左右に飛び下がる

俺はそのままスノーを背に庇う

スノーは突然の展開に驚いているようだ


……

「……お前何でここにいるんだよ!担当域外だろ」

スイウンが暗闇の方に怒鳴る

知り合いなのか

だが姿が見えない

気配も辿れない

何者だ


「こちらの御仁が困っていた。だから止めたまで。感謝されることはしたが非難される覚えはない、でござる」


後ろから声がして振り返る

スノーの横に立っていた黒ずくめの格好の男が立っていた

額には金属の板が乗っており顔と首元すら隠れている

怪しい男だった


スノーを抱き寄せて警戒する



「よけーなお世話だよ全く!あーあ萎えた萎えた」

「下品」

「下ネタじゃねーよ!!」

「報告」

「すんじゃねーよ!!」

今度はこの男にスイウンは噛み付いている

だが男は動じず、淡々とかわしている


「お前何しにきたんだよ仕事か?聞いてねぇぞそんなの」

「解。仕事」

「中身は?」

「調査」

「なんのだよ」

「お前部外者」

「はぁ?そんなわけねぇだろ!ここは俺の担当域だ隊長に任されてんだよ。お前でも勝手すんならぶっ飛ばすしかねぇぞ!」

「解。八つ当たり。愚か」

「すげぇムカつく!その布ひん剥いて裸にして帰してやるぜ」

「解。貴様には不可能」


スイウンが素早く奴の顔面に蹴りを入れた

だがその姿はフッと消えてスイウンの後ろをとった

「ハッ。毎度それしかできないのかよ!だからうっさい兄貴に子供扱いなんだぜ」

「笑止。子供はお前。五月蝿い。口を縫う」

「裁縫のお時間かぁ!」

後ろを蹴り上げたが素早くまた消えた

速すぎて目で追うのが精一杯だ

これが卓越者の戦いだと感じた

スイウンはあの戦い辛い格好で見事な体術で戦っている

相手の男の音もなく素早く動き的確にかわして攻撃している

俺も目を使えば応戦できるが

差が大きい

……


「避けるばかりかよ!虎の兄貴にも同じこと言われたよなぁ」

「…ッ。死ね」


空中に男は飛び上がった

「跳梁跋扈 影縫」


月光で照らされた地面から黒い紐のようなものがスイウンに絡みついた

そして鍼のような影が何百本もスイウンに向かう

「本気か悪くねぇ!鬼門炎羅」

スイウンの体が一瞬で激しい炎に包まれる

脚を大きく開き手のひらを相手に向けて腕を伸ばす

深い呼吸で力を込めているのがわかった

「影八式 針千本」

「八千掌 朱雀!」

二人の大技が発動した

かに見えた


「ぬふっ!?」

「ふにゃっ!?」


情けない声とともに二人とも地に伏せた

二人とも苦しそうに悶えている


「何事だ……」

「う、うん」

突然の展開に身動きが取れない

どこからか襲撃か

それならこれだけの手練れを一瞬で倒すなんて

今の俺には手に負えない…

せめてスノーだけでも

俺はいつもこんな思いをしてばかりだッ……



「いたい、でござる」

「はぁ。おしりが四つに割れていませんか?」

二人はそれぞれ発言した

尻は四つにはなってはないぞ

多分


「あ〜……。わりぃはしゃぎ過ぎた。」

「反省。お許しを」


二人が土下座をした

俺に、ではなくスノーに向けて

「えっと、驚いたけど怪我がないならよかった、かな?喧嘩はやめてね」


「はい。気をつけます」

「ご容赦。ありがたき幸せ。でござる」


「それで、そちらの方は?」


ボリボリと頭をかいて横目で男を見たスイウン

男は小さく頷いた


「俺の同僚。今はエイスイだっけか」

「そうだ。でごさる」

「さっきから何だよその語尾。兄貴の真似か?」

「否。ハロウィン」

「えっ、それ仮装だったの」

驚くスイウンと違ってフンスと心なしかドヤっているエイスイは忍者という仮装をしているらしい



とりあえず四人で露天の離れたテーブル席に座る

テーブルにはとりあえず四人分の温かいお茶がある

お湯だけ買って茶葉はスノーお手製のだ

ありがたい

フーフーと冷ましながら飲む

美味しい

チラッとエイスイとやらを見たが湯呑みを持って口元へ持って行った

いただく、でごさるとか言ってそのまま飲もうと…口元の布大丈夫なのか?火傷するぞ


「うむ。良いお手前で」

「いえいえ」

あの一瞬で飲んだらしい

なんて早業だ

スイウンは特に反応せずチビチビとお茶を飲んでいる


「あの、さっきので怪我とか大丈夫ですか?」

「敬語不要。楽に話すと良い」

「そう。それで怪我は…」

「大丈夫大丈夫。殺したって死なねぇからこいつ。こう見えて頑丈なんだよな」

スイウンが肩を叩こうとしたが瞬時に移動してかわされた

それでムッとした顔になった

なんだか気分が良くなる不思議ー


「先程のは天罰。深く反省せり」

「つまり自業自得ってこと。俺らは互いにぶつかると正式な場でないと大抵ああなるの。じゃねーと毎度殺し合いになるから」

なんてことないようにスイウンは言った

そんな職場は嫌だな

俺も部下たちに不満がないかあったら聞いてみよう


「尻。腫れたか?」

「腫れてねぇ。お前は?」

「頭皮。無事。慈悲感謝」

不思議な会話だった


「……はぁこんな日にも叱られるなんて…お前いつ帰った?」

「……半年前」

「はぁ!?聞いてねぇ」

「言ってない。でも謁見一分未満。悲しい」

「まじか。やっぱ本部も忙しーのかねー。隊長に会えねーなら当分帰んなくていいや。うっさいし」

「同感」

「お前の兄貴が一番うるさいけどな」

「…解答拒否」

わははと笑う

仲間相手だとこんなふうに接するのかこいつ

「なんだよ坊や。見ても強くなれねぇーぞ」

「ッ!うるさい」

「ムキになんなよー」

「煽っているのか?」

「別にー」

「止める。いじめ、よくない。報告」

「……やめろよまじで地中に埋められるだろうがよ」

「正当、懲罰。スイウン。いつも怒られる。ウケる」

「何でそん時ばっかり話すの増えるんだよ!」

「少年」

「え、…はい」

話しかけられた。こう言ったタイプは初めてなので

どう接すればいいんだ

スノーはさっきから自分で買ってきた菓子を食べている

口元についているよ可愛い

「少年」

「は、はい。てか少年って言われると困るというか…」

「?ヴァルツ殿」

「はい。あれ名前…」

「知っている」

!!

それって王子だってこともか?

今はまずい

「スイウンから調査書に名があった。情報、一致」

それでからならまだ安心だ

「お主は強くなる。これ、事実」

「それは、本当ですか」

「なんか俺と違くねぇか態度」

「当然。スイウン、無駄に偉そう」

「団の奴らに比べたら全然マシだろ」

「同感」

手練れに強くなると言われれば多少は嬉しい

だが根拠に欠けているのは事実だ

情けない………


「でよぉ、結局なんだよなんの仕事だよ吐けよはーけ!はーけ!」

酔っ払いがウザ絡みしている

嫌な先輩みたいなやつだなこいつ


エイスイは黙って指をテーブルに当てる

そして何かを確認しなのか話始めた

「任務。調査。この村魔素の渦。邪気」

「陰か」

「うぬ」

「まじかぁ」

何の話だ?魔素の渦は、自然現象で地域によって魔素溜まりができて過剰にその地域にいる獣や魔物が活発になる

そして渦と呼ばれる現象はさらに悪化した地域のことだ

そこには上記の例にさらに不可思議のことが起きる


「対処は?」

「上々」

「……何で俺じゃねぇんだよ」


そう言ってスイウンは席を立った

「…よくわかりませんが何かあったんですか」

そこからが大変だった

口数が少なく主語しか話さないので時間がかかった

つまりはこの村付近で魔素の渦が確認されたので調査と

元凶の対処だそうだ

そして多分、この地域の担当であるスイウンは除け者扱いされたと思って拗ねているのか

子供っぽいな

いや俺でも自分だったら多少なり気になる


席に戻ったスイウンは大人しく

追加した酒を飲んでいる

「むっ!!!」

「「「ッ!」」」

突然の動作に俺たち三人は驚いた


「ど、どうしたんだよ」

「…不覚」

「はぁ?」

「ゴニョゴニョ」

「はぁ?だいやくぅ?」


キョトンとした俺たち

だいやく?代役?







≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫




「おばあさん、おばあさんはどうしてお口が大きいの?」


「お、おおお、お」


「お?」


「お、おまえを、たべるためだぞー!ガォー!」


「うわぁー!」



………


広場で行われていた演劇の役者の代役だそうだ

差し入れのカボチャ団子を食べたらメインキャストが全員ダウンした

それで同じ仮装をした人を探していて

たまたま手伝いをしていたエイスイが当てがあると来たそうだ

調査に来たんじゃないのか?


「それから赤ずきんを食べてしまった狼は 満腹になって ベッドの上でお昼寝をしました」


あのエイスイとやらは語り部だとふつうに話せるんだな

美声だ

ぜひ普段の会話もそうして欲しいものだ


「おや 誰かが近づいてきました 変な格好です」


「うるせぇ!海賊の俺を狩人にしたのがアホなんだよ!」


「このうるさく騒いでいる男こそ 海賊王を夢見て 所持金が尽きてひもじい生活を送りながら 街で細々と賞金を稼いでいた 元海賊の狩人でした」

「何だその残念なやつは!!」


「そして 食べられた赤ずきんのいるおばあさんのおうちに 向かったのでした」


「ここかぁ へへ。馬鹿なアホ面の狼が寝てやがる。よし顔に何か書いてやる」


な、なんだと!?

「よし!キンパツゴリラだ。ぷふっ」


「ふ、ふざけるなお前。よくも」


「チッ。水性かよこれつまらねーな」


「このアホ猿!よくもやったな」

ペンを奪ってデコにサルとかいた

「てめぇ!」


「こうして二人は 仲良しになりました」


「「なって(ねぇ)ない!」」


「そして 赤ずきんを助けるため 二人はダンスバトルを始めました」

「「はぁっ!?」」


「まずは狼の先攻です」


「えっ、ちょっと」

警戒な音楽が鳴り始めた

だ、ダンスなんて幼少期多少嗜む程度に練習したぐらいだ

と、とりあえずリズムに合わせてうごく

「ふふっ、狼さんへん」

「かわいーお尻振って尻尾ゆれてる」

「音楽とズレてる。だがそこに熱いシンパシーと魂を感じる 素晴らしい」


くそぉ 最後の誰


「ぬははははっ!まじ、笑い、死ぬぅ」

スイウンが大笑いしている

…コロス


「お次は元海賊の窓際狩人の番です」

「テメェ!?」


聞いたことのない優美な音楽が流れ出した

「へぇ……」

ニヤリと笑った後ブレも迷いもなく踊り出した

確かに見事だった

「こんなもんよ」

「曲の変更です」

「はっ?」

曲が変わってお遊戯のような可愛い音楽に変わった

いくら踊りが見事でもこの曲では浮く

仕方なく音楽に合わせてゆるりと可愛らしい踊りを踊る

ぷふっ

「……クソッ」


「わぁー元海賊さん可愛い。社会のつらさを妙実にあわらしているね」

「うん。見事な動きの中に儚さと激しさを滲ませている。涙が止まらないよ」

「ウケる」

「今年の演目は決まったね」

「うぬ」


「た、たいひょ!?」

びっくりした拍子に足を絡ませて転んだ

起き上がったスイウンは目を擦って客席をみるが

目当てのものがなかったのかボーとしている


「お次はお目当て 赤ずきんです盛大な拍手を」



うぉおおおおぉぉお!!

男どもの歓声が鳴り響く

う、うるさ


「え、え、俺?助かってなくない?ていうかダンスなんて…」

顔を赤くしたスノーが舞台袖から現れた

さらに歓声が上がる


「それでは どうぞ!」


「もう!どうにでもなれ!」

リズムのいいテンポの速い可愛い曲だった

おずおずと踊るスノーは 

恥じらっていて 

とてつもなく可愛らしかった


「もう……いや」

すまない

もう少しだけ

見せてくれ


「わっ」

転けそうになったスノーを抱き止める

きゃーと興奮したような悲鳴が聞こえた

「ありがと……」

「お、おう」


「お、ダンスセッションでしょうか!」

「「ええ」」

注目されて仕方なくスノーを起こして手を取る

「…」


互いに恥ずかしがりながらも

俺の動きに合わせて踊る

曲はいつのまにかクラシックで

ダンスホールで踊るような曲だった

腰を支え 手を握りしめ 見つめ合う

曲に合わせて 体を揺らす

俺がリードして 拙いなりにダンスを踊る

なんだろうか この幸福感

「あぁなんて素敵」

「王子様とお姫様みたい!」

「別れた妻との日々を思い出す。ありがとう……」

「写真はおやめください。ご所望でしたら会場受付でブロマイドを販売しております」



……いろいろ言いたいがこの時間を感受しよう

ダンスなんて作業でほとんど避けていたが

練習しておいてよかった

「うわ」

よろけたスノーを胸で受け止めて支えてた手で抱き寄せる

そして見上げたスノーと目が合う

こんな、近くに君がいるなんて……

美しい瞳に吸い込まれてしまいそうだ



「い」


「「い?」」


「イチャつきやがってぇ!?」


「暴動です お客様は一旦安全な場所へ係員がご案内しますので落ち着いて避難してください」

「な、何が起きたの?」

「こ、これは!」


「これは、非モテ男子たちによる負の念の暴動です さぁお前たち やってしまいなさい!」

「お前はそれが言いたいだけだろう!」

「肯定…」


エイスイが舞台に現れた

俺たちを囲むように村人が襲ってくる

「どうしたんだこいつら」

「こりゃあ、魔素の陰の気にやられてんな」

「うぬ」

「つまり魔素による影響で、悪感情が増幅されてしまったのか」

「肯定」

「ならとめないとね!」


俺たちは身構えた

「やっちゃえーわんわん!」

「がんばえーあかずきんちゅわん!」

「海賊らしいとこ見せやがれ!」

応援なのか罵倒なのかわからない野次が飛んでくる

「……戦い辛いな」

「「「うん」」」



「うぅ、どいつもこいつもいちゃつきやがって、こっちは盗んだもん高く売れしねーし魔物が増えて商人は護衛を雇いまくるし、ついてねー。仕方ねぇからお前らをぶっ飛ばしてやる。そして赤ずきんちゃん結婚を前提にお付き合いしたいです」


「ひぃ」


スノーが本気で引いている

させてたまるか!


「どうする?」

「全員全滅、不殺」

「わかった」

各々が向かいうつ



「はぁ!」

素手で殴り倒す

荒くれ者たちだからそこまで手加減しなくて済むだろう

しかしこの肉球を模した手袋邪魔だな

外すなって怒られたし


「おらよっと」

「…….打」

後方では二人が数十人を素早く昏倒させている

俺もスノーに近づく輩を倒す


「凍てつく風よ 凍れ」

目の前の五人を瞬時に凍らせた

半身だけだから死ぬことはない

そして残りを殴り倒す




「ふうスッキリした」

「南無」

「何でこんなことに…」

「大丈夫か、スノー」

精神的にも疲れたスノーを支える


「「「「うわぁあああ!!」」」」


な、なんだ!?

見ると無事だった客が盛大に歓声と拍手を送ってくれていた

出し物だと思われたのか?


「これで 皆は平和に暮らしましたとさ お終い」

音楽と共に幕は降りた








≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫





「本当に大丈夫か、スノー?」


「うん。何とかね…」


あれから騒ぎの中から離れた

静かな空き地にいる

喧騒から離れたここは静かで

風に揺れる葉の音と月明かりが差していた

エイスイとスイウンは後始末だと言って離れた


「ふぅ」

疲れた

こんなに騒いだのなんて初めてだ

旅をしてきてそれなりに経験したのははじめてだ

俺が、演劇してダンスまで踊るなんて…

つい笑ってしまうと

隣で寄り添ってくれるヴァルツは心配そうにしながらも

笑みを浮かべてくれた

「何を笑ったんだ?」

「んーん。なんでもないよ」

「教えてくれよ」

「秘密」

なんだろう

静かなのにまだ祭りの中にいるような

ザワザワとした熱を感じる

だから余計に冷たい風と

無言の月明かりが心地よい


ーーーー♪




「…それ」

「ん?」


「さっきの曲だよな」

「あ、なんか口ずさんじゃった」

少し恥ずかしくて目を逸らす

「気に入った?」

「……うん」


諸国を巡ったときにもさまざまな音楽があった

それは人々の生活や歴史に密着していて

必ずそこには喜びや悲しみ

さまざまな要素が組み込まれた文明であった

俺にはそういった本当の故郷がないから

音楽は好きでも

そこに中身はなかった



ーーー♪


「上手!上手だよヴァルツ!」

つい嬉しくて手を握って立ち上がる

それにヴァルツは一瞬驚くも笑みを浮かべてくれた


「懐かしい曲だ…」

「知っている曲なんだ?」

「まぁね。といっても全然詳しくないし。付き添いでクラシックコンサートに行った時、たまたまピアノの独奏でこの曲を弾いていて。印象深かったんだ」



「へぇークラシックかぁ。ホールで聴いたんだよねすごいね!」


「すごくないよ全然。みんな音楽よりもそこにいること意味を見出していた連中ばかりだったし」

楽しくなさそうにヴァルツは言った


「それでも…いいなぁ」


…ーーー♪


ヴァルツは静かに鼻歌を聞いてくれた



「…月の光」

「?」

「確かそんな名前だった」

「月の…光」

ヴァルツと同じように今は青く光る月を見上げる

とても綺麗な月だった




「溶けてしまうような月光 この光の中でなら あなたと溶け合える」


黙ってヴァルツを見つめる

「それは…」


「詩だよ 同じ名前 月の光」

少し笑って歩く少し離れたところでクルクル回る

今夜はとても気持ちがいい

本当に



ヴァルツが近寄ってきた

俺の前に跪いて見上げる

その目は青く月の下で金色に光っていた

ここも月があった


「……」


「どうか、わたくと踊ってはくれませんか?」

スッと彼は手を伸ばした

これは俺でも知っている

御伽噺で皆が憧れることだ

僅かに照れを感じたが

それより暗い青い夜の中でもわかるぐらい

目の前の狼は震えて赤くなっていた


「喜んで 私と踊ってください 狼さん」



「では共に お手をどうぞ」


寒空の下で伝わる確かな温度を感じた



お互いに月の光を口ずさみながら


ゆっくりと ゆっくりと


くるりと回って


見つめ合って


青い月の下で


二人は光の中で溶け合った







≫≫END≫≫









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