第9話 ごめんなさい
アヴニールがカムビに連れられて首都に来た時は全てが終わっていた。目の前には安らかに眠るシナミの姿。選ぶ未来を変えられたアヴニールは苦悩する。
『終わっちゃったねぇ、全部。』
カムビが耳元で舐めるように呟いた。わざと癪に触るように。
『君の選択ミスで私に会い、私によって未来が狂わされた。私は感謝しているよ、君のおかげでニンゲンを殲滅できるのだから。そして、我々の時代が始まる。我々がニンゲンとなる。』
アヴニールの目線に靄がかかる。頭に血が上りフラフラする。怒りと悲しみが混じり合い自分でも分からない感情が生まれる。
『さぁ、もう一仕事だ。後は残った「駒」の連中を殺すだけ…。』
その時、アヴニールの拳がカムビを掠めた。
『やるのかい?君が一番分かっているだろう、僕に勝てないのは。』
拳をゆらりとかわし、余裕そうな笑みをカムビは浮かべた。
無言で何発も拳を入れるアヴニール。それを毎回軽く触り、流すカムビ。アヴニールは当たらないと分かっていても隙が生まれるまで殴り続けた。
いくつか時間が経った頃、カムビに隙が出来た。
『いい加減しつこいぞ。』
苛立ってきているカムビに対して無言で殴り続ける。
その時、見事なほど顔面に1発入った。鼻血を出してよろけるカムビ。
『少しミスったか』
鼻血を拭き終わる前に今度はボディーブローが入った。その後も何度も殴り続けた。必死に殴り続けた。数えきれないほど殴り続けた。憎悪の感情を込めて。
『カハッ…何故…』
その間も無言で殴り続ける。そして顔面を鷲掴みにして地面に叩きつけた。
『貴様ァァ!』
カムビがアヴニールの腕を触った瞬間、肉が削げ落ち、骨だけの木偶の棒となった。
『余裕こきすぎてパワーも無くなったか、無様だな、変化神。』
もう片方の腕で頭を押さえ続けながら、骨となった腕でカムビの体を滅多刺しにする。
『何で、私の力が効かない。』
その時、カムビは妙な違和感を感じた。アヴニールが「未来」の能力がない空虚なただの「器」の状態になっている。
『貴様ッ、自らの能力は何処にッ…。』
アヴニールは優しい声で答えた。
『渡したよ…、「彼」に。「彼」の夢のために…。』
『ならば、「未来」の能力は…。』
アヴニールは今、能力が使えない。しかし、譲渡された者が生きている限りその能力は健在であり、未来はカムビの書き換えた未来へと進む。
だが、今現在のカムビが不利な状況に立たされているのを見ると、譲渡された者は死亡し、カムビの書き換えた未来は消滅したことになる。
つまり、この世界は全く新しい未来を歩み始め、「未来の道」は誰もわからない状況になっている。
『もっと早くこうすれば良かったんだ…。もっと早くこうすれば、こんなことにはならなかったのに…。』
懺悔するようにアヴニールは言う。しかし、もう全てが手遅れになってしまった。
そして、怒りを拳に込め全身全霊叫んだ。
『くたばれ…、害悪がァァァァ!。』
アヴニールがトドメを刺そうとした時、カムビが不敵な笑みを浮かべる。
『貴様も道連れだ、アヴニール!』
アヴニールの体の左半分がぱんと消し飛んだ。
今まで一度も味わったことのないような苦痛がアヴニールの全身に走る。
『アアあぁア逢ァァあ唖ァア荒飽アッッッ‼︎』
痛みに悶えながらも残った骨でカムビのこめかみを貫いた。
カムビは笑みをこぼしたまま骸となり、その笑顔の意味を知るものは誰もいなくなった。
『これで…、終わっ……。』
アヴニールはその瞬間盛大に口から血を噴水の様に吐き出した。もう声もほとんど出ない、呼吸もままならない状態でシナミに近づく。
ぽろぽろと涙を流しながら必死に口を動かして何かを伝えようとする。
「シ…ナミ…。……ご……め…………ん…。」
アヴニールはその場で血を流しながら倒れる。涙を地面に染み込ませながら、ゆっくりと息を引き取った。
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