校内大会-3
黒沼は粛々と、簡潔明瞭に、約二分かけて次のように語った。
今年の校内大会の内容は《サバイバルデスマッチ》。一キロ四方にも及ぶ広大なジャングルに散らばり、自身の生存と他クラスの
制限時間は"この世界での三日間"。この仮想世界にダイブしている間、竜秋たちの脳の知覚速度は《DIVER》による干渉で十二倍にまで加速しており――現実世界で六時間が経過し、放課後を迎える頃には、仮想世界内で丸三日間分の体験を終えることになるのだという。
「無茶苦茶な話だな。浦島太郎かよ」
「【塔】の財宝には、それだけ魔法じみた神秘が詰まってるってことだね……」
この大会の模様は校内に生配信されており、上級生や併設の塔伐科大学生、教員陣がお祭り騒ぎで観戦しているという。
竜秋たちの
他クラスの生徒を脱落させた場合、そのクラスのランクに応じて、脱落した生徒に最もダメージを与えた生徒のクラスにポイントが入る。梅を一人倒すごとに三ポイント、竹を倒せば五ポイントという具合だ。この仕様により、優秀な順にクラス分けされている四クラスでも多少競った戦いができる――かに思えたが、一クラスだけ事情が違う。
「ちょっと待てよぉ! 他のクラスは三十人ずつなのにオレたちはたったの十人だぞ! めっちゃ不利じゃん!!」
爽司の絶叫が聞こえたように、黒沼がすかさず補足した。
『えー、今回、どこかの誰かさんが勝手に新しいクラスをつくって、入学準備に
最後は聞き取れるかどうかギリギリの声量で、地獄の底から響いてくるような低い声で黒沼が呪詛を吐く。
『ごほん……では、桜クラスの参入によって新たに生まれた、特別なルールをいくつかご説明します。まず、例年『松』『竹』『梅』の三つ巴だった校内大会は、今年は『竹』『梅』『桜』の三つ巴とします』
黒沼は頭痛を耐えるような声で続けた。
『『竹』を撃破すれば五、『梅』を撃破すれば三ポイントに対し『桜』クラスは倒しても一ポイントです。そして、人数が三分の一である桜クラスにはハンデとして、『一人倒すごとに得られるポイントを三倍』にします』
「おぉ……!」
爽司や小町が喜ぶが、渋い顔を崩さない者もいる。それが対等なハンデにはならないと、即座に気づいた者たちである。
「オラたちの頭数は結局十人のまま。三十人にまとめてかかってこられたら、一瞬で全滅だぁよ」
「そうよぉ、あたしたちの不利は全然変わんない。黒沼センセー、そこんとこどーなのぉ?」
閃と恋の声には応えず、黒沼は黙ったまま、とある音声データを再生した。
『――え?
黒沼に代わって天から降り注ぐ、軽薄な美声。竜秋の耳がぴくりと反応した。声だけで分かる。ウチの、クソ担任の声だ。
『他のクラスには悪いけど、相手にならないと思うよ。俺のクラスは最強だから。十人もいれば余裕余裕。逆に竹や梅にハンデあげなくて大丈夫?』
やめろぉぉぉぉぉぉ! と爽司が絶叫するにも構わず、息を吐くように他クラスのヘイトを溜めていく担任教師。心なしか、ジャングルのあちこちから殺気が気柱のごとく上るようだった。
「……やってくれたな」
「なんで嬉しそうなのたっつん!?」
覚えず凶悪に口角を上げていた竜秋に対し、爽司は既に半泣きである。
『……とのことですので、ハンデはこれで確定します。桜クラスの皆さんは恨むならあの男を恨んでください、私は一切知りません』
うなだれる中、一人が「……そういえば、松クラスは?」と声を上げた。竹、梅、桜の三つ巴――確かに、松の名前が抜けている。
『最後の特別ルールです。毎年独壇場が恒例となっている松クラスの皆さん。そろそろ決まりきった結果には辟易しているという観戦者からのご意見もありましたので……――今年は、松クラスの三十名には『鬼』役を勤めていただきます』
「鬼……?」
『三日間のうちに三度、十名ずつ、松クラスの生徒がフィールドに『鬼』として解き放たれます。丸一時間、鬼は竹梅桜問わずプレイヤーを探し回り、全力で殲滅していきます。倒せば一応、十ポイントが入りますが……全力で、逃げたほうがいいでしょう』
「大量得点のチャンスってわけか」
「話聞いてた!? 逃げるんだよ一目散に!! オレは逃げるよ、だからたっつんも一緒に逃げて! 一人にしないで!」
「ビビってんじゃねえ、同じ一年だろうが」
なお、この世界での午後八時の日没から午前五時の日の出までは『休戦期間』となるそうだ。補足のルール説明は、一日目の休戦期間が始まった際に告げられる。
かくして、ルールは全て提示された。同時に、竜秋たち生徒の目の前に、空中に浮かぶ半透明の二次元ディスプレイが展開した。学生証のホーム画面の意匠がアレンジメントされたようなデザインで、中央に大きくデジタル時計が表示されている。――『DAY1 12:00』。
『そのパネルは正面の虚空に指で素早く二回タッチすると呼び出せます。地図や通話などの機能がありますのでご使用ください。これより三日間のサバイバル、皆さんの健闘をお祈りしています。それでは……校内大会、スタートです。……………………あぁ……やっと寝れる……』
マイクを切り忘れたらしい黒沼の悲痛な呻きの残響が青空に消え、こうして、デスマッチの火蓋は切って落とされた。
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