第7話 2-3

 東京は本当に人だらけだった。

 この街に来た理由は人が多かったかもしれない。

 見知らぬ人でも、大勢に囲まれているとなぜか心が休まる。


 俺は渋谷にいた。

 ボロボロの服で都会を歩いていると必然的に白い目で見られる。

 でも、そんなことはどうでもいい。


 俺は小さな公園に入り、蛇口から水をがぶ飲みした。

 水を飲んでいると、傍にいた子供達がみんな逃げ出した。

 フン、魔王に相応しい光景だな……。


 飲み終わって、振り返ると子供達が逃げ出した理由が分かった。

 そこには俺より汚い、ミノムシのように稾を体に巻いた爺さんが立っていた。


「ふぉふぉふぉ、魔王様。お初にお目にかかります」

 その爺さんは不気味に笑っている。

 よく見ると、その黒い目からはウジが湧いていた。

「てめぇ、魔族か」


「いえ、正確には妖怪ですな」

「んなことはどうでもいい。殺されたくなかったら、さっさと失せろ」

 俺は爺さんを無視して、その場を立ち去ろうとした。

「……お待ちくだされ」


「なんだよ、お前らバケモンはこの心臓が欲しいだけなんだろ?」

 俺は振り返って、自分の胸を叩いてみせた。

「四の五の言わずに、掛かって来いよ」

 そう言うと、妖怪は笑った。


「我ら、悪名高き妖怪と言えども、そのような大それたことはしませぬ。我らの望むことは一つ。大いなる力の共存、または融合。つまり、あなた様の、魔王様のお力を借りたいのでございます」

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