11・ビール瓶が道路に散乱

 俺の住んでる地区の道路に、1ケースくらいのビール瓶が散乱していたらしい。

 で、近所の人は警察に通報した。

 罪状としては不法投棄になるらしい。

 で、当然の如く、俺が容疑に上がった。

 まあ、この地区では軽犯罪は基本、俺に容疑が回ってくるので、いつのものことなんやけど、ただ今回ちょっと違ったのは、目撃者がいたこと。

 その道路の所の家に住んでいる、四十歳中頃のおばさん。

 その人は犯人をバッチリ見ていた。

 っていうか、知り合いだった。

 っていうか、犯人は近所に住んでいるオッサンだった。

 どうやら酔っ払ってビール瓶をまき散らしただけらしい。

 目撃者のおばさんは、名指しで犯人をお巡りさん様に伝えました。


 でも ニコニコしながら お巡りさん様は言いました。


「違いますよ。犯人はキモオタのこいつなんです」



 うん、もう一回説明するね。

 目撃者は犯人をバッチリ見ていて、しかも誰なのか知っていた。

 っていうか、近所のオッサン。

 だから そのことをお巡りさん様に伝えたわけね。

 でもお巡りさん様は、それでも俺が犯人だと言ったんだ。



 目撃者のおばさんは誠実な人で、自分が見た犯人と俺とは全然違うと、お巡りさん様に真摯に伝えた。

 だけど、お巡りさん様は相変わらず愛想笑いしながら言った。


「何言ってんですか。こいつに決まってるじゃないですか。記憶違いですよ。大丈夫です。とにかく裁判でこいつが犯人だって言えば良いですから」



 で、裁判が行われたんやけど、検察は俺が犯人で話を進めた。

 でも目撃者のおばさんは、それでも俺は犯人ではないと言ってくれた。

 だけど、その証言は採用されなかった。

 理由は、精神障害者だから。

 細かいことは説明されなかったが、目撃者のおばさんは昔、仕事でパワハラとかにあって、それでうつになって、今は精神障害者に認定されているそうだ。

 それで証言に信憑性がないって事になった。

 でも、記憶障害や知的障害とかではない。

 だから規定に従えば証言としては採用されるはずだった。

 でも検察も裁判官もおばさんをあざ笑った。



 検察も裁判官も、変な半笑いを浮かべて、言いました。



「貴女 セーシンショーガイシャなんですよ。それなのに自分が正しいと思ってるんですか?」

「こいつはキモオタなんですよ。それがわからないんですか? やっぱり セーシンショウガイで、危険が理解できないんですかね」

「セーシンショーガイですから、証言が なんか おかしいっていうか、なんか わかってないというか、なんか 違うんですよね」



 で、俺は有罪。



 その後、目撃者のおばさんは旦那さんと俺の所へ来た。

 顔を青くして泣きそうな顔で。

「ごめんなさい。私のせいで……」

 と言う感じで、俺が有罪になったのは自分に原因があると思ったらしい。



 俺は、笑い者にされる つらさは身に染みて理解しているから、おばさんを責める気にはなれなかった。


 おばさんは その後、まあ なんとか元気にはなったらしい。


 でも、お巡りさん様って……


 そんな感じ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る