第27話

 七星くんが坂をくだって行くのを見ながら、どきってした自分に驚いていた。

 

 

 

 

 

 ………7才も年下の子に。

 

 

 

 

 

 何がどき、なんだろう。何に対して。

 

 

 

 

 

 思わず、夜でもないのに空を見上げた。

 

 

 

 

 

 里見とのことは、分かっている。もう終わっている。

 

 

 僕たちがもう一度、なんてことは決してない。

 

 

 ただ、付き合いが長かったから、長かったのに終わりが中途半端だったから。

 

 

 何より里見が好きなのは結婚した相手ではなく、僕。本当は僕を選びたかったんだろうと僕は思っている。里見を見ていればそんなのは確信でしかない。でも選べなかった。

 

 

 もう一度、は、なくても、そうだから。

 

 

 だから僕は、キレイに里見を忘れられないままなんだ。

 

 

 

 

 

 マイノリティに限らず、積極的に出会いを求めなければ、ソウイウ意味で出会う確率は低い。

 

 

 僕のように人付き合いから一歩引けば尚更。

 

 

 

 

 

 なのにね。

 

 

 こんなことも、あるんだね。

 

 

 

 

 

 同性愛者である僕の家に、同性愛者の郵便配達員が来る、なんて。

 

 

 

 

 

 笑った。

 

 

 

 

 

 少なからず七星くんにときめいた自分を。

 

 

 昨日の今日、今で、夜また会えるって思った自分を。

 

 

 豆太に会わせてもらうっていう約束を含めれば、今日以外に最低あと2回は会えるって思った自分を。

 

 

 

 

 

 僕が自分で思っているより、僕はずっと、寂しかったのかもしれない。

 

 

 ぬくもりを求めていたのかもしれない。誰かと話し、笑うことを。

 

 

 

 

 

 七星くんをもう少し知ったら、もしかして。

 

 

 

 

 

 ほら。

 

 

『何か』を期待している僕が居るんだよ。おかしいよ。笑う。笑える。

 

 

 身体だけってことも十分ありえる。1回限り、とか。

 

 

 

 

 

 それも分かっている。

 

 

 

 

 

 それでも。

 

 

 

 

 

 それも、ありかな。

 

 

 

 

 

 そんなことまで思う僕を。

 

 

 里見。

 

 

 

 

 

 お前はどう思う?

 

 

 

 

 

 もう、いい?

 

 

 もう待たなくて。お前を待たなくて。

 

 

 待ってても来ないよって思いながら待つ日々は、知ってる?むなしいよ。そして悲しい。

 

 

 

 

 

 にゃー

 

 

 

 

 

 鳴き声と、足元にすり寄ってきたぬくもりに視線を落とせば、そこにはいつも庭に来る野良猫がいた。

 

 

 食べられそうな夕飯の残り物をお皿に乗せて庭に置いておいたら来るようになった子。

 

 

 

 

 

 お腹がすいているのか、珍しく僕の足にまとわりついている。

 

 

 

 

 

「ちょっと待ってて。何かないか探してくる」

 

 

 

 

 

 にゃー

 

 

 

 

 

 そうだね。

 

 

 きっと僕は。

 

 

 僕が思うよりずっと、寂しくてたまらないのかも、しれない。

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