第18話
帰らないといけないって、里見は帰って行った。
スマホの番号を交換した。住所も教えてもらった。
会いに来るって、言ってくれた。
頻繁には無理だけど、とも。
里見が住んでいるところからここまで、電車と新幹線を乗り継ぎ、乗り換えて3時間弱。往復で6時間。でも、里見は、基本日帰りでしか来られないって言った。
それは、あの日から、里見のお母さんに里見と僕がキスをしていたところを見られてから、お母さんがすごく厳しくなったからって。
里見が引っ越すまでの学校帰り、里見のお母さんは毎日里見を車で迎えに来たいた。
それは引っ越してからも、高校を卒業するまでも続いたらしい。
さすがに大学生になってからはなくなったけど、家に友だちを呼ばないで、とか。帰るって言った時間に帰らないと何回も電話がかかってくる、とか。土日に出掛けるのも細かく説明しないと許してもらえない、とか。
僕は。うちは、そこまでではない。
里見とのことはどういうこと?って聞かれたけど、里見が引っ越すまでは、色々、だったけど、里見が引っ越してからは、特には。
高校時代に一度成り行きで女の子と付き合って、家にも連れて行ったことがあるから、安心したんだと思う。
だから。
僕も行く。僕の方が里見より自由に動けるから。バイトするよ。電車代。新幹線代。
毎日とか毎週会いたいなんて、そんな贅沢なことは言わない。でも、せめて。せめて月に1回。2ヶ月に1回ぐらいは会いたい。
会いたいよ。里見。
会えなかった今までを思えば、本当は毎日でも会いたい。
でも、今だけでしょ?こんなのは。
きっと今だけ。
まだ大学生だから、自由がきかないだけ。
もっと大人になったら、社会に出たら、もっときっと、自由に。
帰り際、里見がスーツのポケットからほら俺も持ってるって出したお揃いの小さな天球儀を、僕たちは交換した。
僕のを里見に。
里見のを僕に。
次に会うときにまた交換しようって。
それは、約束。
幼い僕たちにはできなかった、『次』への。
好きだよ。
夏目が好きだ。
ずっと好きだった。
そしてこれからも。
右耳の近くで初めて言葉にしてくれた里見に、うんって。
僕は、電車に乗る里見を、泣きながらプラットホームで見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます