第8章第029話 セイホウ王国での休暇

第8章第029話 セイホウ王国での休暇


・Side:ツキシマ・レイコ


 御館…セイホウ王国の王宮で一泊してきましたよ。

 ネイルコードやら正教国の特許庁やら、いろいろ外交面で忙しくなりそうなノゲラス宰相ですが。朝食にはウェルタパリア陛下と一緒に列席していました。…家には帰っているんでしょうかね?


 宿舎に戻った私たちですが。ラクーンの租借地であるネールソビン島への先触れが戻ってくるまで、ネイルコードの船団組は休暇となります。

 まぁ船員さん達は、船の警備やら整備があるので、連続して休暇とはなりませんが。普段の航海では、交易と荷物の積み下ろし込みで一週間ほどで再出港ですので。出先の逗留としては比較的のんびりした時間となります。



 せっかく異国に来たのですから、観光をしたいところですが。一般の人たちは住んでいるところから離れることはあまりなく、旅行という娯楽がほとんど無い時代で、そもそも観光産業というものがほとんどありません。

 セイホウ王国の王宮である御館を見た後では、さほど回るところも無く。となれば、何か新しい食べ物間とお土産をあさりに行きたくなるわけで。買い物も観光の醍醐味ですからね。

 

 市場が街中である程度散らばって開設されているのは、エイゼル市と同じ感じで。日用品や衣類から、食材やらその場で食べられる屋台やらが集まった市場があちこちにあるそうです。

 宿舎に比較的近いところにも市場がありまして。港が近いせいか、市場にもいろんな魚が売られています。エイゼル市とはまた違った魚種でおもしろいですね。


 エイゼル市では、中くらいの魚が多かったのですが。…なんかカジキマグロ?っていうくらいでかいのがごろごろしていますね。サメっぽいのも居ましたけど、食べるよりは皮や歯が素材になるそうです。

 とりあえず、見たこと無い魚を片っ端に買って宿舎で料理しましょう。でかい魚は冷凍で熟成する時間があれば、刺身も良いのですが。とりあえず焼いて煮て揚げて試食予定です。ツナにしてもいいですね、セレブロさんの大好物です。

 野菜は、ネイルコードと似たものが多いです。というか多分、大陸で出回っていた野菜は、セイホウ王国が発祥じゃないでしょうか。


 お肉。豚肉や牛肉系はほとんど無いですが。鶏肉は潤沢に出回っているようです。もっともこちらの鶏はニワトリよりでかいので、精肉店で部位毎に売っています。

 …でも今夜は魚の気分です。


 結構な荷物を抱えて宿舎に期間。

 焼いただけで脂したたる巨大秋刀魚…開いて干してホッケみたくしたいですね。

 白身のさっぱり系。これはもうフライにしてくれってところですか。卵も手に入ったので、タルタル付けますよ。

 どっしりした赤身、…刺身には後ろ髪引かれますが、やはり船員さんに生を食べさせるのには抵抗があります。ここは甘辛く煮付けにしたらよさげですね。

 野菜がネイルコードと同じということもあり、港スープがまんま再現できました。野菜を食べるには最適です。


 夕食の時間。パンもありますけど、白いご飯も用意しましたよ。いつもはチャーハンとか炊き込みご飯とか、味付けした米料理がメインでしたけど。そろそろ白いご飯の良さも知って欲しいです。

 さて召し上がれ。




 次の朝。

 ちょっと贅沢と我が儘を通して貰いまして。私とレッドさんの分の朝食は、白いご飯、魚料理、お味噌汁、浅漬けっぽい野菜。そして納豆。納豆は、御館から送ってもらっています。

 白いご飯で魚を食べる美味しさに目覚めた船員さんからも、ご飯食のリクエストが出ています。まぁパンの方が好きという人もいますので。どう振り分けするかは考えましょう。

 まぁ作る分には簡単な部類ですし、私も手伝いますので。さほど負担ではないのですが。ご飯が余ればお昼にでもチャーハンに。パンが余ればサンドイッチにすればいいのです。

 ただまぁ。


 「レイコ殿だけ質素な食事になっていないか?」


 なんてことを言われまして。


 「これでいいんですっ! これがいいんですっ! まさにソウルフードっ! いただきますっ!」


 久しぶりの純和風朝食です。これのどこが質素なんですか!と言いたくなりますが。まぁ確かに見た目は地味ですよね。日本人にはごちそうなのですが。


 「…レイコ殿は、本当にそれ食べるんですか?」

 「まぁ漬物とか、極端に言えば酒だって、発酵食品だけど… あれはどう見たってなぁ…」


 当然ここでも話題になる納豆。

 糸引いた豆なんて、そりゃ腐っているようにしか見えないというか、実際腐っているというか。

 あ、レッドさんには出していません。無理して食べるもんでもないですからね。


 船員さん達の余興の罰ゲーム食になったときには、ちょっと叱りましたよ。食べ物で遊んじゃいけません。


 …ちなみに。罰ゲームの後で再度食べた人は、4人に一人くらいでした。

 マヨネーズと和えてパンに乗せて食べるとは…私も試してみようかな?




 運動不足解消のために、御館の中の訓練場を借りたりもしました。

 船員さん達は、普段から宿舎の庭で運動を欠かしませんが。やはり広いところがいいのか、訓練時間を調整して皆でお邪魔することになりました。

 

 まぁ、まんまグラウンドです。御館の衛兵さんあたりでしょうか、いくつか小隊でランニング中です。私たちもまず走りましょうということになりました。

 セレブロさんを挟んで、私とマーリアちゃんが左右で併走します。しばらくは船員さん達の速度に合わせていましたけど…セレブロさんがヒートアップしてだんだんペースが上がってきました。

 前を走っていたランニング中のセイホウ王国兵士さん達の外側をマーリアちゃんがセレブロさんと競争して追い越し。私もレッドさんはフードに入れて追いかけて。けっこう暑い日ではありますが、私には関係ないので、レッドさん用フード付きです。

 兵士さんと船員さん達が、ムキになったのか追走してきますね。

 スタタタと走るセレブロさんとマーリアちゃんと私。ドドドドドとほぼ全力疾走状態の船員さん達とセイホウ王国兵士さん達…ですが。三周くらいで脱落者が出てきました。

 あ、汗だくなマーリアちゃんがセレブロさんのスリップストリームに入っています。ちょっとずるいですよそれ。

 そういうことならと、私はさらに加速してセレブロさんを引き離しにかかります。懐かしいですね、腕を後ろに開いての忍者走りです。

 曲がるときにスリップしてコースアウトしないように速度の上限はありますが、ぎりぎりまで攻めます。周回遅れ…どころか、十秒毎にマーリアちゃん達以外を周回遅れにしていきます。

 

 セレブロさんがペースダウンしてきましたので、そろそろ終わりにしますが。

 最後に直線に入ったところで、久しぶりにレッドさんに襟首掴んで貰って滑空です。セイホウ王国の兵士さん達、びっくりしてました。まぁ、私の体重くらいでないとここまで浮かないのですが。


 十メートルくらいの高さで、訓練場上空を周回するように回ります。

 高いところからの町並みは御館の所から見たことがありますが。この高度からだと、御館周辺に、木々に隠れた小さめの建物がちらほら。何かしらの庁舎というよりは、祠ってかんじですかね? ますますま山中の神社仏閣という感じ。


 マーリアちゃんが体温上昇でこのままではグロッキーなので。訓練所の洗い場をお借りして冷却です。頭から水を被ります。同じく汗だくの兵士船員さん達には悪いですが、お先に失礼。

 久しぶりにいい運動でした。…ランニングだけで終わってしまいましたけど。




 ネールソビン島からの先触れが帰ってくるまであと五日ほどというある日のお昼過ぎ。昼食も済んで、非番の船員さん達と食堂でボードゲームをしていると。

 …久しく忘れていたあの感覚。レッドさんも気がついたようです。

 直後、ガタガタガタと建物が揺れます。


 「なっ! なんだ? 揺れてるぞ!」


 「何が揺れているんだ? 建物か? 地面か?」


 「バカっ! 両方揺れているんだよ! これは!地揺れだ」


 おっ!おっ! …これは震度五弱ってところですか。日本でもそう経験しない震度ですが、そう騒ぐほどでも無い震度です。ただ、この地の建物がどれだけ耐えられるかは分かりません。


 「みんな! 建物の外に出てっ! はやくっ!」


 机の下に退避とか考えましたけど。もし屋根が落ちたとして、食堂の机が耐えられるようには思えません。

 幸い平屋ですし、ガラスの窓もないので。ここは速やかに食堂から出た方が安全でしょう。


 宿舎周りの塀の向こうに、土煙がいくつか立っているのが見えます。街中で建物の倒壊とか発生しているようです。


---------------------------------------------------------------------

来週、ちと入院せねばならなくなりまして。連載は一週お休みします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る