第7章第044話 Welcome to the world
第7章第044話 Welcome to the world
・Side:ツキシマ・レイコ
アイリさんが出産してから二週間ほどあと。セレブロさん、ミオンさん、アイリさん。それぞれ出産と、慶事が続きましたからね、今日はまとめて、ファルリード亭でお祝いの宴会です。
アイリさん、タロウさん、それにハルカちゃん。タロウさんのお父さんのケーンさん、お母さんのリマさん。おじいちゃんのジャック会頭。
カヤンさん、ミオンさん、カーラさん、モーラちゃん、それにウマニくん、ベールちゃん。
マーリアちゃんとセレブロさん、フェンくん、オルトちゃん、ケルくんのもふもふトリオ。
アライさん、こんな時にも給仕をしてくれています。ヒャー。
アイズン伯爵も来てくださいました。クラウヤート様にバール君も。あと、クラウヤート様のお母さんであるメディナール様。
貴族をこういう席にお招きしていいのか迷いました。招待はランドゥーク商会とファルリード亭名義ですが、招待状の前に「お招きしていいですか?」の問い合わせをしたくらいですよ。
当然、護衛騎士のダンテ隊長、エカテリンさん、料理騎士のブールさん、侍女さん達も一緒です。皆さんにも飲み食いはOKが出ています、お酒以外は。残念。
メディナール様がファルリード亭に顔を出すのは珍しいなと思っていたところ…なんとご懐妊だそうです。クラウヤート様からけっこう間が開きましたが、まだ三十代前半。
ちょうど悪阻が辛い時期なのですが。料理騎士さんから、アイリさんの時の食事について聞いていたそうで。今日なら品数がたくさんありますからね、アイリさんに食べられるものを見繕ってもらいたいんだそうです。
あと、毎度のレッドさんの診断ですね。…はい、男の子だそうです。 ただしこのへんはこっそりと。発表はタイミングを見計らってです。
「おめでとうございます、メディナール様」
「ありがとうございます、レイコ殿」
「う…うむ。うんうん男子めでたいの…」
「あら。義父様はやっぱ次は女の子がよろしかったですか?」
「いや、どちらでもめでたいし喜ばしいことではあるのじゃがな…ユルガルムでは姫じゃろ? ナインケルのじじぃの自慢げな顔が今から浮かんでの…」
まぁ、男の子は誇らしい、女の子はかわいらしい。このへんはしかたないですね。
ユルガルムのナインケル様。シュバール君であれですからね、姫への溺愛振りが今から想像できます。
意外にも喜んだのがクラウヤート様。
「…弟…良かった。これで少し気が楽になりました」
「ん? 嫡子はクラウなのだから、将来は確定しているようなものじゃぞ」
「父上の働き振りは、手伝いをしつつ見ていますからね。僕も大人になったらあれに習うとなると…ちょっと重責に感じていたんです。弟が出来るのなら多少なりと肩代わりしてくれるんじゃないかと」
生まれる前から戦力として頼りされていますね、弟くん。
「…ブラインは仕事が趣味みたいなもんじゃからの、あれはあれで楽しんでおる。もっとも、もちっと足回りを軽くできんもんかの。代わりにわしが出歩くことになる」
「もしかして、そのために今から僕を連れ回しているんですか?」
「実際に見て回るのは大切じゃぞ。ブラインが足りんというわけでは無いが、数字だけで判断するような為政は、どこかでつまずくからの」
人手という意味では、男の子で正解のようですね。
ファルリード亭の常連の人も来てくれています。覇王様に奥さんに子供達、モヒカンズ…ても例の兜は着けていないですけどね、今日はご招待です。
マルタリクからは、ハンマさん、カンナさん。あと家の建築や設備に関わってくれた職人という名前のウワバミ達…飲み過ぎには注意を。
でもって。レッドさんと私。今日は裏方に回りますよ。レッドさんは赤ちゃん達をあやしています。…あちこち掴まれて遊ばれているとも言いますが。
当然、今日は全部おごりなわけですが。ランドゥーク商会、ファルリード亭、私やマーリアちゃんも費用を出します。王都やエイゼル市からも、アーメリア様とターナンシュ様から、レッドさん診断のお礼の名目でいくらか届いております。ありがたく使わせていただきます。庶民の慶事に貴族が支援すると良くない前例とされかねないので、おおっぴらには言わないでくれとも言われておりますが。
食堂では場所が足りなくなって。急遽、店前の馬留にあちこちから持ち寄った机に椅子を並べて。そちらでも宴会が。
外の人のために、アイリ、タロウ夫妻。ミオン、カイヤ夫妻が子供を伴って挨拶です。
セレブロさんの番では、フェンくんが代表して掲げられました。背の高さで考えて覇王様にお願いしました。キョトンとしているフェンくん。…なんか某獅子王の映画のシーン、連想しちゃいましたよ。
「あれで赤ん坊か? 母銀狼もやたらでかいが、やっぱ子供もでかいな。見ろよ、あの足の太さ」
「キャー かわいいわっ!かわいいわっ! あとで撫でさせてもらえないかしら?」
赤ん坊なのにすでにこの大きさという驚きの声と。もふもふヨチヨチなかわいさに対する黄色い声もあがります。
挨拶も一通り終わって、食堂の中へ。上座には産まれた赤ちゃん達とお母さん達。
フェンちゃんたちもセレブロさんの横でゴロゴロしています。これはたまらんという顔をして寄ってきたお客さんに、マーリアちゃんが順番に抱っこさせてあげています。すでに中型犬サイズを超えつつありますセレブロさんの子供達。抱っこ…とというより抱きかかえるではありますが、これが出来るのも今のうち。皆、相好が崩れていますよ。
アイズン伯爵とメディナール様も一緒に主役向けの大テーブルについています。メインではないとは言え、さすがに貴族を上座から外すわけにもいきませんからね
アイズン伯爵、赤ちゃんを抱っこして。こちらも普段からは想像できないにやけたお顔です。…びっくりしているお客さんもいます。
。
たくさん…というより多種な料理が並べられ、悪阻のメディナール様が料理を少量ずつ試していきます。
エイゼル市料理に加えて、バーガー系やらパスタ系やらピザやらフライ各種、マヨネーズをアレンジしたドレッシングのサラダに。ちょっと早いですが、ファルリード亭でも出しているデザートのスイーツを各種。
「無理されなくてもいいですよ。食べられそうなものだけ試してください。残してもエカテリンさんが全部片付けてくれますので」
「お任せください」と、胸ではなくお腹をたたくエカテリンさん。いざというときにすぐ動けるような席に陣取っていますけど、視線が料理の上をさまよっています。
隣で専用の椅子に陣取っているレッドさんにも少量ずつ食べてもらっています。この辺もこっそりですが、毒味役を買って出てくれています。レッドさんが毒味なら、冷める前に召し上がっていただけますし。あとまぁ人が食べているところを見るというのも、食欲には効果があるかもという思惑。レッドさん、何でも美味しそうに食べますからね。
アイリさん曰く、酸味目当てのケチャップが良かったと言うことで、ポテトにピザにナポリタン。ケチャップと言っても似た感じのトマトソースもどきではあるのですが、カヤンさんが改良に取り組んでくれたので、大変美味しく仕上がっています。
やはり悪阻には酸っぱい風味が良いようで、メディナール様もぽつぽつと召し上がってくれています。これで食欲回復するといいですね。
逆に、プリントかケーキ類の用な乳製品を使った甘いものは、今は苦手のようでした。魚もフライ料理以外は匂いがだめなようで。
「普段はどれも食べられるのよ。こんなにいろいろ並んでいるのに…残念だわ」
「食が偏るのはよろしくありませんが。今は食べられるものを探しましょう、メディナール様」
料理騎士さんが、メディナール様が食べられたものとだめだったものをメモしています。後で伯爵邸の料理長に渡すのだとか。
…スイーツの始末にアイリさんも参加始めました。まぁ今日くらいはいいですかね?
にしても。同居人?家族? まぁともかく、一気に増えましたね。三人と三匹です。こうやって縁がつながっていくんですね、世界って。
ハルカちゃんを抱っこしてあやしているタロウさんを見て、お母さんに私が産まれたころの映像を見せてもらったことを思い出しました。
お母さんがスマホをもって、産まれて3日目くらい、新生児室を出てきた私を抱っこしている、私の記憶より若いお父さんの動画。
・・・・・・・・
『日本じゃ"産まれた"って言うけど。英語だと"be born"って受動態なんだよね。最初に習ったときには、"産まれさせられた"はさすがに無いだろうって思っていたんだけど。
こうやって玲子を抱いていると。なんとなく分かったよ。親以外にも子供をここに遣わせてくれた存在が居るんじゃないだろうか…って雰囲気が。あれは神様に対しての"be"だったんだね。
そこが分かれば。"Welcome to the world"って言い回し、これも大げさだなと思ってたけど。
うん、私たちの元に産まれてきてくれてありがとう、ここにこの娘を授けてくれてありがとう。神様が"ある"かどうかは分からないけど。そんな気分になるね』
『あなた、神様なんて信じていなかったんじゃないの?』
お母さんの声。
ベビーベットに私を戻して、優しく頭を撫でる…撫でてくれたお父さん。
『宗教で崇めているような神様は信じていないけどね。ただ、人智…人の認識を超えたところに何かが居るような感覚は持っているよ。君に出会って、この娘が産まれて。これを偶然なんかで片づけたくはない、この奇跡に感謝しなくてはいけない、そう考えてしまうんだ。
"Welcome to the world"。"Welcome to the world"、玲子。
…君はどんな人生を歩むんだろうか』
・・・・・・・・
レッドさんが、一通り食べて満腹のようで、私の膝に上ってきました。…このこの中には、お父さんの記憶…記録が入っています。最近は出てきてくれませんが。
お父さん。けっこうとんでもない人生歩んでますよ、玲子は。…お母さんには申し訳なかったけど。
「"Welcome to the world"か…」
「ん? それはレイコの国の言葉かね?」
ぼそっと口から出たフレーズにアイズン伯爵が気がつきました。英語だから聞き取れないのは致し方なし。
「外国語なんですけど、私が産まれたときにお父さんが言っていたとお母さんから聞いたんです。"この世界へようこそ"って意味です」
「"この世界へようこそ"か。面白い文句じゃの?」
「私の国では使わない言い回しだったので、お父さんが気になっていたみたいです。普通はお母さんの方に、"おめでとう"とか"ありがとう"ですけど」
「たしかに。両親には声をかけても、赤ん坊には特になかったような気がするの。なるほど。そこで産まれてきた子に"この世界へようこそ"か…」
ハルカちゃんを抱くタロウさん、ウマニくんはモーラちゃんが、ベールちゃんはカーラさんが抱っこしています。
フェン、オルト、ケルは特に嫌がりもせず、お客さんの女性に抱っこされています。
そんな幸せな光景にグラスを掲げる伯爵。
「…うむ、なかなか良い言葉じゃな。子供達よ、"この世界へようこそ"。君たちの人生に幸多からんことを」
【第7章終了】
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