第7章第017話 会議は続きます

第7章第017話 会議は続きます


・Side:ツキシマ・レイコ


 蟻の誘導の可能性の話はともかくとして。今は"波"をどうするかに注力することになりました


 「ふむ。とりあえず計画に特に破綻はないように思える…というよりは、現在これ以上できることはないのか」


 カステラード殿下が地図を睨んでいます。


 「蟻に対峙した経験が小ユルガルムの一件のみですからな、挙動を予測するにも限界が。正教国はずっと西の国からアレを手に入れたとのことなので、新種の魔獣とか言う物でも無いのでしょうが。こういう虫型の魔獣は攻めてきたのはこちらでは初めてですが。まぁ虫なだけに気がつかなかっただけという可能性もありますが」


 この世界、大きい虫というのはそこそこ居るそうです。…遭遇したくはないですが。


 「谷の入り口近くの山の上、こことここに監視砦があります。ぎりぎりまで観測は続けてもらいますが、蟻が見えた時点でここは破棄することになるでしょうな。数匹程度との対峙ならともかく、とても常駐できる場所ではありません」


 峰の上に監視塔を作ってあるそうです。普段はここに兵士さんが交代で詰めていて、北方からの魔獣を監視しているそうです。

 この塔はぎりぎりムラード砦から見えるそうなので、昼は旗、夜は明かりで連絡しているそうです。


 「となると、実際に見えるまでは接近はわからんか… 斥候を出したところであの谷を蟻より速く移動するのは難しいだろう、餌食になるだけだぞ」


 ん? カステラード殿下がレッドさんを見ていますよ。なんですか?


 「クー。 クックッククッ!」


 仕方ないなという感じのレッドさん。様子を窺うようにしていたレッドさんが私の袖を引っ張ります。


 「え?レッドさんいいの? それは助かるわ」


 レッドさんが念話で話しかけてきますした。


 「レイコ殿。小竜神様はなんと?」


 ウードゥル様が聴きとめます。


 「レッドさんが、朝食とお昼ご飯とおやつと夕食の前に、偵察に飛んでくれるそうです」


 「おお。小竜神様の偵察か。情報収集はそれで問題は無くなるな」


 ちょっとわざとらしいですよ、カステラード殿下。

 殿下は、ダーコラ国との国境紛争時にレッドさんが三角州での兵士の場所と人数を正確に観測してきたことを、皆に説明してくれました。


 「そこまで細かく偵察できるのか…」


 「なんで食事時が基準なんだ?」


 単に、三時間に一回程度という意味だそうです。


 「なるほど。"波"の先端が正確にわかるのなら、これは心強いですな」


 「いつ来るかと四六時中気を張るのは疲弊しますからな。来る時間が分かるのはありがたい」


 これだけでも兵達の疲労はだいぶ減るでしょうね。


 「あと、魔獣はマナに誘われて来るって言われてましたけど。…私やレッドさんがネイルコードにいるから湧いてきたって可能性はありますかね?」


 まぁ偶然の可能性もありますが、タイミングが合うってのも気になります。


 「…それならそれで、レイコ殿が魔獣を誘導できるって事かな?」


 「私には、今のレイコ殿のマナはとくに大きく感じられないのだが、マナの塊ってことはそれを糧にする者からすれば存在感は大きいのだろうか?。先ほどの点滅って話は、レイコ殿に当てはまるのか?」


 カステラード殿下も、マナによる身体強化は使えるそうです。騎士としても結構腕が立つそうですよ。


 「私のマナ感知だと、レッドさんを感知は出来ますが、点滅しているようには見えないですね。レッドさんからみて私はどう?」


 「クゥ? クゥ」


 「特に点滅しては見えないそうです」


 「正教国からの調査報告によると、魔獣とは目の前にある食べものならマナの豊富な物の方が好むようだが、マナその物を目指して遠距離の移動をするってことはしないようだ。もし魔獣がマナの大きさだけで誘引されるのなら、まず真っ先に赤竜神の山脈を目指していただろうしな」


 赤竜神…赤井さん自身もマナの塊ですし。彼の制御下にあるマナの量も、たぶんこの惑星…いや星系随一でしょうしね。

 それに多分ではありますが、北の大陸にあるマナの量も相当だと思いますよ。


 私で蟻を誘引できるのなら、いざという時には囮となって街から引き剥がすとか考えたのですが。自力でマナの点滅できるかな? まぁ利用できるかは追々考えましょう。


 というわけで"波"の間、私はムラード砦に詰めることとなりました。



 「一応蟻は資源としても有用ですので。レイコ・バスターとやらは最後の手段ですな」


 蟻の素材は、作業用ヘルメットや眼鏡のフレームだけではなく、鎧や盾の様な防具の一部から装飾品まで、いろいろ用途が模索されています。まんま鼈甲ですね。

 前回の分の蟻でまだ年単位で需要は満たしていますが。今後安定した供給が今後望めるのか?あたりは、産業育成的に大切な問題です。


 「もちろん領の安全が優先ですので。いざとなったら吹き飛しますけどね」


 「ふむ、かたじけないレイコ殿。最初はレイコ殿になるべく頼らずに防衛して見せようと思っておったのじゃがな」


 ナインケル辺境候がちょっとしょぼんとしています。


 「お気遣いありがとうございます。でも、人死にが出てまで踏ん張るところでもないでしょう」


 「領都の雰囲気が多少緩んでいるのはレイコ殿がおられるからでもありますが。レイコ殿がいなくても対処できなければユルガルム領の存続に関わる話ですからな。もちろん油断はせずに挑みますぞ」


 「女の子が最前線に赴くなんて、いくら赤竜神の巫女様でもと今でも思います。以前の小ユルガルムの時には大変なことになったと聞きましたし…」


 アイズン伯爵と一緒に会議を聞いていたターナンシュ様が心配してくださいます。シュバール君もいっしょ。


 「あのときは、早く元を絶たないと街の方が大変でしたから仕方無しでしたけど。今度は大丈夫ですって。間合いさえちゃんと取れれば、むしろ一番安全簡単な手段です」


 「それでも心配させてくださいな。兵や街の者達も、巫女様がいるから大丈夫って浮かれているんですから」


 ナインケル様とウードゥル様が苦笑しています。今回は、彼がウードゥル様が砦の指揮官となります。


 「そうですね。領地全体で蟻も洩らさずとはならないでしょうから、領地の警邏は油断せずお願いします」


 「うむ。もちろん承知しておる。レイコ殿が砦に行ってくれるので、周囲の警戒の方に人が割けてむしろありがたいくらいだ。ターナ、一応楽観はしているが。いざという時には領都を脱出する心積もりはしておいてくれ。身重に心労をかけて申し訳ないが、普段から心構えは忘れんようにな」


 「お腹の子とシュバール、義父さまにユルガルムの民もですが。とうぜん貴方も心配なのです。レイコ様とカステラード殿下の言われることをよく聞いて、危ないことはされないようにね」


 「…だれが子供だかわからんな。ははは」


 仲睦まじいですねこの夫婦も。

 私も子供扱いしないで…って言うところですかね?ここ。


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