第6章第024話 新居に入ります

第6章第024話 新居に入ります


・Side:ツキシマ・レイコ


 朝夕に涼しい風が吹くようになってきました。秋ももうすぐですね。

 というわけで。新居の家財道具やら設備やら内装が一通り終わりました。引っ越しは明日です。


 「「お呼ばれに来ました~~っ!!」」


 引っ越し前日たる今日は、主に建築にお世話になった方々をご招待しての新居完成パーティーです。

 寒くも暑くも無く丁度良い陽気だったので、庭に机を並べてのバーベキューです。マルタリクから工事に参加してくれた人もですが、ランドゥーク商会の関係者もご招待です。

 もちろん、家の冷蔵庫にはエール等の飲み物も大量に冷やしてありますよ。


 北の方で仕留められたという小ぶりなボアを一頭、バーベキュー用に丸ごと買ってあります。

 バラした肉塊をドドンッと並べると、お客さん達から歓声が上がります。小ぶりといっても結構な大きさ。ここに居る人達だけでは食べきれませんね。


 「デザートも用意してあるので。ちょっとだけお腹空けといてくださいね」


 「デザートって何だ? おいしいのそれ?」


 デザートの意味からですか? もちろん美味しいですよ。


 まぁこんな感じですが。どんどん料理していきましょう。参加している女性陣も自発的にお手伝いしてくれます。

 ガテン系の男性が多いので、唐揚げ、フライ、ピザパスタ等の高カロリーメニューがそろいます。新居の厨房が早速の大活躍です。カヤンさんお願いしますっ!

 ボア肉の方は、タレに漬けてバーベキュー方面行き。同様にしょうが焼、衣を付けての豚カツ、ガンガン行きます。

 ハンマ親方がバーベキューコンロで肉奉行しています。肉と野菜を挿した串にタレを追加で塗りつつ焼いてます。


 「ほら小僧! 肉食え肉っ! 頬張って食えっ! こんなに食える機会はそうそう無いぞっ!」


 若い者や一緒に来た家族の子供とかの皿にどんどん肉を渡していますね。ご自分も、冷えたエールを脇に置きつつ、汗だくで肉を焼き続けています。


 「この焼きそばってのはうめぇなっ! …けど、これすぐに腹一杯になっちまう。あぶないあぶないっ、肉食おう肉っ!」


 ラーメンの一件で麺が作れるようになったので、焼き肉の隣に鉄板敷いて焼きそば作っています。ソースは港ソースですが、お肉たっぷりでなかなかに良い感じです。マヨネーズも適度にトッピング。私、これ好きですよ。


 「仕事で来ているのに、ご馳走になってなんか悪いね」


 「ここで食べるななんて酷なことは言いませんよ」


 「…酒を飲めないのが辛いが… そのぶん食うぞっ!」


 エカテリンさんと同僚の護衛騎士の方。警護の仕事中なのでお酒はダメですが、食べ物には全開で挑んでおります。

 カヤンさんは厨房に籠もりっきり。ミオンさんとモーラちゃんも、いろいろ給仕に忙しいですが。合間を見てぼちぼち食べられているようです。もちろん私も手伝っていますよ、焼き肉以外は。

 食べたことが無い食べ物!という人も多いので、いろいろ説明しながら私も食べてます。 イカ焼きなんかは率先して食べています。焼かれたイカゲソを見て怪訝な顔してる人はまだ多いですけどね。美味しいんだけどね。

 カーラさんは、招待客のご家族のご老人なんかと一緒に小さい子の世話をしつつ食べています。お年寄りに優しいメニューを取り分けつつ持ってってあげてます。


 「セレブロさん、でかい肉を貰えて良かったね」


 ボアの脚一本丸ごとをセレブロさんにあげました。マーリアちゃんがナイフで食べやすい感じに切り分けてあげてます。

 セレブロさんを構いたい子供達が、マーリアちゃんの手伝いをして切り分けたお肉を食べさせてあげたりしています。…遠巻きに見ているお母さんが、子供の手が食べられないかビクビクしてたりしますが、セレブロさんなら大丈夫ですよ?



 皆さん、肉肉野菜粉物肉肉という感じのエンドレス状態でどんどん料理を消費していきます。

 同様にエールもどんどんぐびぐび。早速最初の樽が無くなりました。…足りますかね? 家の冷蔵庫には余裕を持って入れてありますが。


 「レイコちゃん、こりゃもう一樽追加で店の方から持ってきた方が良いね」


 「じゃあ私がひとっ走り行ってきますね」


 ファルリード亭の方は、元他の宿屋の人のローテーションに任せています。まぁ樽を運ぶのなら私が適任でしょう。



 さて。日も傾いてきておやつの時間です。

 お腹を空けといてとは言ったのですが。肉と酒で満タンとなり芝生の上でゴロゴロとしているおっさん達… まぁ幸せそうだから良いか。

 子供達は遊んだりセレブロさんに絡まったり。女性陣は飲み物飲みつつテーブルで井戸端に勤しんでおられます。


 おやつは、バニラも使った完成プリンを出していきます。生クリームにサクランボ…は無かったので、マンゴーか桃に似たフルーツを乗せてのデコレーションです。

 あと、これまたバニラを使ったショートケーキですね。イチゴは無いので代わりの果物ですが。

 冷蔵庫から出したので、良い感じに冷えています。


 「お腹に隙間は残っていますか?」


 アイリさんは残念ながら、まだ新婚旅行中でここにはいないのですが。バニラは取ってあるので、帰ってきてから作ってあげましょう。


 「…いや。まだ行ける。まだ入るぞ」


 匂いに釣られて、転がっていたガテン系が何人かやって来ました。


 「これ、プリンってやつよね? 中央通りで貴族の使いの人とかが行列作っていたあのお菓子?」


 流石に女性陣はプリンの価格とかご存じなようで。これを食べないなんてとんでもないと、甘いものは別腹であることを証明していきます。


 「ああ…こんな味だったんだ。やっと食べられた…」


 「甘いわ… 香りまで甘いわ… 口の中で溶けていく…」


 うんうん。じっくり味わって食べてくださいね。



 パーティーが終わるころには皆さん満腹で死屍累々。これからマルタリクに帰らないといけないのに、満腹で動けなかったり酔い潰れた人が大量に出ました。

 ハンマ親方とカンナさんが荷馬車で来ていたので、動けない人達を荷物のように積んでいきました。なんかを出荷しているみたいで、おもわず笑っちゃいましたけど。




 さて次の日。引っ越し当日です。


 私とマーリアちゃんは、宿に宿泊している程度の荷物量です。

 カヤンさん一家も、新ファルリード亭から荷物を移すだけです。旧ファルリード亭が燃えたとき、家財道具はほとんど駄目になってしまいましたからね。比較的無事だった思い出の品を掘り出す程度で、ほとんどは処分したそうです。新宅には据え付けの家具や収納も多いのと、ベッドも新しく入れましたよ。


 タロウさんとアイリさんは、新婚旅行から帰ってきてからの引っ越しとなります。引っ越し準備は結婚式の前に済ませているそうですが、スケジュール的に大変だったようです。



 カヤンさん達キック家の部分、二階建て6部屋+リビングという構造が新居内に収まっている構造です。

 これがもう一軒並んでいて、そちらはアイリさんとタロウさんの新婚宅となります。


 「新ファルリード亭も悪くないけど。やっぱ新築の木の匂いっていいわね」


 「お母さんっ 私、こんな広い部屋いいのかな?」


 ご両親と川の字か、祖母のカーラさんと寝ていたそうです。


 「私には、お手洗いが近いのがありがたいね」


 流石に水回りは一階のまとめたところに配置しないといけないのと。お年寄りには登り降りの無い一階の方がいいだろうということで、こんな感じの構造となっています。


 私の部屋は二階、マーリアちゃんは一階。それぞれ二部屋+リビングですね。

 マーリアちゃんの部屋は、庭に出られる扉もついてまして、セレブロさんが外から直接入りやすくなっています。入り口にはセレブロさん用の足洗い場もありますよ。防犯がちょっと心配だけど、セレブロさんがいるのならという構造です。


 「レイコ、なんかセレブロの為に変な部屋にさせてしまったわね…」


 「セレブロさんの専用の部屋も用意して良かったんだけど。一緒の方がいいみたいだから。ね?」


 セレブロさんはマーリアちゃんにとって家族ですので、流石に外に犬小屋…とはいきません。しかし、人と同じ部屋というのもセレブロさんにとっては住みにくいかも?といろいろ考えました。宿屋で暮らしていた頃は、窮屈そうでしたからね。


 「ずっと一緒に寝起きしてきたから。今更分けられても寂しいわよ」


 結局、夜寝るときはマーリアちゃんの横がセレブロさんの定位置なのです。


 問題はアライさん。


 もちろん、2Lな部屋を一つ当てましたが。当のアライさんは、夜はレッドさんかセレブロさんと寝たいと言っていました。

 わたしより背が低いアライさん、人間サイズの部屋は広すぎて一人で過ごすのはちょっと落ち着かないそうです。


 「ヒャー。いつもかそくてかたまってねていたのてす」


 多分この子は常に誰かと一緒にいるのが好きなのでしょう。エイゼル市に来てからと言うもの、昼間はこの家の居間なりファルリード亭、夜は私かマーリアちゃんのベットで。一人でいることはほとんど無いですね。

 本来のアライさんの部屋は、単なる私物置き場になりそうです。一緒に寝るのは歓迎しますよ。モーラちゃんもせっかく自分の部屋を貰えたのに、結局はセレブロさんのところに通いそうですしね。



 あと。特に報告もありませんが、多分王国の"影"の方達が今もこの家を監視してくれているはずですし。実は一階の共同リビングに一番近い一部屋をエイゼル領の護衛騎士さん達や"影"の人達に使ってもらうことになってます。

 もう護衛と言うより家の中の交番と言った感じです。国や領の戦力をこんな風に使って良いものなのですか?とアイズン伯爵にお聞きしたこともありますが。


 「…その屋敷に大使館が二つ入っているって事は、理解しているのかね?」


 と言われました。はいそうでした。地球大使館とエルセニム国大使館。あと見ようによっては、アライさんも大使ですか?

 だったら貴族街に住めと誘われそうなものですが、その辺は私に忖度してくれているようです。まぁここに新居を構えられたのは、ネイルコード国やエイゼル市の治安がかなり良いってのもありますけど。


 あとこの家は、大げさに言えばシェルターでもあります。

 自覚はともかくとしても、私はこの世界の特異点。私を狙おうという動機を持つ人はけっこういるはずです。それでも今まで目立った動きは無いのは、赤井さん…赤竜神という神が実在する世界だからです。神様が実在するこの世界で赤竜神の巫女に無体しようと行動できる人間はそういません。

 しかし、カリッシュの例のようにそれでも手を出そうとする狂信者も実在します。私に言うことを聞かせるために身近な人を人質に取ろうなんてのも、十分あり得る話です。

 アイズン伯爵周りは流石に貴族ですから、普段から小悪党が手を出せるものではありませんが。非貴族の面々は普通に危ない。だったら、一番危なそうな人達を一箇所に集めてしまえ…ってことです。



 残りの部屋は予備の部屋と客室として使うことになります。

 家二軒と2Lの部屋が六つ。これはもう一軒の家と言うよりアパートと言った方が良いでしょうが。中でさらに分けることで適度にプライバシーもキープされています。親しき仲にも礼儀あり、これ大事。



 そこに自慢なのが共同リビング。吹き抜け四十畳ほどのでかい部屋です。キッチンともカウンターで繋がっていて、多分皆さん普段はここでだべることになりそうですね。

 リビングの一角の六畳分ほどを一段高くしてもらってます。現在、畳の製作をマルタリクに依頼中。冬にはここにこたつも置きたいと企んでおります。もちろんここは土足禁止ですよ。


 共同リビングから直接階段で二階へ行けますし。吹き抜けの二階部分の外にはベランダと、その下にはテラスが。春秋には気持ちいい風が通りそうです。

 ガラスも窓に入れてもらいましたので、凄く明るいです。ただし、リビング以外の部屋にはガラス窓は最低限です。ガラスの価格がと言うより、人が通れるサイズのガラス枠は防犯のために付けていません。簡単に割れてしまいますからね。


 もちろん冷房完備。屋根裏にダクトが這っています。まだまだクーラーの本体はでかいので集合空調となります。マルタリクの職人さんが、屋敷等に最初から空調を組み込む場合の試験も兼ねている…と言ってましたね。

 暖房の方は各部屋にも設置です。こちらはマナ板を使ったストープって感じですね。


 共同リビングには、天井の所にファンがついています。外国でよく見る天井で回っているアレですね。サーキュレーターとして活躍してもらいます。うん、照明と一体化していて、インテリアとしても良い雰囲気です。


 あと。ファルリード亭とまでは行きませんがキッチンもなかなか充実しております。冷蔵室と冷蔵庫も備え付け、なんと換気扇もついてます。

 お風呂もありますよ。浴室だけで六畳ほど。湯船も四人くらいなら脚を伸ばして入れます。


 カリッシュの件を踏まえて防火対策…は木造なので限度がありますが。代わりに避難経路には気を配りましたよ。

 二階の各部屋には、外から見ても分からないけど、内側から蹴飛ばして簡単に外れる壁を一部に張ってありまして、二階から降りるためのロープも完備です。家が敷地も含めて一気に火に包まれるようなことにでもならない限り、逃げるに困ることはないでしょう。

 レンガ積みの耐火室というか耐火押し入れみたいなのも作ってあります。書類とか大切なものはそこにしまっておきましょうということで。人が長時間入ると窒息するので、その辺は皆に注意しておきます。


 うん。なかなか住み心地が良さそうな家になりました。…この時代の家のレベルを超えちゃっていますね。

 風呂や冷房に冷蔵庫は、アイズン伯爵邸と王宮には優先納品されているはずですが。貴族や富豪の邸宅となるとまだ途上と言えますし。これらを最初から組み込むことが前提の家は、ここが初めてです。

 うん、最先端だこの家。


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