第5章第035話 そうだ教都へ行こう

第5章第035話 そうだ教都へ行こう


・Side:ツキシマ・レイコ


 セネバルの街から出発。今日はいよいよ教都到着です。

 リシャーフさん達は騎乗。レッドさんとアライさんはセレブロさんの背に。私とマーリアちゃんは先頭を駆け足です。

 リシャーフさんの馬も、ネイルコード国から結構な強行軍で頑張ってくれました。教都についたらゆっくり休ませてあげたいですね。

 アライさんは、セレブロさんの背中でヒャーヒャー言ってます。レッドさんを抱っこしつつ、セレブロさんのゴルゲットに捕まっています。恐いのかな? と思ったら、面白くてしょうがないとか。表情がまだよく分らないですね。


 「あの丘を越えたら教都よ」


 リシャーフさんが指さします。が…

 丘には小さい砦が建っています。教都の出城でしょうか。そして…その周囲に軍勢が見えてます。街道を塞ぐように展開していますね。

 まぁ突破するわけにも行かず、速度を落しつつ接近しますが。


 「リシャーフ聖騎士団長殿。遠征からのご帰還、ご苦労さまです!」


 赤い鎧の人が出てきました。…今まで一番でかい赤い鎧の人ですね。

 私とマーリアちゃんは、赤い色って時点でジトメですけど。


 「アバ・ベイルル隊長か…この軍勢は何事か? 関の衛兵を全員連れてきたかのような」


 「サラダーン祭司長からのご指示です。赤竜神の巫女様を丁重に連れてこいとのことです」


 「…丁重にお連れするのに、何故軍勢を?」


 「それはもう、丁重にだからですよ。巫女様の武勇伝はよく聞いておりますので。他の赤竜騎士団の団員もお世話になったそうですな。叶うなら私めも一度お手合わせでも…と思ったのですが。…この黒髪のガキが赤竜神の巫女というのは本当ですかな?」


 「貴様! 無礼であろう!」


 「そこのデカい人っ!。赤竜神の巫女様よっ! 貴賓として出迎えろという意味での"丁重"に決まってんでしょ? なに頭の悪い勘違いしてるのよっ?!」


 タルーサさんとトゥーラさんが喝破しますが。


 「…えっ?」


 えっ?じゃねーよ。


 「捕まえてこいとか痛めつけて来いという意味なら、手段を選ばずに捕縛しろとか言ってくるはずでしょ? "丁重に連れてこい"がどうしたら、あなたの解釈になるの?」


 「…赤竜神の巫女様だぞ。貴様なんぞの真贋判断なんぞ誰も求めておらん。教会の方が"赤竜神の巫女様を丁重に連れてこい"と言ったのなら、賓客に対するそれ以外に他にどう言う解釈が出来るというのだ?」


 聖騎士団長のルシャールさんも追い打ちかけます。

 どこまで同僚意識があるのかは知りませんけど、他の赤竜騎士団員がボコられたのには腹を立てているのは分りましたが…


 「フ…フンッ! 他の団員のやつらがどれだけ下手を打ったのか知らんが。確かにこんな小娘にやられたとあっては誇張した報告をせざるを得んなろうなっ! それとも他の強いやつにやらせたのかっ? 俺様がここで化けの皮を剥いでやるっ! 見たところ、女とガキだけのようだが…」


 「…あなた、アバババじゃないの?」


 マーリアちゃんが、付けていたフードを脱ぎます。


 「なっ! マーリアか? なんでこんな所に?」


 「レイコ、私が正教国に居たころにちょっかいかけてきた騎士をボコったって話、したわよね? そのボコった一人がそいつよ。脚の骨折ってやったら、アバババって…はははは。脚はちゃんと治ったようね? アバババ」


 「く…あの時は油断しただけだっ!」


 「手加減してあげただけなんだけどね」


 「ふん! ともかく今はそこの巫女を捕らえていけば私の手柄だ!」


 「丁重に連れて行くって話は?」


 「ふん。逃げ出せないように、丁重厳重にってことだろうっ?!」


 むんずっと、私の襟首を掴んで持ち上げます。 うーん、またこのパターンですか?

  そっとその騎士の手首を掴みます。


 「…アバババ。その子、私なんかよりずっと強いわよ?」


 「えっ?」


 えっ?じゃねーよ。

 ゴキンッ!


 「アバババァァァァァーーッッッッ! 俺様の手がっ!手がっっ!!!」


 襟首は放されたので、すちゃっと着地です。


 「ホント、赤い鎧の人ってハズレが無いわよね。悪い意味で」


 「…面目ないです」


 教都の関の門兵、いわば正教国の顔と言って良いのですが、それがこの有様。リシャーフさんが申し訳なさそうにしています。

 一応隊長のデカ物が手首を押さえて悶絶しているのを見て、他の兵も構えます。…赤いのがまだ何人か居るようですね。


 「た…隊長の援護を! 貴様ら、横列で槍構え!」


 剣を抜いて支持する別の赤い鎧の人。槍を構える前列。遅まきながら弓の準備をする後列。チンタラしていますね。


 うん。射線が通っている良い位置に、別の丘が見えています。レッドさんに索敵の確認をお願いして問題もなし。それでは最小出力でのレイコ・バスターを一発ご披露です。


 ドッコーンっ!


 二百メートルほど先の小さい丘が吹き飛び、黒い煙が立ち上ります。これは結構な範囲から見えるでしょうね。

 アライさんはヒャーヒャー言って喜んでますが。教都の兵達は静かになってしまいました。

 近くに通りがかっていた他の馬車の人も騒いでいます。お騒がせして申し訳ありません。


 「こちらにおわすのは、紛れもなく赤竜神の巫女様である。さらに小竜様もこちらに居られる! どうする? この馬鹿のように教会からの命令を曲解して我らと一戦構えるか?」


 「…教会からの命令を無視して聖女様と巫女様らを襲撃した不埒物の赤竜騎士団員を捉えよ!」


 普通の鎧の人がすぐさま動き、兵達に指示を出していた赤い鎧の人を取り押さえます。


 「な!なにをするっ! 俺を誰だと…」


 厳罰必至な"元"上司に気を使う人は、もういないようですね。

 数人混じっていた赤い鎧の人を一通り捕縛した後、普通の鎧の人が話しかけてきます。


 「あの巫女様…実はこの男へ伝えられていた連絡事項にまだ付帯がありまして…ネイルコード国の王太子、ネタリア外相、アイズン伯爵が正教国に来ておられることを巫女様に伝えるようにという指示が」


 …皆さん、結局ここまで来ちゃったんですか? 時間からして海の方からかな? 私一人、いやマーリアちゃんくらいなら、もう何日も早く着いていたかな。


 「…それは、私に対する人質ってことですか?」


 「賓客として迎賓館におられるとしか書かれていなかったのです」


 リシャーフさんを見ますけど、分らないと首を振るだけです。

 まぁ、アインコール殿下達が動いたとすれば、私達が出発してからでしょうから。ここに詳細を知っている人はいないですね。


 「ともかく。命令には"丁重に"お迎えしろとしか書かれておらず。このまま教会までお越しいただければと…」




 正教国の首都である教都には、城壁があるわけではなく、水路が掘りのようになってまして。跳ね橋と一体化した関が各所にあって、入場者の確認をしています。

 なんか人が大勢出てきていて騒がしいですね。ここから出撃していった赤竜騎士団が、捕縛されて帰ってきて大騒ぎ…と思いきや。あれですね、レイコ・バスターの爆音と雲が、教都の広範囲から見咎められたそうです。

 …それは申し訳ないことしましたね…


 関では、ルシャールさんがゴルゲットを見せて身分を明かします。マーリアちゃんはネイルコード護衛騎士隊のゴルゲット。私は、ネイルコードのギルドのゴルゲット。

 一番効力があるのは、ルシャールさんのゴルゲットですね。案内が着いて、教都の中に入っていきます。


 街全体はネイルコードで言うのなら王都に近い感じでしょうが。中央部に近いほどでかい屋敷が。周囲にはそこそこ裕福な人達が。…スラムは堀の外で、関も含めて完全に分離されています。


 正面には、…城みたいな教会という表現がぴったりでしょうか。礼拝堂思しき荘厳な装飾を施された中央の建物。それを中心に広がる付随した建物が、正面から見るとまるで鳥が翼を広げているかのようです。


 「はぁ…なかなかすごいですね… こんな時じゃ無いのなら、是非見学したいところですが…」


 「レイコ殿に気に入って頂けたならうれしいですね。ここが赤竜教の総本山クラーレスカです。翼を広げたドラゴンをイメージした…なんて話も残っていますね」


 赤井さんがイメージですか。…壁は赤いレンガに見えますが。屋根は緑色ですね?


 「銅板で拭いた直後は、赤い銅の色なのですが。半年くらいで緑色になりますね。薄い銅板なので、五年ごとに張り替えるんですよ」


 なるほど…。赤銅色に輝く屋根。いつか見てみたいですね。




 他にも色々街には古い建物があり。あれは何これは何を繰り返して関から続く大通りを歩いて行くと、城かと思うような作りの教会の門を越えて…案内されたのが…


 ガシャン


 座敷牢でした。


 「だーまーさーれーたー」


 あーもう、草生える。


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