第3章第007話 土木工事に参加します

第3章第007話 土木工事に参加します


・Side:ツキシマ・レイコ


 というわけで。現在は、エイゼル市からちょっと東、街道工事現場に来ております。


 ネイルコード国エイゼル領、この東側はアマランカ領という領だそうです。正確にはアラランカ辺境候とその寄子や派閥の集団の領地という訳ですが。


 平地が少なめで麦を作るのが精一杯だけど、木材や石材を主産業とした領地で、領地の規模としてはエイゼル領の半分ほど。

 エイゼル領が、実体として王領とユルガルム領とで経済圏を共にしているので。仮に対抗するにしても、規模がさらに広がって7倍ほどにもなっていて。アマランカ領側でも無茶な対抗心は見せず。ここも徐々にエイゼル経済圏に取り込まれつつあります。

 ただ、ネイルコード国西の四分の一を占めるあのバッセンベル領からの工作も積極的で。アマランカ領の全ての貴族が迎合するにはまだ至っていないとか。

 それでもエイゼル側としては、平和的に取り込む方向でいろいろ進めています。この街道整備もその一環。森を切り開いて道を作る仕事でございます。道は経済の動脈です。

 ただ。このあたりも北の森から獣やら魔獣が出現することがあるとかで、今回は工事現場の護衛として参りました。 …参ったはずなんですけどね。


 そもそも警戒するだけなら、レッドさんがいれが事足りるわけでして。

 人足の方々が一生懸命木を切ったり根を掘り起こしたりしているのを見ますと、むずむずとお手伝いしたくなりました。


 木を切った後の切り株。本来は、これを取り除くのが木を切る以上に大仕事なんですが。

 とりあえず、その根っこが見える程度に斜めに溝を掘っていただきましてね。少し離れたところから、私が最小出力のレイコ・バスターをドカン! 見事、根は吹き飛んで。あとは、出来た穴を埋め戻すだけ。


 根を掘り返すのは大人10人で一日何個処理できるか?という仕事ですが。それを、溝掘ってドカン!で終了。

 この工事現場の監督官さんに非常に感謝されまして。費用は上と掛け合うから、もっとやってくれ!となりました。私としては特に異存はありません。


 現場を仕切っているのは工事のプロの皆さんです。早速、木を切る者、溝を掘る者、台座に載った私を運ぶ者と手分けされまして、凄い手際の良さです。


 あ、台座ってのはですね。

 根の底を見下ろす溝は斜めに掘られていますから、根を撃つときにはそこそこ近づかないと行けないわけで。私がガンマ線フリーズするほどてもないですが、吹き上がった土砂をざざざっと被ってしまうのです。

 それを見た現場の人が。ほら、バレーの審判席といいますか、プールの監視員席といいますが、そこらの資材で即席でそういう物をちゃちゃっと作ってくれまして。さらに台座の下の方に井の形の棒を付けて、移動時には四人の人足さんたちが神輿のようにわっしょいわっしょいと次の射点まで運んでくれるわけです。

 この台座の高さからなら、私もそこそこ離れたところから根っこを狙えるので、私は土砂で汚れないで済むというお気遣いです。

 もちろん撃つときには、皆さんに一時退避して貰っていますが。私が毎度台座に昇る手間が省けて作業も効率化。次の射点まで、えいやーえいやーとかけ声も高らかに私は運ばれていきます。


 …なんかみんな、変なテンションでハイに成っていませんか? 大丈夫?


 根っこの掘り起こしに時間がかからないと分れば話は早い。ともかく木を切り倒すことを最優先で工事は進みます。予定の五倍の速度で森を抜けられそうだと、監督官さんは喜んでました。


 …工期が短くなったら、人足の人の仕事が減ってしまわないか…と心配したのですが。街道整備はまだまだいくらでもある仕事なので無用な心配。むしろ、一番キツい根堀が無くなるのなら大歓迎!と言われました。




 というわけで。神輿の上からレイコ・バスター最小出力を連射するお仕事を始めて五日ほど経ちました。

 私の体重ですか? この程度なら、0.1グラムも減らないですよ。


 「レイコちゃん、弁当取ってきてやったぜ!」


 昼休み、知り合ったおっちゃんが支給された弁当とスープの入ったカップを持ってきてくれました。

 仮設されている炊事場には、大勢がいっぺんに押しかけるので。私みたいに背が低いと大変なのです。

 おっちゃんもエイゼル市から来ているそうで、この現場近くの宿舎に泊まっているとかで。エイゼル市にいる妻子とは、今は週一くらいでしか会えないとか。

 まぁわたしは走ってエイゼル市から通えるのですが。私を見て、なんとなく面倒を見たくなっちゃったみたいですね。


 ここのお弁当の量、一人分を食べるのはレッドさんと分けても私にはキツいのですね。最近はおっちゃんに食べてもらっています。


 「今日も港サンドなんだけどな。妙に良い匂いがしてるんだよな」


 そう言えば、今日は香ばしい醤油の匂いがしますね。


 「新しい調味料がギルドから提供されたとかで。あとで食べた奴から評判聞いてこいと言われてるんだとさ」


 多分、ジャック会頭かな?

 この醤油の香ばしい匂いは、それだけで集客にも役に立つでしょう。


 「うん、けっこう美味いんじゃないか?この味付け。魚には良く合うな」


 鯖に近いのかな? 脂の乗った魚を焼いてほぐして、出汁で煮た野菜と炒めて。切れ目を入れたコッペパンサイズのフランスパン?それに挟んだのが港サンドです。まぁエイゼル市の港が発祥地だからという単純な命名ですね。

 魚の種類とか野菜は、季節によって変わりますが。まぁとにかく、魚と野菜が具になっているサンドは、全部が港サンドですが。魚が入っているのなら、醤油は合いそうですね。


 「にしても。小竜さまだっけ? 器用に食べるもんだな」


 今日はサンドなので例のカトラリーは使わず、両手で掴んで食べてます。


 「噂を聞いたときには、神様の眷属のドラゴンが巫女様に連れられて街に来た?なにそれ怖いだったけど。そうやってサンド頬張っている分には、かわいいもんだな。ははは」


 「クーっ? モグモグ」


 私が噂の赤竜神の巫女で、レッドさんが小竜ってのは、すでに周知となっております。まぁ私はともかく、レッドさんはごまかしようがないですからね。

 そして、レッドさんが作業中に獣や魔獣の警戒をしてくれていることも、もう皆が知っています。実際、2度ほど鹿タイプの魔獣を撃破しています。…もちろんその後は、終業後に焼き肉祭りです。

 まぁ鹿程度なら皆さんでも普通に倒せるのですが。隙を突かれて森の中から突進を受けてケガ人多数…というのも、珍しい話ではないそうで。安全度が高くなる分には、皆さん細かいことは気にせず居てくれています。この空気はありがたいですね。


 ふう、お腹いっぱい。ということで、作業再開まで皆さんとまったり食休み。

 あ、リバーシやっている人もいますね。周囲に観戦する人が集まってます。見たらやりたくなりますよね。




 …と思っていたら、なにやらエイゼル市方向の街道が騒がしいです。

 なんか豪華な馬車が停まって、降りてきた人と監督官さんが言い争いをしているようですが… いやな予感しかしませんね。


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