第2章第026話 地球大使

第2章第026話 地球大使


・Side:ツキシマ・レイコ


 皆でさらに隣の会議室とやらに移動しました。謁見室と同じくらいの広さで、豪華で大きな石作りの机に、椅子が並んでいます。先ほどより実用的な会議室のようです。

 相変わらず私は、上座的なところに座らされましたが。先ほどの椅子に比べればまだ普通の範疇かな?

 レッドさんにも椅子が供され、私の隣にいます。…こんなところにも子供用の椅子があるんですね。


 「さて、改めてご挨拶を。国王のクライスファー・バルト・ネイルコードだ。となりが妻のローザリンテ。既に面識があるそうだな」


 ローザリンテ様。やっぱ偉い人だったのね。アイズン伯爵嫡男のブライン様が傅いてらしたからね。雰囲気的にも偉い人なんだろうなとは思ってましたけど。


 「様付けはご不快だとも伺っている。国王の立場で巫女様に様を付けないのは、些か憚りがあるのだが、いたしかたない。"レイコ殿"とお呼びしてもよろしいじゃろうか?」


 はい、話が早くて助かります。


 「私は"レイコちゃん"でもいいわよね?」


 ローザリンテ様はマイペースです。はい、ちゃん付けは歓迎です。


 他の方々も紹介していただきます。

 王太子のアインコール様。次男で軍のトップの軍相カステラード公爵。お二人ともご両親によく似ているけど、カステラード様はがっちりしていて、いかにも軍人!って感じかな。戦は数だよアニキ!…よりはずっと男前です。


 グレーな髪の毛で、ちょっと神経質そうなのが宰相のザイル・タフィラ・エッケンハイバー侯爵。

 ちょっとお腹出てるよ、内相のマラート・イルビト・ベスニーフ伯爵。内務大臣ですね。

 細くて暗い雰囲気の、外相ネタリア・ウーラー・ナザレ侯爵。外交担当だそうです。


 あとは、紹介されないけど警護や侍女さんたち。あ、試食の時にローザリンテ様に付いていた執事っぽい人もいる。


 ちなみにこの国では、普通の貴族は侯爵が最上位だそうです。公爵は王族かその親族が、職責に伴い賜る物だそうで、世襲にはなりません。この場の場合、カステラード様がそうですね。

 元は独立した国のトップで、領地をそのまま治めているのは、辺境侯爵。ユルガルムのナインケル様がそうですね。王国では公爵相当として扱われているそうです。

 その下の爵位が伯爵、子爵、男爵。騎士は軍での士官といったところですね。あくまでだいたいの意訳ではありますが。


 「まずはユルガムル領の危機を救っていただいたことに感謝を述べたい。あそこの貨幣鋳造所は、国の経済の要じゃからの。あのままでは蟻に占拠されていたと聞いている。その戦闘の際にレイコ殿も重傷を負われたとか。快癒されななによりじゃが」


 髪の毛は、ほぼ取り戻しました


 「あとはバッセンベル絡みじゃな。領主であるバッセンベル辺境侯爵が伏せっていて、どうにも統制が取れておらんようじゃが。あやつらの暴走を抑えられないのも国王として不甲斐ない限り。不愉快な思いをさせたこと、ここに謝罪いたす」


 ああ…頭下げないでください~。


 「いえ、国王様が悪いとは思っていませんので…」


 「…そう言っていただけるとありがたいがの」


 あれが放置されている状態に国の責任がない…とは言い切らないけど。個人レベルの資質までは管理しきれないよね。


 「さて。ここにお招きしたのも、レイコ殿殿と王国についての今後のことについてじゃが。アイズン伯爵より、平穏に暮らしたいという希望は伺っておる。もちろん、国としてもできるだけ叶うよう配慮はしたいと思っているのじゃが」


 伯爵が話を引き継ぐ。


 「料理や遊戯盤に関わる奉納くらいならまだしもな。ユルガルムで講義した"化学"の知識、あれはこの世界に大きく変革をもたらす知識じゃ。合わせて、レイコ殿の武力、小竜様の象徴としての権威。どれを取っても商人、貴族、他国、教会、これらが放っておかぬ物ばかりじゃ。このままでは平穏とはほど遠いじゃろうな」


 私がうへぇという顔をすると、国王様に苦笑される。


 「我が国で囲い込めればいいのですが。この後来るであろう他勢力の干渉を考えると、一国で扱いきれるのか…というのが、国としての判断なのですが」


 と外相さん。


 「レイコ殿、率直に聞くが。我が国の軍に協力して貰うことは可能だろうか? 小竜様の偵察能力とレイコ殿の…レイコ・バスターと言ったか、あのマナ術があれば、他国の軍隊など物の数ではないだろう」


 ちょっと軽い?と思っていたカステラード様が、真面目な表情で聞いてくる。

 レイコ・バスター、正式名称になったんですね。


 …戦争への介入要請ですか。


 「レイコちゃん。私はレイコちゃんの思うようにしていいと思うわよ」


 うーんと困った顔をしていると、ローザリンテが助け船出してくれた。


 「…はい。もしエイゼル市とかが他国に侵略される!というような状況になったのなら、ほっては置けないと思いますが。他国に侵略するとかは無しですね」


 皆が頷いてくれている。この辺は了解していれているようだ。


 「ただ。他国を煽ったり工作したりして、この国を侵略させて私を駆り出す…というのも無しです。その辺の判断が出来る立ち位置でもありたいです」


 「…やはり防衛を主体とした同盟ですかね?」


 とマラート内相。ん?この辺の問答は想定の範囲内ですか?


 「レイコ殿。国としてレイコ殿の立場を保証し、かつ他国からの干渉を極力防ぐという方法というか地位が一つある。…大使になってみないかね?」


 「大使?」


 「交渉連絡を司り、他国の代表として在国する者の総称じゃな。とは言っても、ネイルコードの大使ではないぞ。聞けば、レイコ殿や赤竜神様の出身の世界は"地球"と言うとか。それでは"地球大使"はいかがだろうか? この国では、我が国で認めた正式な大使ならば、外国人でも伯爵と同等の地位と見なされるし、立場も十全だろう」


 もちろん大使は知っていますが。

 ふーむ。

 この国での地位が自動的に保証されて。それでいていざというときには、この国とは別の存在と見なされると。なるほど。

 私が勝手に地球代表を名乗るのもおこがましいけど、地球を遙か離れて数百光年に数千万年。まぁわたしが騙ってもいいのかな?


 ちょっと悩みましたが。悪いアイデアではないと思いましたので、了承することにしました。

 アースで生まれた地球大使レイコ、爆誕です!




 書類上とは言え、ネイルコード国に地球が国として認められ、私がその代表で。経済、文化、科学、通商、防衛、いろんな分野での"条約"が必要となるそうです。この辺の細かいことは後日相談だそうです。なんか大事ですね、ちょっと早まったかな?

 まぁ、普段私がやることには、変わりはなさそうだけど。

 外相のネタリア様、なんかうれしそうですね。


 ここで、内相のマラート様からご依頼。


 「レイコ様に一つお願いがあるのですが… ユルガルムへの街道での崖崩れについてはお聞き及びかと思いますが。あれにレイコ・バスターをお願いすることは可能でしょうか?」


 タシニでの崖崩れは、まだ復旧の目処が立っていないんだそうです。崩れた崖が未だに不安定なままで小崩落を繰り返してます。いつ再崩落するか分らないそうで、工事もままならないとか。まず崖が崩れるところまで崩れてからでないと危険で手が出せない…と言うのが、現地を調査した土木技師の意見だそうです。

 現状、自然に全部崩れるのを待つしかありません。


 「依頼はとりあえず、ギルド経由の方が収まりが良いですかな? 税が取られますが」


 アイズン伯爵がニヤリとする。お金の流れを考えると、王都からエイゼル市に三割ということですからね。

 わたしはそれでもかまわないですよ。


 了承すると、なるだけ早く差配すると仰りました。秋には間に合わなくても、春までになんとか再開通出来るのなら重畳だそうです。




 「さて。ネイルコード国としては、これまでのレイコ殿の功績に報いないわけには行かない。奉納関連にユルガルムの件も含めてな。なにか欲しいものとかして欲しいことはあるかね? 王都に屋敷とかでもいいぞ」


 うーん。お金とかは足りしているし。屋敷貰ってもしょうがないし。

 そうだ。


 「卵、牛乳、植物油の増産…ってのはありでしょうか?」


 「レイコちゃんの奉納した料理の材料ね」


 試食したローザリンテ様がうれしそうです。そうです、美味しいものには、卵と牛乳と油が重要なのです。


 「ああ、あの魚料理とプリンという菓子か。あれはうちの子たちも大喜びだったよ」


 と、王太子のアインコール様。お子様は、王子とお姫様だそうで。普段は苦手な魚なのに、喜んで召し上がっていたとか。


 「牛と鳥の増産、及び油の取れる作物の耕作地拡張ですな。現状、麦の生産量は需用を十分満たしておりますので。追加の開拓目的と農家の産業育成という面では、有用な選択かと思います」


 内相のマラート様、見かけによらず仕事が出来る感じですか?


 「生産量を絞ったほうが、儲かるんじゃないのかね?」


 とは、宰相のザイル様。まぁ希少価値で値をつり上げるのも手段ではありますが。


 「一人で食べられる量には限界がありますからね。美味しいものはみんなが食べられる方が良いんですよ」


 「…なるほど、レイコ殿はそういう御気性ですか」


 なんか一人で納得していますね。


 「うむ。了承した。将来の人口増加を見込んで、国内でも農地の拡張は続けておるのでな。街に近い麦畑を転用させよう。マラート、農相への指示を頼む」


 「かしこまりました」


 「卵や牛乳の鮮度を保証する法整備と輸送の手配、油を絞るための機材と工場の手配もな」


 アイズン伯爵、流石です。それ大事です。




 あ。あの話もしておかないと。


 「この国への干渉になってしまうかもですが。刑罰における連座を禁止できないでしょうか?」


 「…バッセンベルの件じゃな。話はきいておる。惨いことをするものだ」


 連座というものにも意味はある。血筋を残さないことで、後の蜂起の大義名分を潰しておく。潜在的に家族を人質にすることで、犯罪を抑止する。

 しかし。最蜂起されるのなら、どのみちそのときの施政に問題があるからだろうし。犯罪で連座が適用された時点で、その犯罪自体の抑止には失敗しているのだ。

 まして。サッコの場合は男爵家の三男。血筋云々で郎党を滅するメリットが皆無だ。

 なにより、身内がすでに連座が適用されるような罪を犯していた場合、親族でそれに協力してしまうなんてこともあり得る。これでは防止にはならない。


 「うむ…即施行とはいかぬが。爵位と財産の没収までで済ませる方向で法の改正をすることを約束しよう。…無駄に心労をかけて済まなかったな、レイコ殿」


 「いえ、よろしくお願いいたします」


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