第1章第011話 第三種接近遭遇
第1章第011話 第三種接近遭遇
・Side:タロウ・ランドゥーク
ドラゴンだ。ドラゴンだよな?あれ。
祖父の仕事のユルガルム領行きに、修行だと言われて同行した帰り道。本来通るはずだった王領とユルガルム領を結ぶ街道が、峠道のところで岩山崩落で通れなくなったため、東に三日ほど遠回りの道中。あまり使われない道で整備も悪く、馬車にゆられながら森の中を通過中。おそらくこの森が切れたあたりからだろう、大きな鳥のような物が羽ばたいて飛び立ったのが見えた。
いや、鳥じゃない。鳥の翼は光ったりしないし。角の生えた頭部はこの距離からも分かる。ドラゴンだ。
ドラゴンは、飛び立った地点を中心に何度か旋回している内に、森の中で急停車したキャラバンの真上も通過した。
…遠目でドラゴンと金色の目と合ったような気がした。しかも、ニヤっと笑ったような…
そのあとドラゴンは、西の方向に飛び去っていった。
「アイリ!見たかい? ドラゴンだよっ!」
「…ええ。確かにドラゴンだったわね」
幼なじみのアイリは呆然としている。
飛んでいる音は殆どしなかったためか、単に頭の上には無警戒なのか、馬たちが騒ぐことはなかったが。祖父と護衛達もアイリと同様に驚いている。今までドラゴンを見た者はここにはいないのだろう。
ずっと西にある正教国で、たまに目撃されるという話もある。どうせ、教会の権威を強くするための正教国のふかしだろうとは思っていたが、実際に飛んでいるところを見られるとは…
「ちょっと斥候を出した方がいいんじゃないですかね」
先頭馬車に集まった護衛達、その中の運輸ギルドから派遣された護衛の隊長であるタルタスが、エイゼル領騎士のダンテ様に具申する。
ドラゴンを目撃しただけでも大事だけど。これから進む先から飛び立ったというのなら、そこになにかあるのか、または何も無いのかは確認しておきたいということだろう。
にしても、凄い生き物だった。頭から尻尾の先まで六ベメルくらい?広げた翼は十ベメルくらい? 教会の書物にあるような天を覆うような巨体ではないが。それでもあんな巨体で自在に飛び回るとは。伝承通りの真っ赤な体、輝く翼、神秘的な金色の目。それは、獰猛さではなく知性を感じさせた。
「隊長。僕が行ってきても良いですか?」
僕が手を上げると、祖父が嫌な顔をする。
「大丈夫ですよ会頭。他に何かいたとしても、ドラゴンから逃げ出しているでしょうから。ただ見てくるだけです」
「あたしがトゥックルで行ってこようか?」
アイリが立候補する。
「アイリは鳥に乗りたいだけだろ?」
キャラバンには、商品の1つとしてトゥックルという品種の鳥馬を連れてきていた。休憩時に乗せてもらっていたアイリは、この鳥にゾッコンのようだった。
騎乗用とはいえ鳥なので、馬ほど重たい物は乗せられないが。二本足での走りは機敏なので、軽装備の兵士が斥候によく使う。
「街道を逃げるだけなら、馬の方が早いよ。どうです?隊長」
僕が商会の会頭の孫だと言うことは隊長も知っているので、出し渋りたいところだろうが。キャラバンの中で露骨に贔屓をするわけにはいかないのだろう、隊長も祖父も特に反対はしなかった。
装備は、革の鎧にショートソードといういつもの格好。馬は、護衛騎士の方が足自慢の子を貸してくれることになった。
二名ほど騎士隊からも斥候が出るが、彼らは森の出口のところで広域確認に徹することになる。
ドラゴンが飛び立ったのは、林から出て300ベメルも離れていないところのように見えた。街道の脇には、雑木や背の高い草が多く、曲がった道の見晴らしは良いとは言えない。
馬は常歩(なみあし)で歩かせ、周囲に注意しながら進むと。道の曲がりの先の茂った草で見えなかったところに人影を見つけた。
まさかこんなところに人が…と目をこらすと…それは少女だった。とてもじゃないが、山野を歩くような格好ではない少女が、道脇の岩に腰掛けていた。
白い服に紺の上着とスカート。大きめの背納を背負っている。この辺では珍しい黒い髪は、頭の後ろで1つに束ねているようだ。頭の上?後ろ?には何か赤い物が乗っているが、フードかな?帽子には見えないな。
向こうもこちらに気がついたようで、岩を降り、こちらを眺めている。
「本当に来た。良かった~っ。」
…その子を見てまず最初に思ったのが、賊が手配した囮じゃ無いかと言うこと。無害そうな人間に呼び止めさせて、止ったところを襲撃するなんてのは、ありそうな話だが。魔獣も出没する辺境そばのこの土地で、盗賊稼業は難易度が高いだろう。
僕の住んでいるエイゼル領の領主アイズン伯爵には敵も多い。魔獣だけではなく刺客の襲撃も想定しての護衛騎士の随伴だ。
伯爵自身は今、山地の西側ルートをユルガルム領の護衛によってタシニの街まで向かっている。本来伯爵が乗られるはずだった馬車は、護衛騎士の半分とセットで東側であるこちらのルートだ。護衛騎士がこちらにも着くことで囮にもなっている。
あり得るとしたら、刺客のパターンだろうが。子供の刺客? それでも、一人で襲撃が成功するとは考え辛い。
訝しく思いながらも、それでも周囲に用心しながら接近していく。
その子まで10メートルを切ったところで、少女の頭の上に乗っている赤い物が生き物だと分かった。犬というには耳の形が変だし、後ろで揺れている尻尾は犬の物じゃない。背中にもに何か付いている?
…その正体が分かったところで、僕は馬を飛び降りた。そして、少女に駆け寄り、その前で片膝をつく。
刺客云々の話は、頭から吹き飛んだ。
「赤竜神様の縁者の方とお見受けいたします。この度は、どういった御用向きでこの地に降臨されたのでございましょうか?」
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