第1章第009話 旅立ちの準備です

第1章第009話 旅立ちの準備です


・Side:ツキシマ・レイコ


 さて。チュートリアルも一通り終わったということで。赤井さん曰く、3日後に出発だそうです。

 適切な街道まで連れてってくれるとのことで、そこから町に向かってくれとのことです。

 赤井さん自身が町まで行くわけにはいかないですか… 確かに、ドラゴン来襲!大騒ぎになります。


 どうも赤井さんは、この世界では赤竜神として信仰の対象にもなっているらしく。気晴らしに飛んでいるところを見かけられるだけで拝まれてたりするそうだ。

 このあたりに住んでいることはだいたい知られているようだけど。ここがかなりの僻地ということと、そういった宗教組織から聖域指定されていて、滅多に人は来ないらしい。


 旅立ちの用意として、大きめのリュックを用意してくれた。件のジャージと同じ素材の高耐久な着替えや下着がメイン。いくばくかの衛生用品と、あとは袋に入った数十枚ほどの金貨。目的地の国で流通しているものだそうです。

 金貨ですよ。知り合いに十万円金貨を見せて貰ったことがありますが。まぁ財布に入れて持ち歩こうなんてことは思えない輝きでしたね。


 「この金貨って、どれくらいの価値があるの?」


 「商取引用の大金貨だから。僕たちの感性で言えば一枚十万円くらいかな?」

 地球と同じくらいですか。この袋だけで数百万… 当座の生活費まで用意していただけれるとは恐縮です。


 「大金ではあるけど、何年もつかなという程度だから。さすがに遊んで暮らせるほどにはならないけどね。ただまぁ、玲子君ならすぐ稼げると思うよ。その辺は異世界物の常道という感じでね」


 「…あの。赤井さんとはもう連絡が取れなくなるのかな?」


 スマートフォンとかタブレットの欲しいところだけど。壊れなくても、盗られたり亡くしたら終わりだからね。

 赤井さんは、この星で…というより、ここ数百光年四方でおそらく唯一の知り合いだ。記憶は、死んでからすぐにここに繋がっているので、久しぶりに会ったという感慨は皆無だけど。やはり別れがたい。


 「まぁ、僕なんかに頼らなくても、玲子君ならすぐにやって行けるようになるとは思っているけど。ほんとうにどうしようもないと判断したら、僕の方からコンタクトは取るよ」


 特段の使命も使命感もないまま放り出させるのにも、不安しかないけど。


 「それって、ずっと監視しているってこと?」


 「見てはいるけど、識ていない。録画しているけど再生しないイメージかな。僕自身は見ていないけど、僕の頭の中のAIの部分が観察しているって感じかな。その辺は気にしないでよ。まぁ、そんな気張らずに、チート設定の異世界生活だと思って、楽しんでくればいいよ。いつとはなんとも言えないけど、また会えることは確実だから」




 このあと、今度はレッドさんの能力のお披露目となった。

 私と同じマナの体に、私以上の分析能力。むしろこの子の方がチートだと思うけど。


 いつもの平原に置いてやると、バサッと翼を広げた。コウモリのような骨のある皮ではあるんだけど。折りたたみの関節が一つ多い。背中に付いているときには、折りたたみ傘かというくらいのサイズだけど、広げると左右幅で三メートルはある。

 翼を羽ばたきつつトタタと駆け出すと、いつぞやの赤井さんの翼と同じくボーと光り出す。浮かんだ!と思ったら、あとはスムーズだ。どんどん加速して高度を上げていく。

 鳥のような尻尾があるわけでいないのに、翼だけで器用に操縦?しているようだ。


 一通り飛び回ったら、戻ってきた。私の背中にダイレクト着地。痛いよ、痛くないけど。


 このとき、上空から見た景色が頭の中に浮かんだ。見た映像そのままではなく、適度に抽象化されている。こりゃ地図いらずだね。

 その場から飛び立てないの?と思ったら。その思念が伝わったのか、今度は私の頭の上に上ると、翼を羽ばたき始めた。先ほどとは違い、どんどん羽ばたきの速度を上げていく。バサッバサッだったのが、ババババとなったころ、レッドさんの体がふわっと浮き始めた。

 大型扇風機が、頭の上から吹き下ろしているような物で。周囲はものすごい砂埃やら草やらが舞っている。

 …考えれば分る事だったけど、確かに普段はやらない方が良いね。こりゃ、私の隣でいつもパタパタ浮いているなんて出来るわけない。


 面白いことに、レッドさんにもレイコガンが使えた。強固な肉体とは言え、自衛手段はあったほうがいいよね。

 ただしビームは口から出る。ドラゴンらしくて良いじゃん…と思ったけど、マイクロ波やメーザーだから全く見えない。それでも命中させるのは、私より上手だね。


 レイコはもっと練習が必要というイメージが来る。残りの日数、一緒に練習しようね。




・Side:アカイ・タカフミ


 レッドさんか。まぁ安直な命名だけど、悪くは無いか。


 玲子君もすでに理解しているようだが、レッドさんが見聞きした情報も、常にこちらに送られてくる。

 情報は貯められるだけで、特別なことでも起きない限り、僕の意識が直接認識することはしないので、プライバシーにまで踏み込むことはしないけど。


 子供の姿の玲子君を一人でこの星に放り出すのには、どうにも抵抗感があるので、マスコット的なドラゴンを作ってみた。対話も出来るしいろいろ便利。お供としては申し分ないだろう。

 他の動物の形態でも良かったかもしれないが。この世界の人々に対して、彼女が特別であることの証拠にはなる。子供一人だけだと、トラブルの元だからね。


 まぁ、ドラゴンの子供が一緒にいるということがトラブルの元になるかもしれないけど。じっと見れば特別な動物だと分る、でもできるだけ目立たないように、そんな行動を取れるようになっている。知らない人の前ではおとなしくしているというくらいだが。人見知り設定だね。

 玲子君の能力なら、その辺も上手く裁けるだろう。


 …これから何年、一緒に過ごしていくのかは分らないが。仲良くやっていくことを祈っているよ。




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羽が光るのは、プラズマアクチュエータという技術が元になっています。現在では、せいぜい気流の剥離を抑える高揚力装置の一部という感じですが。

赤井さんやレッドさんは、これを推力にも使えます、と言うことにしています。

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